「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」の平成27年改訂(及び平成26年改定)のポイント

第1 はじめに

 平成27年4月27日、「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(以下「本準則」)の改訂版が公表されました(以下「平成27年改訂」)。
 本準則は、取引当事者の予見可能性を高め、取引の円滑化に資することを目的に、電子商取引、情報財取引等に関する様々な法的問題点について、関連諸法令がどのように解釈・適用されるのかに関する指針を経済産業省において策定したものです。本準則の概要及び平成25年改訂のポイントについては、以前の当事務所コラム(※)にて解説しておりますので、そちらをご参照ください。

 本準則は、電子商取引、情報財取引等に関する法的問題点を検討するうえで大変参考になるものですので、本稿では、本準則の平成27年改訂のポイントを解説します。なお、本準則は平成26年にも改訂されておりますので(以下「平成26年改訂」)、同改訂の主要なポイントも併せて解説することとします。

第2 改訂のポイント

1 平成26年著作権法改正(出版権関係)を受けた修正(平成27年改訂)

 平成26年の著作権法改正は、電子書籍等の電子出版物に関する出版権の設定等に関する規定を整備するものでした。同改正を受けて、本準則にも、電子出版物の出版をしようとする者(出版社等)は著作権者から電子出版物の公衆送信について出版権の設定を受けられること(著作権法79条1項)、出版権の設定を受けた出版社等は、著作権者の承諾を得て、配信事業者に対して電子出版物の公衆送信を許諾することができること(同法80条3項)、配信事業者が電子出版物について配信権限を失った場合はもちろん、出版社等がこれを失った場合にも原則として配信事業者は電子出版物を再配信できないこと等が追記されました。

2 新たな裁判例に伴う修正(平成27年改訂)

(1)児童ポルノ公然陳列罪の成立に関する裁判例(最高裁平成24年7月9日決定)

 児童ポルノ画像のURLを、(URLの一部を改変した上で)自身が運営するウェブサイト上で公表した行為につき、児童ポルノ公然陳列罪で有罪とした最高裁決定を受け、同決定を紹介する追記がなされました。なお、この事案は、児童ポルノ画像そのものではなく、当該画像を掲載するウェブサイトのURLを掲載する行為が「公然と陳列した」と言えるかが争点となった事案であり、本決定には、URL情報の公表まで処罰範囲を拡大することは罪刑法定主義に違反する旨の反対意見も付されている点に注意が必要です。

(2)著作権侵害が行われているウェブサイトにリンクを張る行為に関する裁判例(大阪地裁平成25年6月20日判決、東京地裁平成26年1月17日判決)

 大阪地裁平成25年6月20日判決は、著作権者がアップロードした動画につき第三者が無断で再アップロードしたウェブページのURLを、自身が運営するウェブサイト上で公表する行為につき、公衆送信権侵害に当たらないとし、当該第三者による著作権侵害に対する幇助の成立も否定した裁判例です。
 他方、東京地判平成26年1月17日判決は、違法に著作物をアップロードしたウェブページのURLを公表したという点では上記大阪地裁判決と同様の事案につき、同判決とは逆に公衆送信権侵害を認めた判決です。もっとも、この判決では、URLを公表した者が、違法に著作物をアップロードした者と同一人であるか、少なくともアップロードした者と共同して主体的に原告の公衆送信権を侵害したものであるという特殊な認定がなされている点に留意が必要です。
 通常は、本準則でも既に言及されているように、リンクをクリックしても、リンク先のウェブページのデータは、リンク先のウェブサイトからユーザーのコンピューターに直接送信されるのであり、リンク元のウェブサイトに送信されるわけではなく、蓄積もされないため、リンクを張る行為自体は、原則として、著作権(公衆送信権、複製権)を侵害しないと考えられており、上記東京地裁判決のように特殊な認定を介さない限りは、著作権侵害が肯定される可能性は低いと考えられます。ただし、リンクの法的な意義については、必ずしも明確な理論が確立されているわけではなく、リンクの態様等によっては著作者人格権侵害の問題が起き得る旨の指摘も見られるところであり、このリンクの問題については、さらなる議論の深化が待たれるところです。

