検索連動型広告上での登録商標と同一の表示について商標権侵害を認めなかった事案(大阪高裁平成29年4月20日判決)

1.事案の概要

 本件は、インターネットショッピングモール「楽天市場」を運営する楽天が、検索連動型広告上において他社の登録商標を表示していた点について、商標権侵害が問われた事案です。
 具体的には、楽天が利用していた検索連動型広告では、「楽天市場」内の様々なキーワードに連動した広告表示がなされる仕様でした。その中に「石けん百貨」等の標章が表示されることがあり、さらに当該広告をクリックすると、楽天市場内の「石けん百貨」等をキーワードとする検索結果表示画面に遷移し、そこでは当該モールの出店者が販売する複数の石けん商品が自動的に陳列表示されるという場合もありました。
 ところが、この「石けん百貨」等の標章は、他社(原告)が既に商標登録済みの標章でした。そのため原告から、楽天による検索連動型広告上での上記標章の表示(以下「本件表示」といいます)は、原告の商標権を侵害するとして訴えられました。
 第一審(大阪地裁平成28年5月9日判決)では、楽天による商標権侵害は認められず、原告の請求が棄却されました。そこで原告が控訴したのが本件です。

2.主な争点

 商標権者には、指摘商品又は指定役務について登録商標を独占的に使用する権利があります。ただ、商標を表示すれば直ちに商標権侵害になるという訳ではなく、その表示の仕方が商標的「使用」(商標法2条3項各号)、すなわち商標の機能である出所表示機能・自他識別機能に関わるような表示の仕方、である必要があります。
 商標法では、「使用」態様の一つとして、「商品もしくは役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)を挙げています。そこで本件では、楽天による検索連動型広告上での本件表示が、この「使用(電磁的方法により提供する行為)」に当たるかが争われました。
 なお、本件表示のパターンとしては、①検索連動型広告上での本件表示のみで、本件表示をクリックすると遷移する楽天市場の検索結果表示画面には何も表示されない場合、②本件表示クリック後に遷移する楽天市場の検索結果表示画面において石けん商品が陳列表示されている場合等、パターンが複数あったため、それぞれに場合分けして商標権侵害の成否が争われました。

3.判決の要旨

 まず、①検索連動型広告上での本件表示のみで、本件表示をクリックすると遷移する楽天の検索結果表示画面には何も表示されない場合について、裁判所は、楽天市場内のどの商品が本件表示(石けん百貨)と関連するのか何も表示されていないため、(商標権の及ぶ範囲である)「指定商品と同一又は類似の商品」に関する広告といえず、すなわち「使用」とは認められないと判断しました。

 次に、②検索連動型広告上での本件表示をクリックすると、遷移する楽天市場の検索結果表示画面において石けん商品が陳列表示されている場合については、そもそも検索連動型広告上の本件表示と、石けん商品が陳列表示されている楽天市場の検索結果表示画面とを「一体」のものと見ることができるかが、問題となりました。両者の一体性が否定されれば、検索連動型広告上の本件表示のみでは、どの商品が「石けん百貨」と関連するのか不明なため、上記①と同様、指定商品と同一又は類似の商品に関する広告といえず、商標権侵害が否定されることになるためです。
 この点について、裁判所は、ユーザーから見れば、検索連動型広告上の本件表示は、原告の「石けん百貨」ブランドの商品を買いたいといった動機によりインターネット検索をしたユーザーを、楽天市場内の検索結果表示画面(「石けん百貨」の指定商品である石けん商品が陳列表示)に誘導するための広告として、一体的に認識されると判断しました。

 ただ、一方で裁判所は、このような表示に至った経緯として以下のような事情も認定した上で、当該表示について、直ちに楽天の意思に基づくものとは言い難く、楽天が「標章を付し」た(商標法2条3項8号の「使用」)と直ちにいうことはできないとして、結論としては商標権侵害を否定しました。

  • 「楽天市場」においては「石けん百貨」ブランドは取り扱われておらず、検索連動型広告上に「石けん百貨」と表示されたのは、楽天市場内の加盟店の出店ページにキーワードとして「石けん百貨」が含まれていたため(なお当該キーワードは“隠れ文字”で記述されており、楽天は訴状を受領するまでその事実を知らなかった)。
  • 加盟店の出店ページは加盟店自らの責任でコンテンツを制作しており、楽天は制作に関与していない。
  • 検索連動型広告上の表示は、加盟店の出店ページ中の記述によって決まる仕様であり、加盟店が記述を変更すれば表示される内容もそれに従って変動するが、楽天は判断も関与も認識もしていない。

