著作権法改正(電子書籍に対応した出版権の整備)
2014年9月1日
1 改正の経緯
近年の出版業界では、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、旧来の紙媒体の書籍とは異なり、CD-ROM等のデジタルメディアや、インターネット上での配信により提供される、いわゆる「電子書籍」が爆発的に普及しています。
現行の著作権法では、紙媒体の書籍については「出版権」(著作物について出版する権利。著作権者から出版社に対して設定される)が規定されています。一方、電子書籍については同様の権利は規定がありませんでした。そのため、出版業界では、電子書籍を出版しようという場合、著作権者から著作物を電子書籍化するための利用許諾(ライセンス)を受けるという形をとることにより、電子書籍の出版を行うのが通例でした。
しかし、利用許諾(ライセンス)はあくまで当事者間の取り決めに過ぎず、著作権法上の権利ではありません。例えば何人かが海賊版をインターネット上で配信したという場合も、出版権者自身は著作権法に基づくアクション(差止め請求等)が原則できません。著作権法上の権利は著作権者において行使することになりますが、著作権者には法に不慣れな個人も多く、効果的な海賊版対策が期待できません。特に電子書籍の場合、複製等が極めて容易であり、紙媒体の書籍以上に海賊版被害が多いことから、この点が法の不備として強く指摘されていました。
これらの状況を踏まえ、今回、電子書籍についても出版権を認めるための改正がなされるに至ったという経緯です(平成26年法律第35号)。
2 改正の内容
- (1)
電子書籍についての出版権の設定(改正著作権法79条)
上記のとおり、現行の著作権法では、紙媒体の書籍についてしか認められていなかった「出版権」について、新たに「記録媒体に記録された著作物の複製物」(電子書籍)の「頒布」(CD-ROM等による出版)や「公衆送信」(インターネット配信等)についても、出版権が設定できるようになりました。
出版権は、対象となる著作物について出版する権利を出版権者のみが専有(独占)できるという権利であり、著作権者(正確には複製権(*1)や公衆送信権(*2)の保有者。以下同様)から権利設定を受けることで初めて取得できます。出版権を設定して以降は、著作権者であっても自らその著作物について出版することはできなくなります。また、第三者の海賊版に対しても出版権者自ら、自身の出版権を侵害する行為として、差止めや損害賠償を請求することが可能です(著作権法112条等)。
今回の改正により、今後は紙媒体の書籍のみならず電子書籍についても出版権設定を受けることで、電子書籍の海賊版に対して、出版権者自ら、差止めや損害賠償を求めることで、効果的な海賊版対策が可能となります。 - (2)
電子書籍についての出版権の内容(改正著作権法80条)
- ア 出版権を設定する対象範囲は自由
今回の改正により、①紙媒体の書籍のほか、②電子書籍についても出版権を設定することが可能となりましたが、①紙媒体の書籍に出版権を設定する場合に必ず②電子書籍の出版権を設定しなければならないという訳ではありません。逆もまた然りです。いずれかの出版権のみ(一部)設定するか、あるいは①②両方とも(全部)設定するかは、当事者の選択の自由です(同条1項)。 - イ 著作権者の承諾を得れば再許諾も可能
現行の著作権法では、著作権者から権利設定を受けた出版権者は、さらに第三者に対して出版(複製や公衆送信)を許諾できるかという議論がありました。
今回の改正ではその点が明文化され、出版権者は、著作権者の承諾を得た場合に限り、第三者に対し、対象著作物について出版(複製や公衆送信)を許諾することができる旨が明記されました(同条3項)。
- ア 出版権を設定する対象範囲は自由
- (3)
電子書籍についての出版の義務(改正著作権法81条、84条)
- ア 現行の著作権法では、紙媒体の書籍について、出版権者は原稿の引き渡し等を受けてから6ヶ月以内に出版行為を行わなければならない旨規定されていました。
今回の改正では、電子書籍についても同様に、出版権者は原稿の引き渡し等を受けてから6ヶ月以内に公衆送信(インターネット配信)行為を行わなければならない旨規定されました(同法81条)
ただ、これらはいずれも任意規定であり、出版契約で異なる定めを置くことは可能です(同条本文但書)。たとえば著作権者側において、当面は紙媒体の出版のみで電子書籍の出版までの予定はないものの、海賊版対策として紙媒体に加えて電子書籍の出版権もあらかじめ設定しておきたい(電子書籍の海賊版についても出版権者側にて対応してほしい)という場合に、電子書籍の出版権も設定しつつ、出版期間を長めに設定する等の工夫をすることも考えられます。
もっとも、一方で出版期間を長めに設定しますと、その後に著作権者側の事情変更等で、急きょ、電子書籍についても出版したいという話になっても、出版権者がすぐに対応してくれないというリスク(塩漬け問題)もあり得ます(前記(1)のとおりその間は著作権者自ら出版することもできません)。
そういった事態にも対応できるよう、当初の出版設定契約において、例えば著作権者が希望する場合には改めて出版期日を設定できる旨の規定を入れたり、著作権者側にて出版設定契約を一方的に解約できる旨の規定を入れる等の工夫も考えられます。 - イ また、現行の著作権法では、紙媒体の書籍について、出版権者が上記出版義務に違反したときは、著作権者は出版権者に設定した出版権を消滅させることができる旨規定されていました。
今回の改正では、電子書籍についても同様に、出版権者が上記出版義務に違反したときは、著作権者は出版権者に設定した出版権を消滅させることができる旨規定されました(同法84条)
なお、紙媒体の書籍と電子書籍の両方について出版権を設定した場合に、一方の出版権の義務に違反した場合、両方の出版権について消滅請求することが可能です。
- ア 現行の著作権法では、紙媒体の書籍について、出版権者は原稿の引き渡し等を受けてから6ヶ月以内に出版行為を行わなければならない旨規定されていました。
3 施行期日
今回の改正著作権法の施行日は、平成27年1月1日です。なお、改正前に設定された出版権については「従前の例による」とされていますので、今回の改正による影響はありません。
改正前に紙媒体の書籍について出版権を設定している場合、当然に電子書籍についての出版権を含むことにはなりません。改めて電子書籍について出版権設定契約を締結する必要があります。改正前に著作権者から利用許諾(ライセンス)を得て電子書籍を配信している場合も、出版権を設定するためには改めて出版設定契約を締結する必要があります。
以上
- *1コピー等の複製物をつくる権利
- *2放送や有線放送、インターネット配信やその準備(サーバーへのアップロード等)行為