(3)口コミサイトへの情報掲載に関する裁判例(札幌地裁平成26年9月4日判決)

 飲食店等の口コミ情報を掲載するためのサイトを開設すること自体につき、掲載される飲食店等が掲載に反対していたとしても、当該飲食店等の名称についての人格的利益の侵害等に該当せず適法とされた裁判例が追記されました(いわゆる「食べログ」事件)。
 この事案では、法人である飲食店が人格権に由来する名称権等を主張して、自己の店舗を掲載しないよう求めたのに対し、法人であり広く一般人を対象にして飲食店営業を行っているのであるから、個人と同様の自己に関する情報をコントロールする権利は認められない等として請求が棄却されました。本判決の理由付けからは、法人ではなく個人事業主である飲食店の場合には、個人の自己情報コントロール権を根拠に削除を求める余地が残されているようにも読め、依然としてケースバイケースの判断が必要であると思われます。ちなみに、念のため付言すると、仮に口コミ内容が飲食店に対する名誉毀損を構成するようなケースでは、口コミの投稿者のみならず、これを放置した口コミサイト運営事業者の不法行為責任が認められるケースがあり得ることに変わりはありません。

3 デジタルコンテンツに関する論点の追加(平成26年改訂)

 平成26年改定では、インターネットを通じて提供されるオンラインゲーム、電子出版物、音楽、動画等のデジタルコンテンツにまつわる法律問題に関する記載が新たになされました。
 この点が平成26年改定の最大のポイントですので、以下ご説明します。

(1)デジタルコンテンツのインターネット上での提供等における法律問題について

 デジタルコンテンツについては、自分が正規に代金を払って取得したものであれば自由に処分できる、無償であれば無許諾でインターネット上にアップロードしても問題ない、などの誤解が一部に見られることから、正規に購入しようが、また、無償で提供しようが、権利者の許諾なくアップロードする行為等は、著作権侵害を構成し得ることが確認的に追記されました。

(2)デジタルコンテンツ利用契約終了後のデジタルコンテンツの利用

  •  デジタルコンテンツの利用契約の終了(特に事業者によるサービス終了)に関しては、事業者が定める利用規約等に定めがあればこれに従うのを原則とする考え方が示されました。問題は、利用規約等に定め(「事業者の都合でいつでもサービスを終了できる」等)がない場合ですが、本準則では、デジタルコンテンツ利用契約が継続的な契約であることに着目し、解約申入日から相当期間が経過した後に契約が終了することを認める民法の一般原則(民法617条1項〔賃貸借契約〕、同627条1項〔雇用契約〕)に照らし、事業者が、十分な周知期間を置いてサービスの提供を終了させた場合には、周知期間の経過後にデジタルコンテンツ利用契約が終了し、サービスを終了しても事業者の債務不履行とはならない可能性がある(逆に、十分な周知期間を置かずにサービスを終了させた場合には、デジタルコンテンツ利用契約は終了せず、事業者の債務不履行責任が生じる可能性がある)との考え方が示された点が注目に値します。
     実務上も、サービス終了時には十分な周知期間を置くのが通常かと思われますので、このような実務上の扱いに一つの理論的裏付けを提供するものと評価できます。
  •  また、本準則では、利用契約終了後のデジタルコンテンツ利用の可否についても、利用規約等に定めがあれば原則としてこれに従う旨の考え方が示されました。他方、利用規約等に定めがない場合については、ストリーミング型とダウンロード型でそれぞれ分けて検討しています。
     すなわち、ストリーミング型の場合、デジタルコンテンツ利用契約が終了していれば、サービス終了以降事業者がストリーミング配信サービスを提供しなくても債務不履行と評価されることはないとされました。
     そして、ダウンロード型の場合には、デジタルコンテンツ利用契約が終了していれば、ユーザーが再ダウンロードを求めることはできない(ここまではストリーミング型と同様です)との見解が示された後、さらに続けて、デジタルコンテンツ利用契約終了後に、ユーザーがデジタルコンテンツの利用を継続できるか、それとも消去等しなければならないかというダウンロード型独自の問題について検討が加えられています。本準則では、この点につき、事業者が契約終了後の処理に関する具体的な規定を利用規約等に置くことができたのに置かなかった以上、契約終了による不利益は事業者側が甘受し、ユーザーは、その手元にあるデジタルコンテンツを返還ないし消去する義務を負わないと解すべきであるとの考え方が示されています。

