会社非訟事件の手続の改正
2013年6月1日
1 本年(平成25年)1月1日より新しい「非訟事件手続法」が施行され、これに合わせて、
会社法第7編第3章「非訟」(第868条以下)の一部も改正されました。
会社非訟事件にはいろいろな種類がありますが、件数が多いものとしては、取締役会議事録閲覧謄写許可申立事件(会社法第371条第3項)、少数株主の株主総会招集許可申立事件(同第297条第4項)、株式売買価格決定申立事件(同第144条第2項)、清算人選任申立事件(同第478条第2項)などがあります。
ここでは株式売買価格決定申立事件(同第144条第2項)を取り上げて、新しい非訟事件手続について解説します。
2 まず、株式売買価格決定申立事件について説明します。
譲渡制限株式(株式譲渡について当該株式会社の承認が必要なもの)の株主等は、株式会社に対し、譲渡制限株式の譲渡を承認するか否かの決定をすること、また、承認しない場合には株式会社又はその指定買取人が当該譲渡制限株式を買い取ることを請求することができます(同第136ないし138条)。
これに対し、株式会社が承認しない旨の決定をしたときは、当該株式会社又はその指定買取人が当該譲渡制限株式を買い取らなくてはなりません(同第140条)。
株式売買価格決定申立事件は、裁判所に対し、この譲渡制限株式を買い取る際の売買価格の決定を申し立てるものです。この場合、裁判所が定めた額が売買価格となります。
3 今回の改正により、株式売買価格決定申立事件の手続に関係する部分では、
主に以下のような変更がなされました。
(1)審問手続
裁判所が関係者の陳述を聴くにあたり、これまでは例えば書面の提出により聴取することも可能でしたが、改正により、「審問の期日を開いて」関係者の陳述を聴かなければならないことが定められました(会社法第870条2項3号)。
これは、対立する関係者に、裁判所に対して直接口頭で主張する機会を与えるためです。
(2)申立書の写しの送付
裁判所は、申立てがあったときは、当該株式会社等に対し、申立書の写しを送付しなければならないことが定められました(会社法第870条の2第1項)。
従前から申立書の写しを送付する運用がなされていましたが、法律上明記されたことにより、当該株式会社等にとっては、申立人の主張に反論する機会が確実に保障されることになります。
(3)審理の終結日
裁判所は、決定をするときは、相当の猶予期間を置いて、審理を終結する日を定め、申立人らに告知しなければならないと定められました(会社法第870条の2第5項)。
これにより、主張書面や資料をいつまでに提出しなければならないか(審理終結日まで)が明確になりました。裁判所は審理終結日までに提出された資料を基礎として判断しますので(仮に審理終結日以後に資料を提出しても考慮されません)、申立人らにとっては裁判の見通しを立てやすくなります。
(4)裁判をする日
裁判所は、審理を終結したときは、決定をする日を定め、申立人らに告知しなければならないと定められました(会社法第870条の2第6項)。
これにより、申立人は、決定に対する即時抗告など裁判後の対応について時間的な見通しを立てやすくなりました。
(5)和解
株式売買価格決定申立事件の多くは和解(合意)により終了します。もっとも、従前の非訟事件手続法では和解に関する規定がなかったため、当事者間で和解(合意)が成立した場合は、その内容を合意調書にした上で、申立人が申立てを取り下げて手続を終了させていました。また、この合意調書に基づいて強制執行を行うことはできませんでした。
この点、新しい非訟事件手続法では和解の制度が導入され、和解を調書に記載したときは、その記載は、確定した終局決定と同一の効力を有することが定められました(非訟事件手続法第65条)。
これにより、端的に和解によって手続を終了させることができるようになり、また、当該調書に基づいて強制執行を行うことも可能となりましたので、使い勝手がよくなったと言えます。
(6)専門委員
裁判所は、必要があると認めるときは、専門委員を手続に関与させることができるようになりました(非訟事件手続法第33条)。
これと似たような手続として鑑定がありますが、鑑定が特定の事項に限って専門家の意見を得るのに対し、専門委員は、裁判所が当事者の主張や当事者が提出した専門的な資料を理解し、また、和解の協議等を実施するにあたって、特定の事項に限らず、専門家の意見を聴くことができる制度です。株価の算定については鑑定をすることが多いと思われますが、専門委員も関与することによって、より円滑な進行が期待できます。
以上