 もっとも、楽天が本件表示を具体的に認識等していなかったとしても、上記のような仕組みは楽天自身が構築したものです。そこで原告は、検索連動型広告上に「石けん百貨」と表示され、それをクリックすれば、楽天市場内の石けん商品が陳列表示された検索結果表示画面に遷移することを含めて、楽天はあらかじめ包括的に認容していた、したがって「標章を付」されることも自己の行為として認容しており、なお商標権侵害にあたるとも主張しました。
 しかし、この点についても裁判所は、楽天がそのような商標権侵害やその助長を意図して上記のような仕組みを構築したとまでは認められないことや、かえって楽天は、加盟店に対して知的財産権侵害や隠れ文字の使用を規約やガイドラインで禁止していたこと等を認定し、これらの事実を踏まえ、本件表示等がなされることを楽天があらかじめ包括的に認容していたとまではいえないとし、この観点からの商標権侵害も否定しました。
 また、原告は、楽天としてキーワード管理において商標権侵害の有無を網羅的に調査すべきなのにこれを怠った等の主張もしましたが、楽天市場の規模からして調査対象は膨大であり著しく困難であるし、その膨大さこそ楽天市場が有用な存在となっているゆえんであるとして、この原告の主張は認めませんでした。

 以上のとおり裁判所としては、本件表示等がなされたことから直ちに商標権侵害が成立することは否定しました。
 ただ、楽天が具体的にそれを知って以降については別問題としました。すなわち、裁判所は、前記(2)のとおり検索連動型広告上の本件表示と、それをクリックして遷移する楽天市場内の検索結果表示画面とは一体的に認識されるとの判断を前提に、広告出稿者(楽天)においてそのような商標権を侵害し得る状態を具体的に認識するか、又はそれが可能となったといえるに至った時は、その時点から合理的期間が経過するまでの間にそのような状態を解消しない限り、そのような状態を自らの行為として認容したものとして「使用」に当たり、商標権侵害が成立すると判断しました。
 もっとも本件では、楽天は訴状を受領して前記のような表示がなされていることを認識すると、直ちに調査を行い、非表示措置をとっていたことから、結論としてはこの観点からの商標権侵害の成立も認めませんでした。

 なお本件では、以上の他、本件表示等について、原告の「石けん百貨」ブランドの広告であるとユーザーに誤認混同を生じさせるとして不正競争防止法違反の成否も問題となりましたが、楽天市場の知名度等を理由に、誤認混同の恐れはないとして否定されています。

4.考察

 検索連動型広告においては、ユーザーの検索頻度が高い、すなわち顧客吸引力の高いキーワードを利用すればするほど、検索結果として表示される頻度も高まることになるため、ややもすると他社の標章等を意識したキーワードを設定しがちです。
 例えば過去には、自社の検索連動型広告の検索ワードとして他社商標を指定し、ユーザーが他社商標をキーワードとして検索した結果表示画面に自社の検索連動型広告を表示させるようにしたことが、商標権侵害に当たるかが争われた裁判があります(大阪地裁平成19年9月13日判決。なお、この事案では、検索ワードの指定は商標法2条3項各号にいう標章の「使用」に当たらないとして商標権侵害は否定されています)。

 本件でも、検索連動型広告上に他社商標を表示することそれ単体(特定の商品等との関連付けがない状態)では、「使用」に当たらないとして商標権侵害の成立を否定しています。
 ただ、当該広告をクリックして遷移する先のWebサイトにおいて具体的な商品・サービスが表示されている場合には、それらの表示が一体的に認識され、当該商品・サービスに関連して標章を付したものとして「使用」にあたり、商標権侵害が成立し得るとの考え方を示しています。
 本件では結論として商標権侵害は否定されていますが、それは楽天が当該表示について認識等が無かったためです。逆に言えば、検索連動型広告上の表示について広告出稿者に認識等がある場合(例えば当該広告上の表示を記述したのが広告出稿者自身である場合)には、商標権侵害が成立する可能性が出てくると考えられるため、注意が必要です。

 また、裁判所は、楽天が加盟店に対して商標権侵害等をガイドラインや規約で禁止していた点を、商標権侵害を否定する事情として評価しています。
 本件のようなショッピングモールサイトの他、CGMサイト等の他者作成のコンテンツを表示するWebサイト運営者においては、権利侵害の主体としての責任を回避するためには、日頃からガイドラインや規約等でそれらの記述を禁止しておくことが重要です(もっとも、日頃からの網羅的な監視義務までは必ずしも求められないことは本件で裁判所が判示したとおりです)。

 なお、表示それ自体から直ちに商標権侵害の主体としての責任は否定されるとしても、商標権侵害の可能性を認識して以降は別であり、合理的期間内に対処が必要と判示されている点も重要です。
 どれだけ前記の各観点から権利侵害の主体としての責任を回避できるよう工夫したとしても、問題を認識して以降にそれを放置しますと、なお権利侵害の主体としての責任を問われ得ることになります。ユーザー等からの権利侵害の情報提供・通報等について対処漏れが起きないよう、通報窓口等の整備と適切な管理・運営が重要です。

 上記各点を踏まえた、Webサイトの管理運営、ガイドラインや規約整備等について見直しをされたいという企業様は、当事務所までお気軽にご相談ください。

以上