(3)電子出版物の再配信義務について

 電子出版物を購入したユーザーがデバイスを買い替えたような場合に、配信事業者が電子出版物の再配信を行う義務があるかという問題について、本準則では、原則として利用規約等の定めに従うとされつつ、利用規約等に定めがない場合には、電子出版物配信サービスの内容、配信事業者による配信サービスの説明状況、配信された電子出版物の価格、電子出版物に対する一般利用者の認識等の諸般の事情を考慮して、利用規約等の合理的意思解釈や黙示の合意の成否を判断するとの判断手法が示されました。
 この他、デバイスのOS等がバージョンアップされた場合に、閲覧アプリのアップデートを行う義務があるかといった問題や、電子出版物の配信事業廃止後の再配信義務の問題、配信事業者が配信権限を失った場合の債務不履行責任の成否等についても検討が加えられています。

(4)オンラインゲームにおけるゲーム内アイテムに関する権利関係

 本準則では、オンラインゲームにおけるゲーム内アイテムについて、ユーザーに「所有権」があるとの誤解が見られることから、所有権は有体物にのみ観念でき、データにすぎないアイテムには観念できないことが確認されました。もっとも、特にオンラインゲームの提供やアイテムの提供が有償である場合については、ユーザーが事業者に対して契約に基づく一定の権利・法的保護に値する利益を主張し得る可能性があることも併せて確認されています。
 以上の理解を前提に、本準則では、「ユーザーが有償でアイテムを取得した直後にサービスが終了した場合」について、次のような記載がなされている点が重要です。すなわち、この場合には、たとえ利用規約等においてアイテム購入代金の返金義務を否定し、かつ事業者の損害賠償責任についての免責規定が置かれていたとしても、事業者がサービス提供終了直前に有償アイテムを購入するユーザーが存在することを認識し又は認識できた場合には、故意又は重過失があるものとして、消費者契約法8条1項により、免責規定が無効となり、事業者に損害賠償責任等が生じる可能性があると言及されました。他方で、有償アイテムを利用するのに十分と考えられる猶予期間を設けてサービス停止の告知がなされたような場合には、ユーザーは当該有償アイテムをゲームにおいて利用する機会を得ており、事業者のユーザーに対する返金義務や損害賠償責任は生じないと考えられるという考え方が併せて示されました。これらの視点は、実務上の指針ともなり得る重要な指摘です。

第3 最後に

 念のため申し上げると、本準則は、電子商取引と情報財取引についての様々な法律問題につき、一つの法的見解を提示するものにすぎず、法的拘束力はありません。しかしながら、本準則は、学識経験者、関係省庁、消費者、経済界などの協力を得て、経済産業省が現行法の解釈について一つの考え方を提示しているという背景もあって、最新技術に対応した法改正が追い付かないような場合等には、実務上大変参考になるものです。今後も、新しいビジネスモデルに対応した改訂が順次なされていくものと思われます。
 当事務所では、法改正が追い付いていない新たなビジネスモデルの法的リスク等についてであっても、本準則も参考にしたアドバイス等を行うことが可能ですので、お悩みの際は当事務所にお気軽にご相談ください。

以上