平成27年改正不正競争防止法

弁護士 美和 薫

2016年5月1日

1. はじめに

 近年、企業の営業秘密に関して、新日鐵住金が韓国ポスコ社を提訴し300億円の和解金の支払いを受けた事件、東芝が韓国SKハイニックス社を提訴し278百万米ドルの和解金の支払いを受けた事件、ベネッセの顧客情報約3000万件が流出した事件など、大型事案が立て続けに起きました。ITの高度化により、営業秘密の侵害の危険性は年々高まっており、また、一旦侵害されてしまうと、被害が一気に拡大し、企業は深刻なダメージを受けるおそれがあります。

 そのような背景事情から、営業秘密の保護の強化が検討された結果、不正競争防止法の一部を改正する法律が平成27年7月3日に成立し、同28年1月1日に施行されました。

 ここでは、今回の改正のうち、刑事面の改正の概要について、ご紹介いたします。

2. 改正のポイント①:保護範囲の拡大

(1)三次取得者以降の者も処罰の対象となります

 改正前の旧法では、不正に取得・開示された営業秘密が転々流通した場合であっても、営業秘密の不正取得者(一次取得者)とその不正取得者から直接に当該営業秘密を不正に取得した二次取得者による営業秘密の使用又は開示のみが処罰の対象とされていました。

 しかし、IT技術が発達して多くの情報が電子化され、持ち出しや共有が容易となり、転々流通する危険性は一層高まっています。

 そのため、今回の改正により、不正に開示された営業秘密であることを知って使用又は開示した場合、三次取得者以降の者であっても、処罰の対象となりました(改正法第21条第1項第8号)。

(2)国外犯の処罰範囲が拡大されました

 改正前の旧法では、日本の企業が海外サーバー等に保管している営業秘密が海外で不正取得された場合に、処罰対象となるのかが明確ではありませんでした。

 この点、今回の改正によって、「日本国内において事業を行う保有者の営業秘密」については、それが海外サーバー等に保管され海外で不正取得された場合でも、処罰することが可能となりました(改正法第21条第6項)。

(3)未遂行為でも処罰の対象になります

 改正前の旧法では、営業秘密の不正取得や不正使用・不正開示について、未遂行為にとどまった場合は処罰の対象となりませんでしたが、今回の改正において、未遂罪の処罰規定が創設されました(改正法第21条第4項)。

例えば、不正アクセス行為は確認されたものの、営業秘密たる情報の持ち出しの事実は確認できなかった場合などが、未遂となります。

(4)営業秘密侵害品の譲渡や輸出入も処罰の対象となります

 営業秘密の違法な使用行為により生じた製品(営業秘密侵害品)の譲渡、引渡し、譲渡又は引渡しのための展示、輸出入及び電気通信回線を通じた提供をする行為が、処罰の対象に加えられました(第21条第1項第9号)。なお、改正前の旧法では、これらの行為を処罰する規定はありませんでした。

3. 改正のポイント②:罰則の強化

(1)罰金刑が引き上げられました

 個人に対する罰金刑の上限額が、1000万円から2000万円へと引き上げられました(第21条第1項)。
 また、法人等の事業主に対する罰金刑の上限額が、3億円から5億円へと引き上げられました(第22条第1項第2号)。

(2)任意的没収規定が導入されました

 罰金刑を強化しても、それを上回る利得が犯人のもとに残る事態があり得ることから、犯罪行為により生じ、もしくは当該犯罪行為により得た財産や、当該犯罪行為の報酬として得た財産、それらの財産の対価として得た財産等は没収することができる旨の規定が創設されました(第21条第10項)。

4. ご参考までに

 経済産業省は、平成28年2月、「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」を策定しました。

 このハンドブックでは、秘密情報の漏えい対策について、例えば、①秘密情報に「近寄りにくくする」ための対策としてアクセス権の限定や施錠管理、②秘密情報の「持ち出しを困難にする」ための対策として私物USBメモリ等の利用禁止、③漏えいが「見つかりやすい」環境づくりのための対策としてレイアウトの工夫や防犯カメラの設置、④「秘密情報と思わなかった」という事態を招かないための対策としてマル秘表示やルールの策定・周知など、様々な対策例が具体的に分類・紹介されていますので、ご参考までに以下にURLを記載いたします。

http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf

 秘密情報の漏えいを未然に防止するための対策にお悩みの企業様は、ぜひ当事務所までご相談ください。

以上