労働者派遣法の改正(派遣可能期間に関する規制を中心に)
2016年3月1日
1. はじめに
平成27年9月11日に、労働者派遣法の一部が改正され、同年9月30日から施行されています。この改正法では、①労働者派遣事業の健全化、②労働者派遣の位置づけの明確化、③派遣可能期間制限の見直し、④派遣労働者の雇用安定とキャリアアップの促進、⑤派遣労働者の均衡待遇といった項目での改正がなされています。
また、平成24年改正法において導入された労働契約申込みみなし制度が、平成27年10月1日から施行されています。
そこで、本稿では、実務的に影響を及ぼすと見込まれる③の点を中心に説明していくこととします。
2. 派遣可能期間の制限についての新たな規制(概略)
(1)従来、派遣法では、派遣労働者に従事させる業務の内容に応じて、規制を区別してきました。つまり、情報処理システム開発関係業務等のいわゆる「26業務」については、専門性が高いことから派遣可能期間の上限を設けず、これ以外の業務(自由化業務)につき、派遣先の派遣受入業務ごとに原則1年(最長3年)という期間制限を設けてきました。
これは、常用代替のおそれが高い業務について、常用代替を防止しようとの目的から定められたものです。
同様の観点から、3年以内に完了することが予定されている有期プロジェクト業務、産前産後休業・育児休業・介護休業等を取得する労働者の業務などについても、上記の制限にはかからないものとされてきました。
(2)ですが、「26業務」に該当するかどうかについて、現場での判断が難しく、少なからず混乱をきたしている状況にありました。また、雇用社会の変動により、派遣先の正規労働者が従事していることの多い業務も「26業務」に含まれる状況にあり、「26業務」であるかどうかによって、派遣可能期間の制限を設けることへの合理性が失われているとの指摘もなされていました。
(3)そこで、改正法では、「26業務」に該当するかどうかという区分を撤廃し、新たに、派遣先事業所単位での期間制限と、派遣労働者個人単位の期間制限が設けられることになりました。
3. 派遣先事業所単位での期間制限
(1)意義
この期間制限は、派遣先の常用労働者の代替防止を目的とするものです。
(2)制限の内容
派遣先の同一の事業所に対する派遣の受け入れは3年が上限となります。
そして、3年を超えて派遣労働者を受け入れようとするときは、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴取することが必要となります。この意見聴取を経ることで、その後も同様に延長することができます。
なお、この期間制限は、常用代替防止、派遣就業を望まない派遣労働者の派遣就業への固定化防止という目的を損なわないと考えられる以下の場合には適用されません。
- ア)派遣労働者が、派遣元との雇用契約上、雇用期間の定めのないものとなっている場合
- イ)派遣労働者が、60歳以上の者の場合
- ウ)有期プロジェクト業務への派遣受入(ただし、終期が明確であることが必要)
- エ)日数限定業務(1ヶ月の勤務日数が、月10日以下で、通常の労働者の半分以下であるもの)への派遣受入
- オ)産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の代替業務としての派遣受入
(3)留意点
① 期間制限の起算日は、改正法施行日(平成27年9月30日)後に締結された労働者派遣契約に基づいて、派遣労働者が派遣先に就業した日になります。
② 同一事業所内で3年間派遣を受け入れている場合に、派遣可能期間の延長手続(過半数労働組合等からの意見聴取)を回避するために、派遣終了後3ヶ月(クーリング期間)を経過した後に再度派遣を受け入れるような行為をすることは法の趣旨に反するとされ、行政指導等の対象となります。
③ 派遣可能期間を延長するために意見聴取を行う過半数代表者は、管理監督者でない者の中から、派遣可能期間の延長に際しての意見聴取をすることを明らかにして選出される必要があります。この選出手続を含む延長手続は、例外として認められるものであることから、行政機関として厳正な確認、必要な指導等を行うとされています。また、仮に選出手続に問題があるとされる場合には、後記の労働契約申込みみなし制度の適用もあり得ることになります。
④ 派遣先において違反行為がある場合、行政指導がなされますが、その方法として、指導・助言(派遣法48条1項)、報告・立入調査(同法50条、51条)、勧告・公表(同法49条の2・1項、2項)があります。
4. 個人単位の期間制限
(1)意義
この期間制限は、派遣労働の利用は臨時的・一時的なものに過ぎないとの原則の実現を図るとともに、派遣就業を望まない派遣労働者の派遣就業への固定化防止を目的とするものです。
(2)制限の内容
