いわゆる応用美術(実用品)のデザインについて著作物性が認められた事案(知財高裁平成27年4月14日判決)

1. 事案の概要

 本件は、子供向け製品の製造・輸入販売を行っているノルウェー法人(以下「原告」といいます)が、ある日本法人(以下「被告」といいます)が製造・販売していた「幼児用椅子」(以下「被告製品」といいます)について、以前より原告が製造・輸入販売していた「幼児用椅子」(以下「原告製品」といいます)のデザインと形態的特徴が類似しており、原告の著作権等を侵害するとして、製造・販売の差し止め等を求めた事案です。

 一審判決(東京地方裁判所平成26年4月17日判決)では、原告製品のデザインは、著作権法の保護を受ける著作物には該当しない等の理由から、原告の請求を棄却しました。本件は、この判決に対して原告が不服を申し立てた控訴審であり、知財高裁がどのような判断を下すかが注目されました。

2. 主な争点

 本件では、著作権侵害の前提として、そもそも原告製品のデザインについて著作物性(著作権法の保護を受ける著作物であること)が認められるか、具体的には著作権法2条2項で規定される「美術の著作物」に含まれるかが争点となりました。

 というのも、これまでの裁判実務では、「美術の著作物」には、主として鑑賞を目的とした「美術工芸品」(絵画、彫刻等の「純粋美術」)が含まれる一方で、いわゆる「応用美術」(実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とする表現物)については、①著作物一般に求められる独創性(オリジナリティ)ことに加えて、②実用的な機能を離れてみたときに、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていると認められるもの(要するに純粋美術と同視できるような側面が認められること)が必要であるとされ、著作物性が認められる場合を限定的に解釈する傾向がありました(区別説)。

 これは、意匠法との棲み分けを重視した考え方です。意匠法とは、工業製品等のデザインを保護する法律です。いわゆる「応用美術」については、基本的にはこの意匠法で保護すべきものであり、美術品と同視できるような、通常の著作物とは異なる要件を満たすもののみに限り、例外的に著作権法で保護すべきとされてきました。原告製品について、実用品でありいわゆる「応用美術」にあたるとして著作物性を否定した一審判決は、この考え方に立脚したものであり、従来の裁判実務に沿った順当な判断ではありました。

 ただ一方で、意匠法による保護と著作権法による保護とが重複しても問題ないとし、いわゆる「応用美術」についても、①著作物一般に求められる独創性があれば足り、区別説がいうような特別な要件(上記②)は必要ないという考え方もありました(非区別説)。原告側はこの考え方に立脚し、原告製品について著作物性を認められるべきと主張していました。

3. 判決の要旨

(1)知財高裁判決は、結論としては原告側の請求を棄却した一審判決を支持し、原告側の控訴を棄却しました。

 ただ、原告製品の著作物性について、一審判決は「区別説」に立脚してこれを否定したのに対し、控訴審判決は以下のような理由から、いわゆる「応用美術」であっても、著作権法1条1号所定の著作物性の要件を満たすものについては「美術の著作物」として著作権法上保護されるものと解すべきとし「非区分説」を採用することを明らかにしました。その上で原告製品について著作物性の要件(独創性)を満たすとして、原告製品の著作物性を認めました。

  • ・「応用美術」は、装身具等の実用品そのものであったり、家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの等、表現態様も多様である。明文の規定がないのに、「応用美術」一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当ではない。
  • ・実用品自体が「応用美術」である場合、実用的な機能部分とそれ以外の部分とを分けることは相当困難。区別できないものは常に著作物性を認めないと考えることは、実用品自体が「応用美術」であるものの大半について著作物性を否定することにつながる可能性があり相当といえない
  • ・(著作権法と意匠法の棲み分けについて)両法律は、趣旨・目的を異にするものであり、いずれか一方のみが排他的・優先的に適用され、他方の適用を不可能・劣後とすると解する根拠はない。要件と効果も違うので、重複適用を認めることによって意匠法の存在意義等が一律に失われるといった弊害も考えがたい。

(2)もっとも、原告製品の著作物性を認める一方で、原告製品の全体について著作物性を認めた訳ではなく、原告製品のうち著作物性が認められる部分(独創性がある部分)を具体的に限定しました。そして、著作権侵害が認められるためには原告製品のうち著作物性が認められる部分の類似が必要であるとした上、被告製品はこの部分での類似性が認められないとし、結論としては著作権侵害を認めませんでした。

4. 考察

(1)前記のとおり、これまで裁判実務では区別説に立脚し、いわゆる「応用美術」については一般の著作物とは異なる要件を設け、基本的に著作物性を認めない傾向がありました。これに対し、「応用美術」の著作物性について非区別説を採用し、一般の著作物と同様の基準で判断すべきとした今回の知財高裁判決は、従来の裁判実務からの変更を示唆するものであり、今後の裁判実務に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(2)自社製品のブランディングの確立や保護という点でも、実務に与える影響は少なくないと考えます。
これまで「応用美術」については著作権成立が難しかったため、主として意匠法での保護を中心に検討せざるを得ませんでした。ただ、意匠法での保護を受けるには意匠法上の登録をせねばならず、登録を欠いたままでは権利保護を求めることができません。
その他、不正競争防止法に基づく権利保護(消費者の誤認混同を招く可能性がある類似標章の禁止等)を求める方法もありますが、それには当該標章の周知性や著名性の要件が必要であり、この点がネックです。

(3)これに対し、我が国の著作権法では登録制を採用しておらず、著作物の創作と同時に著作権が発生するため、権利成立のハードルは高くありません。後発他社からすれば先行他社製品にインスパイアされた製品を製作する際、著作権侵害に問われるリスクを広く意識せざるを得なくなります。
なお、「応用美術」について著作物性が認められる場合でもその範囲は創作的な部分に限られ、その部分での類似性が必要となります。今回の知財高裁判決でも、原告製品全体について著作物性が認められた訳ではなく、その範囲は限定的に解されています。ただ、例えば悪質なデッドコピーについては創作的な部分についての類似性も比較的認められ易くあり、権利侵害に問い得る場面は少なくないと考えます。
今回の知財高裁判決は、自社製品について意匠法上の登録等をしておらず、また不正競争防止法上の周知性や著名性までは認められない場合でも、今後は著作権を根拠に権利保護を求めていく可能性を認めたものです。この点は、後発他社の類似製品をけん制し、自社製品のブランディングを確立・保護していく上で、有力なカードとなり得ると思われます。

(4)当事務所では、著作権法等の知的財産権に関する相談業務等を日常的に取り扱っております。自社製品のブランディング確立・保持のために意匠法や不正競争防止法の他、著作権法も活用していきたいとお考えの企業様におかれては、是非お気軽にご相談ください。

以上