携帯電話の「2年縛り(中途解約金の定め)」を有効とした事案(大阪高裁平成24年12月27日判決(NTTドコモ)、大阪高裁平成25年3月29日判決(KDDI))

1 事案の概要

 本件は、携帯電話キャリア各社(NTTドコモ、KDDI)の料金プランの一つである「2年契約プラン」の有効性が争われた裁判の、控訴審判決です。
 一般に各社の「2年契約プラン」では、2年契約を中途で解約した場合、一定額の中途解約金を支払うものとされています(いわゆる「2年縛り」)。このような取り扱いが、消費者契約法に違反し無効であるとして、適格消費者団体※等が中途解約金の定め等の差し止め(定めを適用しない=解約金の請求不可)等を求め、訴えを提起しました。
 第一審では、NTTドコモは勝訴(京都地裁平成24年3月28日判決)した一方、KDDIは一部敗訴(京都地裁平成24年7月19日判決)し、2事件で判断が分かれたため、控訴審の判断が注目されました。

2 主な争点

 主な争点は以下のとおりです(2事件とも共通)。

  1.  中途解約金の定めに、消費者契約法9条等の規制が及ぶか(違約金等に当たるか)
     消費者契約法では、事業者と消費者間の契約(消費者契約)の解除にともなう違約金等を定める場合、その額が事業者に生じる「平均的な損害の額」を超えてはならず、超えた部分は無効とされています(消費者契約法9条)。
     本件では、中途解約金に消費者契約法9条が適用されるか(中途解約金が、消費者契約法でいう違約金等に当たるか)が争われました。
  2.  消費者契約法9条に反するか(中途解約金の額は「平均的な損害の額」を超えるか)
     中途解約金の定めに消費者契約法9条の規制が及ぶ場合に、中途解約金の額がキャリア事業者の「平均的な損害の額」を超えるか否か、具体的には、「平均的な損害の額」が、主として「実損害」に限られるか、「逸失利益(たらればの将来利益)」も含まれるかが争われました。
  3.  消費者契約法10条に反するか(「消費者の利益を一方的に害する」といえるか)
     消費者契約法では、消費者の権利を制限等する条項で、消費者の利益を一方的に害するものは、無効とされています(消費者契約法10条)。
     2年契約を中途解約する場合に中途解約金を課すことが「消費者の利益を一方的に害する」といえるかが争われました。

3 判決の要旨

  1. (1)

    大阪高裁平成24年12月27日判決(NTTドコモ)

     裁判所は、以下の理由から、適格消費者団体等の控訴を棄却しました(第一審に引き続き、NTTドコモの勝訴)。

    1. (ア)

      争点 ①(消費者契約法9条等の規制が及ぶか)について
       NTTドコモは、中途解約金は、割引サービス等を受けるための対価であり、違約金等ではないから、消費者契約法9条等の規制は及ばない旨を主張しました。
       しかし、裁判所は、中途解約時に支払う立てつけとなっていること、2年契約を継続した際は逆に支払わなくてもよくなること等からして、サービスの対価とはいえず違約金等にあたるとして、消費者契約法9条等の規制が及ぶと判断されました。

    2. (イ)

      争点 ②(消費者契約法9条違反にあたるか)
       NTTドコモは、「平均的な損害の額」には「逸失利益」も含まれるべき旨を主張しました。しかし、裁判所は、事業者は不特定多数の消費者と契約をするから、個々の消費者との関係が希薄で、同種の契約が繰り返されるため、個々の契約が解消されても逸失利益の損害は実際には顕在化しないことが多いと考えられる等の理由から、「平均的な損害の額」とは、実損害に限られると判断しました。
       具体的には、契約開始から解約時までの基本使用料金の割引分の累積額を実損害と考えるべきとし、基本使用料金の月毎の平均割引額(1837円)×一般に解約された時点までの平均契約継続期間(13.5ヶ月)≒2万4800円を、「平均的な損害の額」であるとしました。
       そして、NTTドコモが設定していた中途解約金(9975円)は、上記「平均的な損害の額」を下回るので、結果、中途解約金の定めは、消費者契約法9条には反しないと判断しました。

    3. (ウ)

      争点 ③(消費者契約法10条違反にあたるか)
       第一審判決では、携帯電話利用契約の法的性質について、準委任契約(民法656条)であるとし、中途解約は原則自由(民法651条)であるとしました。そして、本来自由であるはずの中途解約権を制限することが、消費者の権利を制限等するものであるとしました。ただ、一方で、消費者はそれに見合った対価(基本料金の割引等)を得ており、制限内容も合理的であり(上記のとおり「平均的な損害の額」を下回る等)、契約時にも解約金条項についてしっかり説明をしている等の理由から、結論としては「消費者の利益を一方的に害する」とまでは言えず、消費者契約法10条には反しないと判断しました。控訴審判決でも、以上の第一審判決の判断が支持されました。

