平成26年金融商品取引法改正(上場会社に対する開示規制が緩和されました)

1 平成26年金融商品取引法改正の概要

 平成26年5月30日に公布された金融商品取引法(以下「金商法」と言います。)の改正の概要は以下のとおりです。

  1. ①内部統制報告書に対する監査の免除
  2. ②大量保有報告制度の見直し
  3. ③虚偽記載等のある開示書類に関する損害賠償責任の見直し
  4. ④ファンド販売業者に対する規制の見直し
  5. ⑤金融指標に係る規制の導入

 上記の①~⑤の施行日は、平成27年1月段階では未定ですが、いずれも公布日(平成26年5月30日)から1年以内を予定しています。
 本稿では、事業会社に関わる、①、②、③について解説します。

2 内部統制報告書に対する監査の免除

 上場会社は、財務局に対し、内部統制報告書(※)を提出する必要があります。

  • (※) 内部統制報告書とは、経営者が、財務報告が適正になされるための社内体制の構築がなされているかどうかを点検し、その結果を報告書にするというものです。

 内部統制報告書に対しては、上場会社と特別の利害関係のない公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないとされています(現行金商法193条の2第2項)。
 しかし、このような内部統制報告書に関する負担が、新規上場を躊躇させる要因の一つと指摘されています。他方、新規上場企業は上場前に証券取引所による厳格な上場審査を受けており、監査証明は必ずしも必要とはいえません。

 そこで、改正法では、新規上場企業の負担を軽減するために、上場後3年の間に内部統制報告書を提出する場合には、内部統制報告書の監査証明を受けることを要しないとしています(改正金商法193条の2第2項4号)。

 ただし、この監査証明免除は、資本の額その他の経営の規模が内閣府令で定める基準に達しない上場会社に限るとされています(改正金商法193条の2第2項4号括弧書)。
 経営規模について未だ具体的な定めはありませんが、資本金100億円以上又は負債総額1000億円以上の新規上場企業は、免除の対象外となることが想定されています(金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律44号)に係る説明資料参照)。
 説明資料HP(http://www.fsa.go.jp/common/diet/186/01/setsumei.pdf)

 なお、内部統制報告書の「提出」については改正されておりませんので、「提出」が免除されたわけではないことに注意が必要です。

3 大量保有報告制度の見直し

 株券等保有割合が5%を超えて大量保有者となった者は、大量保有者となった日から5営業日以内に、大量保有報告書(※)を財務局に提出しなければなりません。
 そして、大量保有報告書を提出した者は、その写しを、①発行者(例:上場会社)及び②上場している証券取引所に遅滞なく送付しなければなりません(現行金商法27条の27)。

  • (※) 大量保有報告書とは、株券等保有割合に関する事項、株券等取得資金に関する事項、保有の目的、その他の内閣府令で定める事項を記載した報告書をいいます。
     同報告書は、大量保有者が経営に対して影響を有しており、大量保有者の情報が投資者にとって重要な情報であることから、それを開示するためのものです。

 このような大量保有報告制度ですが、自己株式については、それを保有する者は議決権を有しないため(会社法308条2項)、会社の支配に影響を及ぼさず、大量保有報告書を提出させる必要性が乏しいとの指摘がありました。

 そのため、改正法は、大量保有報告制度の適用対象から自己株式を除外しています。具体的には、株券等保有割合の算定において、自己株式の数が保有株券の総数に算入されないことになります(改正金商法27条の23第4項)。
 すなわち、自己株式を保有しているだけでは、株券等保有割合が上がることはなく、その結果、大量保有報告書の提出等、大量保有報告制度の規制を受けることがなります。

4 虚偽記載等のある開示書類に関する損害賠償責任の見直し

 虚偽記載等とは、開示書類の重要事項に虚偽の記載がある場合、又は重要事実の記載が欠けている場合をいいます。

(1)現行法における損害賠償責任の概要

①募集又は売出し(※)に応じて有価証券を取得した者に対する責任

  • (※)「募集」とは、有価証券の発行者が、新たに発行される有価証券の取得を勧誘することをいいます。
    「売出し」とは、すでに発行された有価証券の保有者が、売付けの申込み、又は買付けの申込みの勧誘を行うことをいいます。

