景品表示法の改正(課徴金制度の導入)

1 改正の経緯

 不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)では、消費者に誤解を与える不当表示(優良誤認表示、有利誤認表示)が禁止されています。これら不当表示に対して、これまで公正取引委員会や消費者庁では、事業者に是正・改善を求める行政指導・勧告や、行政処分(措置命令)を行うことによって対処してきました。それはそれで一定の成果を上げてきましたが、消費者保護の観点からはなお不十分であるとして、以前より不当表示防止のための制度見直しが検討されてきました。
 そういった中、平成25年秋にメニュー表示偽装が相次いで発覚し、大きな社会問題となりました。これをきっかけに制度見直しの機運が一気に高まり、消費者団体や事業者団体等との意見交換やパブリックコメントの結果等を踏まえた末に、規制強化を目的とした景品表示法改正案が国会に提出され、平成26年11月19日に成立、同月27日に公布されました。
 改正案の要点は、①課徴金制度の導入、②自主申告による課徴金減額措置、③返金措置による課徴金減額措置です。以下、具体的に説明していきます。

2 改正の内容

(1)課徴金制度の導入

  • ア.概要
     今回の改正により新たに導入された「課徴金制度」とは、違反行為に対する抑止力として、不当表示を行った事業者に対して経済的不利益(課徴金)を課すというものです(課徴金納付命令)。
  • イ.課徴金対象行為
     課徴金納付命令の対象行為は、以下の2類型です(8条1項)。過去の措置命令の大半はこの2類型が占めており、規制強化の必要性が高いため対象とされました。景品表示法ではその他にも一定の表示が規制されていますが(5条3号)、こちらは課徴金対象行為とはされていません。

    ・優良誤認表示(5条1号)
     自己の供給する商品・サービスの内容について実際のものや競合する他の事業者のものよりも「著しく優良」であると一般消費者に対し示す表示

    ・有利誤認表示(5条2号)
     自己の供給する商品・サービスの取引条件について、実際のものや競合する他の事業者のものよりも「著しく有利」であると一般消費者に誤認させる表示

  • ウ.不実証広告規制との関係
     これまでの景品表示法では、措置命令の前提として、事業者に対して一定期間内に表示の裏付けとなる合理的な根拠資料の提出を求め、これを提出できなければ当該表示を優良誤認表示とみなすとされています(8条2項「不実証広告規制」)。事業者側に実証を求めることで、措置命令を迅速に下すことで効果的な規制を行うことを目的としたものです。
     今回新たに導入された課徴金納付命令の関係でも同様に、効果効能に関する表示について不当表示該当性の判断にあたり必要がある時は、事業者に対し、期間を定めて当該表示の裏付けとなる合理的な根拠資料の提出を求めることができ、資料提出がない場合や、提出資料が裏付けとなる合理的な根拠とは認められない場合には、優良誤認表示と推定するとされました(8条3項)。
     なお、措置命令の関係では優良誤認表示と「みなす」とされているのに対し、課徴金納付命令の関係では「推定する」とされています。「みなす」の場合、それで確定となりますので、期間経過後は事業者側が新たな追加資料を提出して優良誤認表示該当性を争うことができません。これに対し「推定」の場合、期間経過後であっても新たな追加資料を提出し、推定を覆すために争うことが可能です。これは課徴金納付命令の影響の大きさを考慮したものです。
  • エ.課徴金額
     課徴金額については、課徴金対象期間中の対象行為に係る商品・サービスの売上額(詳細は別途政令で定めるとされています)に、3%を乗じて算定されます(8条1項)。この算定率は、過去の違反業者の売上高営業利益率の中央値を参考としたものです。
     課徴金対象期間については、原則として課徴金対象行為をした期間がこれに当たりますが、課徴金対象行為をやめた後の一定期間内の対象商品・サービスの取引がある場合はそれも含むとされています。やめた後も影響が残り得ることを考慮したものです。なお、課徴金対象期間の上限は3年です(8条2項)。
  • オ.主観的要件(善意無過失)
     事業者が、対象期間を通じて不当表示であることを知らず(善意)、知らないことについて相当の注意を怠った者でない(無過失)と認められるときは、課徴金納付は命じることができないとされています(8条1項但書前段)。
     「相当の注意」を怠ったか否かは、対象商品・サービスの内容や商慣習等から個別に判断されます。例えば、取引先から提供される書類等で当該表示の根拠を確認すればそれ以上の確認まではしないのが通常の商慣習である場合、同程度の確認作業を行っていれば「相当の注意」を払っていたと認められると考えられます。
  • カ.規模要件
     課徴金額が150万円未満であるときは、課徴金納付は命じることができません(8条1項但書後段)。消費者への影響が小さい事案まで全て課徴金対象とすることでそれらの対処に忙殺され、重要事案への対処に支障が生じては本末転倒であるためです。
  • キ.除斥期間
     課徴金対象行為をやめてから5年経過したときは、課徴金納付を命じることができないとされています(12条7項)。

