(第59回)[商業登記編]
取締役の解任登記における登記実務の取扱い改正
2021年2月1日
私が100%出資をしている株式会社がありますが、他にも経営している会社が別にある都合上、当該株式会社の役員として私の名前を登記することに不都合があるので、私の信頼している者を1名、取締役兼代表取締役(以下単に「代表取締役」といいます。)として登記しています。
しかし、当該代表取締役に横領の疑いが最近生じたので、代表取締役を解任することを検討していますが、登記手続上、何か支障はありますでしょうか?
1.取締役の解任登記について
株式会社(以下「会社」といいます。)の場合、代表取締役たる取締役を任期途中に解任するには、株主総会の決議(以下「解任決議」といいます。)が必要です(会社法339条)。解任決議の要件は、原則として、普通決議で足りますが、定款で特別決議を要件とする旨定めている会社も多いので、実施前に自社の定款を確認することをお勧めします。
とはいえ、設例のように、100%出資をしている会社であれば、定款の規定に関わらず、解任決議の要件を満たすことは容易でしょうから、解任登記手続自体はいつでも可能です。
しかし、解任登記をした場合、登記簿上、「解任」と明記されますので、取引先等に登記簿謄本を提出する際、何らかの内部紛争があったものとの印象は避けられないため、マイナスイメージを抱かれる可能性もあります。
そのようなリスクを可能な限り避けたいという場合には、最初から解任決議をするのではなく、まずは辞任届を提出してもらうよう、当該代表取締役と交渉することも考えられます。
他方で、当該会社において、唯一の代表取締役を解任する場合、後任の代表取締役を解任決議と同じ株主総会で選任し、解任登記と併せて、後任代表取締役の就任登記を申請しないと、解任登記をすることができませんので、ご注意ください。
なお、登記手続とは直接関係はありませんが、解任に正当な理由がない場合には、残存任期分の役員報酬相当額等の損害賠償を、解任した代表取締役から会社に対して請求される可能性があります。
したがって、解任理由について、正当な理由があるかどうか、実際に解任決議・解任登記を行う前に、弁護士に相談されることをお勧めします。
2.解任登記における登記実務の取り扱いの改正
設例のように、唯一の代表取締役を解任し、解任登記を申請した場合、これまで申請先の管轄法務局は、当該会社に対して、登記完了前に、書面にて役員全員の解任登記の申請があった旨の通知を行っていました。その上で、解任登記完了前に、解任対象の代表取締役から、解任登記の申請人が新しい代表取締役の地位にないことを仮に定める仮処分(以下単に「仮処分」といいます。)の申し立てを裁判所に行った旨の上申書を法務局に提出した場合には、仮処分決定の見込みがないほどの長期間が経過するまでの間、当該解任登記を登記官の判断で留保していました(平成15年5月6日民商1405号通知・平成19年8月29日民商1753号通知。以下2件の通知を併せて「両通知」といいます。)。
両通知は、当該会社と無関係の者が当該会社を乗っ取るために、株主総会議事録等の添付書類を偽造して虚偽の登記申請をすることが過去散見されていたので、当該虚偽登記を防ぐことが目的でした。
しかし、近年、上記制度の本来の趣旨と異なり、設例のように権限ある株主からの解任決議による解任登記の場合にまで、解任された代表取締役が上申書等を法務局に提出することにより、解任登記が留保されてしまうケースが増えていました。そのような時間稼ぎ目的のケースまで解任登記が留保されてしまっては、会社側にとって非常に不利益になると考えます。
そこで、令和2年3月23日付民商第65号通知によって、両通知を廃止するとの改正がなされました。
そして、解任登記が申請された場合の法務局の取り扱いは、具体的に以下のとおり改正されました。
<解任登記が申請された場合の法務局の対応>
- ①
会社の役員(会計参与を除く)全員の解任登記が申請された場合、当該登記完了後速やかに、当該会社に対して書面にて役員全員の解任登記の申請があった旨の通知をすること。但し、申請内容に疑義があると管轄法務局が判断した場合には、登記完了前に通知をすることを妨げないものとする。
- →
改正前と異なり、原則として、法務局の通知が登記完了後になったので、登記が留保されるケースが限定的になりました。
- ②
解任登記完了前に、解任登記の対象役員から、申請書等の閲覧申請があった場合には、管轄法務局が本人確認の上、閲覧に応じることを可能とすること。
- ③
解任登記完了前に、解任対象の代表取締役から、管轄法務局に対し、仮処分決定書が提出された場合は、解任登記の審査対象資料とすること。
- ④
解任登記完了前に、解任対象の代表取締役から、管轄法務局に対し、仮処分の申し立てを行った旨の上申書が提出された場合は、一定期間に限り、仮処分決定が行われるまでの間は、管轄法務局の判断で登記を留保することができること。
- →
上申書による留保制度は、改正前と同様に維持されましたが、留保期間につき、改正前と異なり、「一定期間」に限定されました。
一定期間は、1か月~3か月程度と解されています。
3.当事務所に依頼することのメリット
解任登記自体は複雑ではありませんが、上記2.取り扱いの改正事項等、市販の書籍等では明確な記載のない実務対応が商業登記実務には多々あり、それらを全て把握し、かつ最新情報を速やかに入手することは容易ではなく、経験も必要です。
当方であれば、多数の企業から商業登記手続の依頼・相談を受けているという実績があるため、商業登記に関する最新の実務に基づいた適切なアドバイスが可能です。
本事例に限らず、会社に関する登記事項の変更を検討する方がいましたら、お気軽にご相談ください。
以上