株式交付制度の創設

1 概要

(1)定義

 株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。)(※)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいいます(会社法2条32号の2。以下「法」と略します。)。
 (※)総議決権の50%超とされる予定

出所:法務省民事局「会社法の一部を改正する法律の概要」

(2)創設された背景

 買収会社がその株式を対価として他の会社(被買収会社)を買収しようとするときには、株式交換を用いることが考えられます。
 ただ、株式交換において、買収会社は、被買収会社の発行済株式の全部を取得する必要があるため(法2条31号)、被買収会社を完全子会社とするのでない限り、この方法は使えません。
 被買収会社を子会社にはしたいが完全子会社とまではしない、という場合には、買収会社の株式募集において、被買収会社の株式を現物出資するという方法も考えられます。
 しかし、原則として検査役の調査が必要であり(法207条)、その手続に時間とコストを要します。また、この募集株式の引受人である被買収会社の株主や買収会社の取締役が財産価額填補責任を負う可能性もあることから(同法212条、213条)、使い勝手としてはよくありません。
 このような問題点を解消すべく、2019年12月4日に成立した「会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)」において、株式交付制度が創設されました。

(3)改正法の施行日

 現時点で定まっていませんが、公布の日(2019年12月11日)から1年6ヶ月以内の日とされています。

2 手続

(1)株式交付は、部分的な株式交換による被買収会社株式の取得という側面と、被買収会社の株主からの被買収

会社株式の有償譲渡又は現物出資という側面とを併せ持つことから、買収会社(=株式交付親会社)では、株式交換と同様の各手続のみならず、被買収会社(=株式交付子会社)株式の譲渡しの申込み、承諾及び債務の履行(譲渡の目的物の給付)といった手続が必要となります。
 具体的には、おおむね以下のとおりです。

株式交付計画の作成、承認
被買収会社の株主から譲り受ける被買収会社株式の数の下限、その譲渡対価、譲渡しの申込期日、効力発生日などを定め(法774条の2、774条の3)、株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります(法309条2項12号、816条の3・1項)。
株式交付計画に定めた場合には、譲渡対価として、買収会社株式と併せてそれ以外の金銭等を交付することも可能ですが、買収会社株式を全く交付しないことはできません(法774条の3・1項3号、774条の11・5項4号)。
譲渡対価が、買収会社の総資産の20%以下の場合は、原則として、株主総会の特別決議を経る必要はありません(簡易手続。法816条の4・1項本文)。ただし、譲渡対価の帳簿価額が被買収会社株式の額を超える場合など一定の場合には、原則に戻り、株主総会の特別決議を経なければなりません(法816条の4・1項但書、2項)。
買収会社による通知
買収会社は、被買収会社株主の譲渡を申し込もうとする者(被買収会社の株主)に対して、株式交付計画の内容等を通知します(法774条の4・1項)。
被買収会社の株主による株式の譲渡しの申込み
申込者(被買収会社の株主等)は、申込期日までに、譲渡しようとする株式数等を記載した書面を買収会社に交付します(法774条の4・2項)。
買収会社による割当て
③により申込みをした者の中から、買収会社が、被買収会社株式を譲り受ける者(譲渡人)と、その者から譲り受ける被買収会社株式の数を定め(法774条の5・1項前段)、その内容を申込者に通知します(同条2項)。
被買収会社株式の譲渡し
譲渡人は、効力発生日に、被買収会社株式を買収会社に給付します(法774条の7・2項)。なお、「給付」には、権利の移転を第三者に対抗するために必要となる行為を含むとされます。
総数譲渡し契約
被買収会社株式を譲り渡そうとする者が、買収会社が譲り受ける被買収会社株式の総数の譲渡しを行う契約をするときには、上記②~④の手続は不要です(法774条の6)。
被買収会社の新株予約権等の譲渡し
買収会社は、被買収会社株式と併せて、被買収会社の新株予約権等を譲り受けることができ(法774条の3・1項7号)、その場合も、②~④の手続をとります(法774条の9)。
譲渡しの無効または取消しの制限
法律関係の安定を図るため、被買収会社株式の譲渡しの申込み(上記③)、割当て(上記④)及び総数譲渡し契約(上記⑥)にかかる意思表示には、心裡留保(民法93条1項但書)及び通謀虚偽表示(民法94条1項)の規定は適用されません(法774条の8・1項)。

上記の他、買収会社では、事前開示手続(法816条の2)、事後開示手続(816条の10)が必要となります。

(2)被買収会社においては、原則として株主総会決議等の機関決定は不要です。あくまで、その株主が買収会社との間で、被買収会社株式についての譲渡契約を締結することになります。ただ、被買収会社株式に譲渡制限が付されている場合には、被買収会社の株主総会又は取締役会の決議が必要です。

 また、申込者以外の被買収会社の株主や被買収会社の債権者を保護するルールはありません。

(3)買収会社の株主には、合併、会社分割等他の組織再編と同様の差止請求(法816条の5)及び反対株主の株式買取請求(法816条の6)が認められています。

(4)さらに、買収会社は、債権者異議手続をとらなければなりません。

 すなわち、合併、会社分割等他の組織再編と同様に、1ヶ月を下回らない期間を定めて公告等をし、期間内に債権者が異議を述べた場合には、株式交付が債権者を害するおそれがないときを除き弁済等をしなければならないとされます(法816条の8)。

(5)効力発生

 買収会社は、株式交付計画で定めた効力発生日に、被買収会社株式及び新株予約権等を譲り受け、当該株式及び新株予約権等の譲渡人は、株式交付計画での対価の定めに従い、買収会社の株式その他の対価を取得します(法774条の11・1項~4項)。
 なお、効力発生日に買収会社が給付を受けた被買収会社株式の数が株式交付計画で定めた下限に達しない場合には、株式交付の効力は生じません(法774条の11・5項3号)。また、申込期日において、申込のあった被買収会社株式の数が当該下限に達しない場合には、株式交付手続は終了するとされます(法774条の10)。

(6)株式交付の無効の訴え

 株式交付の手続に瑕疵があった場合には、法律関係の早期安定や画一的処理を図るため、効力発生日から6ヶ月以内に、株式無効の訴えをもってのみ主張できることとされています(法828条1項13号)。

3 利用局面

 上場会社である被買収会社の株式の50%超の取得を目的とする株式対価TOBや非上場会社である被買収会社のオーナーから株式を取得する際に利用されることが考えられます。
 なお、株式交付においては、公開買付規制(金商法27条の2)や有価証券の募集に関する規制(有価証券届出書の提出等)を受けるものと解されていますので、留意が必要です。
 また、株式交付は、冒頭の定義のとおり、総議決権の50%超の被買収会社株式を取得する場合に限り利用できるとされ(法2条32号の2)、すでに子会社となっている会社の株式の買い増し(例:55%から80%にすること)や、被買収会社が持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社をいいます。法575条)や外国会社(法2条2号)の場合には利用できませんので、留意してください。

4 まとめ

 株式交付制度導入前に問題とされていた、被買収会社の株主の株式譲渡益等に対する課税繰延措置が現状認められていないため、株式交付の利用が進まないとの指摘もなされており、この点は今後の課題として残るところですが、上場会社によるM&Aの場面では、株式交付も有力な選択肢となることが期待されています。
 株式交付制度の利用をお考えの企業は、ぜひ当事務所までご相談ください。

以上