「募集」又は「売出し」を行う場合には、有価証券の発行者が有価証券届出書を提出する必要があります。
 有価証券届出書には、有価証券に関する情報(発行する株式数、株式の種類、発行価格等)や有価証券の発行者に関する情報(経営状況等)が記載され、投資者の判断材料となるよう、公表されています。
 また、届出後投資者に有価証券を取得させる際には、有価証券の発行者は、目論見書という有価証券届出書の内容と同様の情報を記載した書類を作成し、投資者に直接交付することになっています。これにより、投資者に対する情報提供を確実なものとなります。

 現行金商法は、有価証券届出書又は目論見書に虚偽記載等がある場合、これらの書類の作成者である有価証券の発行者が、「募集又は売出しに応じて」有価証券を取得した者に対し、損害賠償責任を負うと規定しています(現行金商法18条1項、2項)。

 例として、上場会社が新株を発行する際に、提出した有価証券届出書に虚偽記載がある場合を挙げます。この場合、上場会社が新株の取得を投資者に勧誘し、それに応じて投資者が株式を取得した後に、虚偽記載発覚による株価下落で投資者が損害を被ったときには、上場会社は投資者に生じた上記損害を賠償することになります。

 同条の責任は、虚偽記載等がなされないように注意していた場合であっても、責任が免除されません。

②募集又は売出しによらないで(※)有価証券を取得した者に対する責任

  • (※)「募集又は売出しによらないで」とは、証券取引所において投資者間で転々流通している有価証券を取得することをいいます。

 有価証券届出書、有価証券報告書(※)、四半期報告書(※)、内部統制報告書等に虚偽記載等がある場合には、これらの作成者である有価証券の発行者は、虚偽記載等のある書類が公表されている間に「募集又は売出しによらないで」有価証券を取得した者に対し、損害賠償責任を負います(旧金商法21条の2第1項)。

  • (※)有価証券報告書とは、上場会社が事業年度ごとに提出する、当該会社の経営状況等を記載した、事業内容に関する報告書をいいます。
     四半期報告書とは、上場会社等が四半期ごとに提出する、当該会社の経営状況等を記載した、事業内容に関する報告書をいいます。
     これらの報告書は、上場会社の経営状況が投資者にとって重要であることから、これを開示させるものです。

 過去の事件ですと、ライブドアが、虚偽の経常黒字を、有価証券報告書に記載をした事件があります。ライブドアは、当時ライブドアの株式を取引所で取得し、保有していた投資者に対して、虚偽記載発覚で株価が下落したことによる損害を賠償する責任を負いました(最判平成24年3月13日民集66巻5号1957頁)。

 同項の責任も、上記①の責任と同様に、虚偽記載等がないように注意していたとしても、免除されていませんでした。

(2)改正のポイント

 まず、上記①の、「募集又は売出しに応じて」有価証券を取得した者に対する責任については改正はなされていません。

 他方、上記②の、「募集又は売出しによらないで」有価証券を取得した者に対する責任については、虚偽記載等について故意又は過失がなかったことを証明したときには、責任が免除されることになりました(改正金商法21条の2第2項)。
 すなわち、発行者側が虚偽記載等がないように注意をしていたことを証明すれば、責任が免除されるのです。

 もっとも、このような証明のハードルは高いと思われますので、依然として、虚偽記載等が生じないよう体制を整えておく必要はあると思われます。

5 事業会社における留意点

 今回の改正は、上場企業に対する開示書類の監査免除、株券等保有者の情報開示の緩和、上場企業の損害賠償責任の緩和等、これまでの規制を緩和するものも多くありました。情報開示規制については、今後もルール変更がありうるところですので、法改正や自主規制規則改正に対して、今後もチェックが必要です。このような開示規制に関してお悩みの際には、当事務所までご相談ください。

以上