(第52回)[商業登記編]
元号「令和」改正に伴う商業登記への影響

当社は、今回の元号改正に伴い、商号を変更して、商号に「令和」を入れることを検討していますが、可能でしょうか?
また、従前発行した新株予約権の行使期間が、「平成35年10月31日まで」と登記されていますが、「令和」に変更する登記をする必要がありますでしょうか?

1.元号「令和」の改正と商業登記への影響

 株式会社(以下「会社」といいます。)の登記事項証明書における年月日の記載は、和暦が使用されますので、今回のように元号改正があった場合、その影響を受けることになります。
 「昭和」から「平成」に元号改正がなされた際と同様、今回の元号改正に伴って、法務省から登記事務の取扱いに関する依命通知が発出されました(平成31年4月1日付法務省民二第272号法務省民事局民事第一課長・民事第二課長・商事課長依命通知)。
 依命通知の内容は、「平成」の元号改正の際とほぼ同様ですが、以下のとおりその内容を一部紹介しておきます。

<依命通知の内容>
 ①元号を改める政令の施行当日以降における登記簿の年の記載は、原則として
  新元号の元年とする。
  →令和元年5月7日以降(5月6日まで法務局が閉庁しているので)、発行す
   る登記事項証明書は、「令和元年」と記載されることが見込まれます。

 ②申請書の年の記載については、当面補正を求めることを要しない。
  →登記申請書の内容に不備がある場合、法務局から補正という修正指示を求め
   られますが、元号の記載不備のみであれば、補正が不要になることが見込ま
   れます。
   例えば、「平成31年5月29日申請」と誤って記載しても、補正不要とい
   う趣旨です。

 ③添付書面に記載されている改元前の年の記載は、これに相当する改元後の年の
  記載として取り扱って差支えない。
  →登記申請書同様、株主総会議事録等の添付書面の内容に不備がある場合、法
   務局から補正を求められますが、元号の記載不備のみであれば、補正が不要
   になることが見込まれます。
   但し、株主総会議事録等の添付書面については、西暦表記(2019年)で
   の記載も認められていますので、元号改正の影響を受けないよう、和暦では
   なく、西暦で記載することも考えられます。上場会社の場合、現在は西暦表
   記で統一している会社も多く、またこの機会に西暦表記に統一する会社もあ
   るようです。

2.「令和」を商号に記載することの可否

 新元号は縁起も良いからか、元号改正に伴い、商号(=社名)に「令和」を記載したいが可能か?という相談が、元号改正前にありました。
 商業登記手続上は、特段の規制がありませんので、株主総会で商号変更の決議をした上で、商号変更登記申請をすれば、「令和」を含めた新商号にすることは可能です(但し、同一本店所在地に既に同じ商号で登記している会社がある場合には不可です。)。
 とはいえ、当方としては、商号変更に伴う事務コストを鑑みますと、安易な商号変更はお勧めしません。商号変更をする場合、登記変更に要するコスト(法務局に支払う登録免許税3万円)だけであれば大した金額ではありませんが、通常は、会社の名刺・封筒・ホームページ・メールアドレス・各種登録変更・社名変更の告知等、多岐にわたる変更事項が見込まれるので、それに割くべき時間・費用のコストが膨大なものになりかねないからです。
 既に商号に「平成」の旧元号が含まれている場合には、「令和」に変更することは一定の合理性があるでしょうが(勿論「平成」のままでも構いません。)、そうではない会社が、「令和」を商号に記載するためだけに変更することは、上記事務コスト等も鑑みて慎重に検討されることをお勧めします。
 ちなみに、本稿作成時点で、当方が法務局の登記情報を調査した限りでは、「令和」を商号に記載して登記している会社は、全国で47社ありました。

3.新株予約権の行使期間の影響について

 新株予約権の行使期間は、一般的な税制適格ストック・オプション目的で発行されたものであれば、約8年間とすることが多いため、「平成」のうちに発行していたものについては、行使期間の末日が本事例のように「平成35年」等、令和以降も行使期間が継続しているものが少なくありません。
 新株予約権の行使期間については、西暦で登記することも可能なため、昨年~今年にかけて発行されたものについては、元号改正が予定されていたので、予め西暦で登記しておき、元号改正の影響を受けないよう対策をしていたケースもあるかと思います。
 一方で、それより前に発行されたもの・昨年発行であっても上記対策をしていないものについては、「平成35年」等の記載になっているかと思われます。
 この点につき、「令和」への変更登記が必要かどうかについては、現時点で明確な通達等がなく、実務対応が確定しておりません。
 しかし、私見では、「令和」への変更登記は不要であり、「平成●年」の記載を令和の相当年度に引き直して行使期間の末日を判断すれば足りると考えます。
 上記1.記載の依命通知の趣旨を鑑みますと、元号改正のように、会社側の事情ではない理由で登記事項証明書の記載内容に影響が出た場合にまで、会社側に登記申請義務を課すのは、過大な負担であると考えるからです。また、元号改正がなされただけで、実質的な行使期間に変更はないため、「平成」の記載のままでも、登記事項証明書を見た人が行使期間の末日について認識の齟齬を生じる可能性が低いからです。

4.当事務所に依頼することのメリット

 上記のとおり元号改正に伴い商業登記事務の取扱いが大幅に変わることはなく、会社側への影響は今のところ大きくないと考えます。
 しかし、商業登記事務の運用は、法令改正がなくとも、マイナーチェンジすることが少なくありません。
 そのようなマイナーチェンジまで全て会社側で情報を把握しておくことは、容易ではないと考えます。
 当方であれば、多数の企業から商業登記手続の依頼・相談を受けているという実績があるため、商業登記に関する運用改正の情報収集も積極的に行っているので、様々なケースにおいて最新情報に基づいた適切なアドバイスが可能です。
 本事例に限らず、会社に関する登記事項の変更を検討する方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上