「社外取締役の在り方に関する実務指針」の公表

第1 はじめに

 経済産業省は、2020年7月31日、「社外取締役の在り方に関する実務指針」(以下「本指針」といいます)を公表しました。

 上場企業において社外取締役を選任するケースが急速に増加している一方で、社外取締役について、形式的な導入にとどまっている、役割が明確になっていない等といった指摘もあるところです。
 そのような中で、コーポレートガバナンスを形式的なものから実質的なものへと深化させるために「その中核となる社外取締役がより実質的な役割を果たし、その機能を発揮することが重要である」、との問題意識から、本指針が策定されるに至りました。

 本指針は、会社法及びコーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえつつ、社外取締役の役割や取組について実務的な視点から整理するものであり、コーポレートガバナンス・コードを実践するための実務指針として位置付けられています。

第2 現行法上の社外取締役の位置づけ

  •  そもそも、社外取締役については、その要件として、当該会社及びその子会社における業務を執行していないこと等が定められ(会社法第2条第15号)、社外者として経営陣から独立した立場から、経営(経営陣による業務執行)の監督を行う役割が期待されています。

  •  本稿の公表時点(2021年1月1日)で施行されている現行会社法では、上場会社等が社外取締役を置いていない場合、定時株主総会における説明義務が課されています(現行会社法第327条の2)。


     そして、令和元年改正会社法において、上場会社等は社外取締役を置くことを義務づけられることになり(改正法第327条の2)、より社外取締役の役割が重要視されつつあります。
     また、コーポレートガバナンス・コード【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】では、上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとされ、また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきであるとされています。

第3 本指針の概要

  •  社外取締役の役割及び心構え


     本指針は、まず、以下のとおり社外取締役としての5つの心得を列挙し、その内容を解説しています。

    • ≪心得1≫

      社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEO の交代を主導することも含まれる。

    ≪心得1≫でいう経営の「監督」は、経営陣による業務執行が暴走しないようにブレーキをかけるという「守り」の意味だけでなく、会社の持続的な成長を実現するための「攻め」(適切なリスクテイクに対する後押し)の意味での監督も含まれるとされています。他方で、「非業務執行」という立場から、社外取締役が日常の業務執行に過度に細かく口を出すことには慎重であるべきと指摘されていることにも、留意が必要です。

    • ≪心得2≫

      社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである。

    ≪心得2≫について、本指針では、独自の「社内の常識」が形成されやすいことに鑑み、社内の常識にとらわれず、特定の部署に肩入れしない全社レベルの視点で、会社の意思決定の妥当性をチェックしていくことの重要性が指摘されています。独自の社内の常識が不正の温床となるケースもあるため、この点は確かに重要な留意点といえます。

    • ≪心得3≫

      社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。

    本指針策定にあたって実施された社外取締役向けアンケート調査によれば、社外取締役選任時に、「社長・CEO主導で指名された」との回答が65%、「社長・CEO 以外の社内取締役主導で指名された」との回答が12%となっています
    本指針では、上記のように経営陣と親しく、経営陣から頼まれて就任した社外取締役についても同様に、あくまでも独立した立場から経営陣を監督することが役割であることが強調されています。

    • ≪心得4≫

      社外取締役は、社長・CEO を含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。

    ≪心得4≫について、本指針では、「監督者」として一方的に自分の考えを述べるのではなく、経営陣の話をよく聴き、自分の意見に対する反論にも真摯に耳を傾ける謙虚な姿勢が望まれるとされています。一般論に終始し、会社の状況を直視しない姿勢は確かに社外取締役の適格性の観点で問題といえます。

    • ≪心得5≫

      会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。

    ≪心得5≫について、本指針では、会社と経営陣や支配株主等との利益相反が生じ得る場面の例として、MBO(マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応、支配株主等との取引等が列挙され、このような場合には平時よりも踏み込んだ対応が求められると指摘されています。

  •  社外取締役としての具体的な行動の在り方


     本指針では、上記に記載した社外取締役の各心得を踏まえて、社外取締役の具体的な行動の在り方を示しており、参考になります。
     本指針では、以下のような取り組みが一例として列挙されています(ほかにも本指針では参考になる取り組みが記載されています)。

    • 就任時の留意事項

    経営陣との間で、社外取締役としての自身の役割を確認し、すり合わせを行う。
    • 取締役会の実効性への働きかけ

    • 議題の選定(アジェンダセッティング)への提言を行う(上程されていない事項を議題に選定するよう促すだけでなく、議題の絞り込みについても提言する)。

    • 議題に関する情報の事前共有を充実させるよう促し、取締役会における議論の活発化を図る。

    • 社外取締役が率先して発言や質問を行うことにより、他の取締役の発言も促す(形式的な話し合いで終わらせないようにする)。

    • 経営陣の指名・報酬への関与

    • 適時、適切な社長・CEO の交代を行うための前提となる、後継者計画の策定と運用を促す。

    • 長期間連続した業績低迷や組織ぐるみの大規模な不祥事発生の場合において、社長・CEOの不再任等を検討する際に主導的に積極的な役割を果たす。
      こうした場合に、社外取締役が躊躇することなく議論を行うために、あらかじめ社長・CEO の不再任等について検討を行うべき場合の基準を定め、その基準に基づき検討を始められるような仕組みを構築するよう促す。

    • 企業理念や経営戦略に基づく中長期的な経営目標(KPI)と整合的な報酬設計になっているかを確認する

    • 取締役会以外の場でのコミュニケーション

    • 社外役員のみでの議論の場を設ける。

    • 取締役会の時間的制約に鑑み、取締役会以外のインフォーマルな議論の場を設ける。

    • 経営陣とのコミュニケーションを充実させる(コーポレートガバナンスへの理解等を促す)。

     なお、本指針では、会社側が構築すべきサポート体制・環境にも言及され、例えば、経営の監督に必要な情報に社外取締役がアクセスできるよう環境の整備を行うべきこと等が述べられています。

第4 最後に

 本指針でも意識されているとおり、会社のコーポレートガバナンスにおいて今後ますます社外取締役の役割が重要となります。当事務所では、社外取締役に関するご相談を含め、会社法上の問題に対し幅広く対応しております。お悩みの際は当事務所にお気軽にご相談ください。

以上

  1. 「社外取締役の在り方に関する実務指針」
    https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731004/20200731004.html
  2. 厳密には、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって、有価証券報告書の提出義務を負う会社を指します(現行会社法第327条の2)。
  3. 令和元年12月4日に公布されており、一部の改正を除き、公布日から1年6月以内の政令で定める日に施行予定です。
  4. https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000000xbfx-att/nlsgeu0000034qt1.pdf
  5. 参考資料2(https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200731004/20200731004-3.pdf
  6. 監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社における任意の指名委員会・報酬委員会の設置については、2018 年 6 月のコーポレートガバナンス・コードの改訂により原則化されて以降、対応する企業が増加しつつあります。
  7. 令和元年改正会社法では、取締役の個人別の報酬の決定方針を定めることや、その概要の開示が求められるようになること等にも留意が必要です。