「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の平成29年改訂のポイント
2017年8月1日
第1 はじめに
平成29年6月5日、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「本準則」)の改訂版が公表されました。
本準則は、取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的に、電子商取引、情報財取引等に関する様々な法的問題点について、関連諸法令がどのように解釈・適用されるのかに関する指針を経済産業省において策定したものです。本準則の概要及び改訂(平成25年・平成26年・平成27年)のポイントについては、以前の当事務所コラム(※)にて解説しておりますので、そちらをご参照ください。
(平成25年改訂)
https://www.foresight-law.gr.jp/column/newcase/140301.html
(平成26年・平成27年改訂)
https://www.foresight-law.gr.jp/column/newcase/151001.html
本準則の平成29年改訂では、取引環境の変化に応じた改訂と法改正等に伴う改訂がありましたが、今回は前者の改訂のポイントを解説します。
第2 改訂のポイント
1 アプリマーケット運営事業者の法的責任
(1) 今回の改訂では、アプリマーケット運営事業者の法的責任について新たに見解が示されました。
そもそも、アプリマーケットとは、アプリ流通のためのオンライン上のサービスのことをいいます。
アプリ提供者は、アプリマーケットにアプリをアップロードし、利用者は、アプリマーケット上で、複数のアプリ提供者が提供しているアプリのうちから、必要だと思うアプリを選び、これを有償ないし無償でダウンロードして利用することになります。
本準則では、アプリマーケット運営事業者の法的責任を、①利用規約の内容等によりアプリマーケット運営事業者が利用者との間で取引当事者と解される場合と、②取引当事者と解されない場合に分けて検討しています。
(2) ①取引当事者と解される場合
まず、本準則では、①取引当事者と解される場合には、対価を払って特定のアプリをダウンロード等した利用者に対して、当該アプリに関する表示が事実と異なることを理由として、錯誤(民法95条)により契約が無効であるとしてアプリの対価として支払った金員の返還義務を負うことがあるほか、債務不履行による損害賠償(民法415条)の責任を負うことがあるとの考えが示されました。
なお、アプリマーケット運営事業者の利用規約において、アプリマーケット運営事業者はアプリの内容には責任を負わない旨の免責規定が置かれている場合があります。
しかし、このような規定は、消費者契約法第8条第1項に抵触する可能性があり、アプリ利用者が消費者である場合には、全面的に責任を負わない旨の条項は無効とされる可能性がありますとの考えも示されています。
(3) ②取引当事者と解されない場合
②取引当事者と解されない場合であっても、アプリマーケット運営事業者は、アプリマーケットの利用に関し、アプリ利用者との間で、アプリマーケット利用契約を締結している場合が多いと思われます。
このような場合につき、本準則では、アプリマーケット運営事業者には、アプリマーケットを設置・運営し、アプリ利用者の利用に供しているものとして、当該アプリマーケットの安全を図ることにつき一定の付随義務が認められる場合があるとの考えが示されています。
本準則では、かかる付随義務が認められる場合として、アプリマーケット上で、アプリ提供者によるアプリの説明に明らかな詐欺・誇大広告等が多数継続的に存在する状態において、アプリマーケット運営事業者がこれを知っているか、外部からの明確な指摘がある等知っていて当然である状態であるにもかかわらず合理的期間を経過した後も放置する場合が例示されています。
この場合には、当該アプリの説明を信じてアプリの購入にかかる取引を行ったアプリ利用者には、アプリマーケット運営事業者に対して、アプリマーケット利用契約に基づく付随義務の不履行を理由とする損害賠償請求が認められる可能性が高いと考えられます。
2 シェアリングエコノミーと兼業・副業に関する就業規則
今回の改訂では、シェアリングエコノミーに関する法的な留意事項につき新たに見解が示されました。
そもそも、シェアリングエコノミーとは、個人等が保有する活用可能な資産(スキル等の無形のものも含みます。)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等にも利用可能とする活動のことをいいます。シェアリングエコノミーの代表的なサービス内容として、住宅を活用した宿泊サービスを提供する民泊サービスや個人の専門的なスキルを空き時間に提供するサービス等、様々なサービスが登場しています。スマートフォンや SNS の普及を背景に、今後、シェアリングエコノミーサービスの活用の増加が見込まれています。