(2)自主申告による課徴金の減額

 事業者が課徴金対象行為を行った場合であっても、消費者庁に対し、課徴金対象行為に該当する事実を自ら申告してきたときは、課徴金額から50%相当額を減額するとされています(9条本文)。すでに独占禁止法ではカルテルを自主申告した場合は課徴金を減免するという制度(リニエンシー)が導入され大きな効果を発揮していますが、それと似たような制度が今回、景品表示法でも導入されることになりました。消費者の利益保護には早期の発見対処が重要であることを踏まえ、事業者に対して自ら対処することへのインセンティブを与えたものです。
 上記の趣旨から、すでに課徴金対象行為への調査(任意捜査も含みます。)が行われており、課徴金納付命令を予知して行われたものであるときは、減額対象とはなりません(9条但書)。

(3)返金措置による課徴金の減額等(10条)

 改正法では、事業者が所定の手続に沿って返金を行った場合、課徴金額を減額したり、課徴金納付命令を命じないという制度(返金措置による課徴金の減額等)も採用されています。消費者の被害回復が促進されることを意図したものであり、独占禁止法等の課徴金制度を採用する他諸法令では見られない、消費者保護を強く意識した景品表示法ならではの制度となります。
 同制度の適用を受けるためには以下の要件を満たす必要があります。

  • ① 返金措置に関する計画の認定
     同制度の適用を受けるためには、返金措置の計画を作成・申請し、消費者庁の認定を受ける必要があります。消費者のうち申出者に対して購入額の3%以上の金銭を交付するものが対象となります(10条1項)。申請前に実施した返金措置も計画に記載することができます(同条3項)。返還内容は金銭が必須です。商品券や仮想通貨等では認められません。
     申請された当該計画が以下の要件を全て満たすものであれば、消費者庁の認定を受けることができます(同条5項)。

    • (ⅰ)返金措置の円滑・確実な実施が見込まれるものであること(消費者の相当多数が申し出ても返金措置実施が可能であるか等)
    • (ⅱ)返金措置対象者のうち特定の者について不当に差別的でないものであること
    • (ⅲ)実施期間が消費者被害の回復促進に相当と認められる期間内に終了するものであること
  • ② 返金措置の実施
     認定後、返金措置計画にしたがい返金措置を実施することになりますが、改めて認定を受け直すことにより、中途で計画を変更することも認められています(10条6項)。但し、変更前と変更後の対象者で差別的にならないことが必要と考えられています。
     返金措置計画にしたがった返金措置が実施されない時は、認定が取り消されることがあります(同条8項)。消費者庁は、計画にしたがった返金措置の実施期間中と、後記の報告期限までの間は、課徴金納付を命じないとされています(同条10項)。

  • ③ 返金措置実施の報告、課徴金の減額等
     事業者は、返金措置実施後、1週間に消費者庁に返金措置の実施状況等について報告する必要があります(11条1項)。返金措置の実施状況等について適切に報告され、返金措置計画にしたがって適切に返金措置が実際されたと認められるときは、返金措置により消費者に交付された金額を、課徴金額から減額されます。減額後の金額が0円を下回る時は0円とされ、減額後の金額が1万円を下回るときは課徴金納付を命じないとされています(11条2項、3項)。

(4) 課徴金納付手続・不服申立て手続

 適正手続保障の観点から、課徴金納付を命じる際は、それに先立ち、事業者に弁明の機会が付与されます(13条~16条)。課徴金納付命令後も、事業者に不服がある場合には「審査請求」(行政不服審査法4条1項1号)や、処分取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)といった不服申立て手続も用意されています。

3 施行期日

 今回の改正景品表示法の施行日は、公布日(平成26年11月27日)から1年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日とされており(付則1条)、課徴金納付命令に関する規定は、施行日以後に行われる課徴金対象行為に適用されるとされています(付則2条)。
 本日現在ではまだ未施行ですが、施行後は事業者への実務面への影響が大きい改正となりますので、施行前の現時点から、広告表示に問題がないか、社内チェック体制を見直したりやルールつくりを等を見直されておくことをお勧めいたします。

以上