同一事業所内の同一組織における同一派遣労働者の受け入れは、最長3年となり、延長することはできません。
なお、この期間制限は、前記のア)からオ)の場合には適用されません。
(3)留意点
① 期間制限の起算日は、派遣先事業所単位での期間制限の場合と同様です。
② 同一組織とは、派遣先指針及び業務取扱要領によると「課、グループ等の業務としての類似性や関連性がある組織であり、かつ、その組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有するものであって、派遣先における組織の最小単位よりも一般に大きな単位を想定しているが、名称にとらわれることなく実態により判断すべきものである」とされます。そのため、労務管理上の指揮監督権限者(勤怠管理や休日・休暇の許可権限、人事評価権限のある者)が異なるかどうかを判断のポイントとすることになろうかと思います。
③ 派遣先が派遣元と通じて、意図的に3ヶ月間空けて、同じ派遣労働者を受け入れるような行為は、法の趣旨に反するものとされ、行政指導等の対象となります。
④ 違反行為をした派遣先に対する行政指導の方法は、前記と同様です。
5. 労働契約申込みみなし制度
(1)意義
派遣先が一定の違法派遣を受け入れていた場合、派遣先が善意無過失の場合を除き、その時点で派遣先から当該派遣労働者に、当該派遣労働者の雇用主(派遣元)との労働条件と同一内容の労働契約の申込みをしたものとみなす制度をいいます(派遣法40条の6)。
(2)要件
① 派遣先が一定の違法派遣を受け入れたこと
一定の違法派遣とは、以下をいいます。
- ア)派遣禁止業務(港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療関連業務など)の派遣受入
- イ)無許可事業主からの派遣受入
- ウ)事業所単位の派遣期間制限の派遣受入
- エ)個人単位の派遣期間制限違反の派遣受入
- オ)脱法目的の偽装請負等
② 派遣先が善意または無過失でないこと
派遣先の行為が、違法派遣行為に該当することについて、派遣先が善意または無過失であった場合には、労働契約申込みみなし制度は適用されないことになります(法40条の6・1項但し書き)。
この善意無過失の立証責任は、派遣先にあります。
③ 派遣先が国または地方公共団体でないこと
(3)留意点
① 今回の改正法により、派遣事業はすべて許可制とされ、これまで届け出にて対応していた特定労働者派遣事業を行っている事業主は、平成30年9月29日までに改めて許可を得る必要があります。この日までに許可を得られなかった場合には、以降の派遣受入が無許可事業主からの派遣受入と評価される可能性があります。
② 上記のウ)及びエ)は、平成27年改正法で導入された新たな期間制限違反を問うものですので、これらを理由とするみなし制度は、平成30年9月30日以降に適用されうることになります。
③ 上記のオ)は、派遣法等の規定の適用を免れる目的で、請負等の名目で契約を締結し、実際には労働者派遣を受け入れる場合をいいます。ですので、派遣先において、偽装請負等に該当するとの認識を抱いたにもかかわらず、あえて指揮命令を行ったような場合には、「脱法目的」があると判断されるものと思われます。
④ 派遣先が善意無過失である場合には、労働契約申込みみなし制度の適用を受けませんが、そのようなケースはかなり限られるものと思われます。 派遣先が自ら派遣禁止業務に従事させている点でア)についての善意はあり得ませんし、事業主が許可を得ているかどうかの検索は容易であるためです(イ)の場合)。また、派遣先は派遣法の内容を関係者に周知する義務を負っていますので、期間制限違反(ウ)、エ)の場合)についての無過失も認められないと考えられるためです。
⑤ 上記の要件を満たして労働者に対する労働契約の申込みがなされたとみなされたとしても、これに対して労働者が承諾しなければならないというものではありません。ただし、労働者がいったん承諾しないとの意思表示をしても、その後に再度違法行為がなされた場合には、派遣先が新たな申込みをしたものとみなされ、労働者は、改めて選択できることになります。
6. 改正による影響
今回紙面の関係で説明していませんが、改正法には、派遣就業が臨時的かつ一時的なものである旨の明文が設けられました(派遣法25条)。
他方、派遣先として派遣を受け入れる場合の期間制限の考え方が大幅に変更されましたので、これまで通りの対応をしていたのでは、将来、期間制限違反として、当該派遣労働者を直接雇用しなければならなくなる可能性もあります。
そのような不測の事態を招かないためにも、現在、派遣労働者を受け入れている企業は、まず、自社の状況を適切に把握すべきと考えます。
もし、現在、派遣労働者を受け入れていないとしても、改正法の内容を理解し、より良い人材活用ができるような体制を整えるべきであると考えます。
以上