シェアリングエコノミーサービスの提供者は個人であることが一般的であり、労働者として会社に勤務する者も多いと思います。他方、会社では、就業規則において従業員の兼業を原則禁止することが広く行われているため、かかる兼業の禁止との関係が問題になります。
この点、本準則では、仮に就業規則において兼業を禁止していたとしても、その兼業の内容が会社の経営秩序を乱す恐れがない場合や使用者への労務提供に格別の支障を生じさせない場合には、兼業禁止規定の効力が及ばないとの見解が示されています。
上記の経営秩序を乱す恐れがないか等の判断については、個別のサービス内容を踏まえ、①競業関係にならないか、②秘密保持義務違反にならないか、③利益相反行為にならないか、④使用者の対外的信用を毀損しないか、⑤総労働時間が過重なものになってしまわないか等が考慮されると思われます。
3 自動継続条項の有効性
本準則では、オンライン販売における自動継続条項の有効性に関して、新たに見解が示されました。
自動継続条項とは、当初の契約期間を経過した後も、特に利用者からサービスの提供を終了したい旨の連絡がない場合、自動で契約を更新する条項のことをいいます。
本準則では、利用者がサービスの提供を申し込んだ際に、容易に自動更新条項を確認しやすい状況にあり、そのうえでこれに同意する意思が表示されている場合には、無効とならない可能性が高いとの考えが示されました。
具体的には、サービスの申込画面上に自動継続条項が記載された利用規約が表示されている場合には、容易に確認しやすい状況といえ、他方、申込画面にはその記載がなく、サイト内の利用規約のみに記載があるものの、申込画面からリンクされていない場合等には自動継続条項の内容を容易に確認できたとはいえないため、無効となる可能性が高いとの考えが示されています。
なお、仮に利用者が申込時に自動継続条項の内容を確認できたとしても、自動継続を停止する連絡手段や期間が不合理に限定されている場合等には、自動継続条項の有効性に疑義が生じえますので、注意が必要です。
4 オンライン懸賞企画の取扱い
(1) オンライン懸賞企画(インターネット上のサービスにおける懸賞企画のことをいいます。)については、改訂前の本準則においても、景品表示法の規制の範囲に関し見解が示されていました。今回の改訂では、近時、SNSやスマートフォンのアプリ上でも懸賞企画が行われるようになってきたことを受け、これらの懸賞企画についても新たに見解が示されました。
そもそも、景品表示法は、①顧客誘引の手段として、②取引に付随して提供する、③経済上の利益を「景品類」とした上で(同上2条3項)、これを規制の対象としています(同法4条)。
ここでいう②「取引に付随」する場合とは、典型的には、購入を条件として提供する場合が該当するほか、例えば、商品のラベルに記載したクイズの正解者に提供する場合や小売店が自己の店舗への入店者に対して提供する場合など、取引に関連して提供される場合には「取引に付随」した提供に該当すると考えられます(取引付随性)。
(2) SNS上の懸賞企画について
今回の改訂では、SNS上の懸賞企画に関しては、SNS
の登録が無料であり、会員数やアクセス数を増やすことを目的とした懸賞企画の場合には、インターネット上の懸賞企画の一態様として、取引付随性はないと考えられるとの見解が示されました。
他方で、SNS
における懸賞企画であっても、有料サービスの登録をした会員のみが参加できる懸賞企画のような場合には、サービス購入を条件として提供する経済的利益に他ならず、取引付随性が認められ、景品表示法の規制の対象との考えが示されています。
(3) アプリ上の懸賞企画について
また、アプリに関しては、無料アプリをダウンロードしてインストールさせる懸賞企画、さらにはアプリを無料でインストールさせた後にユーザに一定の行為(アンケートの回答等)を要求する懸賞企画の場合でも、原則として、景品表示法の規制の対象とはならないとされています。
他方で、有料アプリのダウンロードや無料アプリのアプリ内課金が応募の条件となる懸賞企画は、取引付随性が認められるので、景品表示法の規制の対象となるとされ、このような懸賞企画において、金銭の代わりにアプリで使える各種ポイント、ゲーム内の仮想通貨を提供する場合も「景品類」に該当するので規制は免れないとされています。
第3 最後に
本準則はこれまでも新たなビジネスモデルに対応した改訂がなされており、今回の改訂でも、シェアリングエコノミー等近年登場したビジネスモデルに関する法的見解が示されています。そのため、情報通信技術関連のビジネスに関しては、その法的リスクを把握する意味でも、本準則の内容を一読しておくことは非常に有益です。
本準則の内容や改訂状況、又は本準則に照らした新たなビジネスモデルの法的リスク等についてご不明な点等がありましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
以上