  2. (2)

    大阪高裁平成25年3月29日判決(KDDI)

     裁判所は、以下の理由から、第一審判決を破棄し、適格消費者団体等の請求を棄却しました(KDDIの逆転勝訴)。

    1. (ア)争点 ①(消費者契約法9条等の規制が及ぶか)、争点③(消費者契約法10条違反にあたるか)
       これらの争点については、NTTドコモの控訴審判決とほぼ同様の理由から、消費者契約法9条等の規制が及ぶことは認めつつも、消費者契約法10条には反しないと判断しました。
    2. (イ)争点 ②(消費者契約法9条違反にあたるか)
       一方、「平均的な損害の額」については、NTTドコモの事件と異なり、「逸失利益」も含まれると判断しました。一般の債務不履行では逸失利益も損害賠償の範囲に含まれるとされており、消費者契約法9条における違約金等の場合もこの点は異ならないとしたものです。
       具体的には、解約により失った将来利益として、1契約の1月あたりの売上額(4000円)×一般に解約された場合の平均契約残存期間(12.41ヶ月)=4万9640円を、「平均的な損害の額」であるとしました。

4 考察

  1. (1)

     まず、本件は適格消費者団体による「消費者団体訴訟」である点が、注目されます。同制度は、消費者の利益保護の観点から、平成18年の法改正により導入された制度であり、平成21年には対象範囲が拡充されています。これまで消費者個人では経済的負担等から裁判を中々起こしにくい傾向がありましたが、今後は団体訴訟制度によりBtoC取引での訴訟がこれまで以上に増加する可能性があります。

  2. (2)

     今回のいずれも控訴審判決でも、BtoC取引において「契約期間の縛り」を設けること自体は、直ちにNGとはしていません。取引全体として消費者にも利益がある等、合理性が認められれば有効であることが、今回の裁判により改めて確認されました。

  3. (3)

     ただ、契約期間の中途で解約する場合に解約金等を課すことには、それが違約金等以外の名目であっても、解約に伴い発生するものであり取引の対価とは言えない以上、実質的に違約金等にあたるとして、消費者契約法9条の適用があり、その額が「平均的な損害の額」を超えると無効となるリスクがあることが明確となりました。

  4. (4)

     BtoC取引の利用規約等では、「中途解約の場合、受領済みの金員は一切お返しいたしません」等の規定を設けることがあります。この場合も、取引の対価とは言い難いため、実質的に違約金等にあたると評価される可能性があります。その場合、本件と同様、消費者契約法9条が適用され、「平均的な損害の額」を超える部分は無効とされ、消費者への返還を命じられる可能性があるということになります。

  5. (5)

    「平均的な損害の額」の考え方については、「実損害」か「逸失利益」かで、2事件の間で判断が分かれています。  本件では偶然にも平均解約時期が2年契約の中ごろ(12~13か月)であり、実損害の算定基礎(解約時の平均契約継続期間)と逸失利益の算定基礎(解約時の平均契約残存期間)とが似通っていたため、結論には影響しませんでした。ただ、事案によっては「実損害」と「逸失利益」かで、「平均的な損害の額」が大きく異なってくる可能性があります。違約金等の上限額に影響するところであるため、実務に与える影響は大です。この点については、今後、最高裁での統一的な判断が待たれます。

  6. (6)

     今回の控訴審判決では、前記のとおり、準委任契約において原則自由である中途解約を制限することは、消費者契約法10条との関係が問題となる旨、判示しています。
     一般にBtoC取引の中には、そもそも中途解約自体を禁じている例もあるかと思いますが、本件と同様に準委任と評価され得るサービス提供系のBtoC取引の場合、中途解約を禁じることは、本来自由であるはずの中途解約を一方的に制限するものとして、相当な合理的理由がない限り、消費者契約法10条違反として無効とされる可能性が高いと考えられます。

  7. (7)

     以上の通り、本件の控訴審判決は、携帯電話利用契約に限らず、BtoC取引全般についての、契約期間の設定の仕方、中途解約を認めるか否か、認める場合に解約金等を幾らに設定するか等の点について、非常に示唆に富む裁判例です。また、上記の通り、今後は消費者団体訴訟制度によりBtoC取引でも訴訟が増加することが予想されます。利用規約の設計については、今回の控訴審判決等を参考に、これまで以上に慎重を期す必要があります。
     BtoC取引における利用規約を新たに作成したい、あるいは既存の利用規約を見直したいという場合には、当事務所までお気軽にご相談ください。

以上

  1. 消費者全体の利益擁護のために差止請求権を行使することが認められた消費者団体であり、全国に11団体あります(平成25年6月25日現在)