(第50回)[不動産登記編]
数次相続登記における登録免許税の免税措置制度の新設

私は、母親から相続した土地を他人に貸して20年以上経ちますが、私自身が高齢になり、土地と賃貸借契約の管理が難しくなったこと・周辺地域に再開発の話があり買い手が見つかりやすい時期であることから、本土地の売却を検討しています。
しかし、不動産業者に相談したところ、土地の名義人が母親の死亡している夫名義のままになっており、私名義に変更してからでないと売却ができないと言われました。
司法書士に調査してもらったところ、母親の夫には子供がいなかった(私は母親の養子で、母親の夫とは実親子・養親子関係いずれもありません。)ようで、相続人が現在は多数になってしまっているとのことです。
具体的にはどのような対応が必要になるでしょうか?
また、相続に関する登記につき、登録免許税の免税措置制度が新設されたと聞きましたが、本件の場合に適用はありますでしょうか?

1.放置されがちな相続登記

 不動産(土地・建物)の登記名義人が死亡した場合、原則として、登記名義人の相続人は、遺産分割協議等により当該不動産を取得する人を決定した上で、当該不動産を取得した人の名義にするために、相続を原因として所有権移転登記(以下「相続登記」といいます。)を法務局に申請する必要があります。
 しかし、以下の理由から、相続登記の申請が行われないまま何年・何十年と放置されるケースが少なくありません。

<相続登記が放置される理由>
①相続税に係る税務申告と違い、相続登記には登記申請期限が無いこと
②相続登記を申請する場合、法務局に支払う登録免許税を要すること
 *登録免許税額は、不動産の固定資産評価額×0.4%です。
  固定資産評価額が3000万円の場合は、登録免許税額が12万円です。
 *司法書士に登記手続の依頼をした場合は、別途司法書士報酬もかかります。
③親の代から継続使用している(もしくは未使用)の不動産で、今後もその状況
 を変えない(同じ人に賃貸したまま又は自宅使用、未使用のまま放置等)場合
 には、②の費用をかけてまで、相続登記をするメリットが感じられないこと。

2.数次相続の場合の相続登記手続

 本事例のように、親などの世代で相続登記の申請を怠り、売却等により必要に迫られてから相続登記を申請する場合、その間に当初の相続人が死亡したことによって、複数回の相続が発生しているケースが少なくありません。これを「数次相続」(数次相続の典型事例と登記添付書類は、登記相談Q&A第1回参照)といいます。
 数次相続が発生している場合、現在の不動産所有者の名義にするためには、原則として、発生している相続全てについて相続登記申請をする必要があります。
 また、本事例であれば、母親の夫から自分が不動産を取得するまでの間に、複数の相続人が存在し、自分が不動産を取得していることがわかる各相続に関する遺言や遺産分割協議書が無い場合には、改めて生存している相続人全員から、自分名義にするための遺産分割協議書又は相続分持分譲渡書(いずれも相続人の実印による捺印+印鑑証明書。以下「遺産分割協議書等」といいます。)が必要となります。
 しかし、相続人が多数となる場合、遺産分割協議書等を全員から取得するのは容易ではないばかりか、相続人から協力を拒否される又は相続人が行方不明となっているケースも少なくありません。
 そのため、通常の相続登記であれば案件着手から1~2ヶ月程度で完了するケースが多いのに比べ、数次相続の場合は、案件着手から2~3年経過しても、登記申請書類が揃っていないケースが見受けられます。
 他方で、相続登記に要する費用も通常の相続登記であれば、司法書士報酬も含めて20万~30万円程度ですむことが多いですが、数次相続の場合は、100万円以上の費用を要するケースも少なくありません。

 そのため、数次相続登記をいざ行うことを決意したにもかかわらず、費用の見積り段階で諦めたり、着手したものの一向に登記が完了しないということもあり得ます。
 筆者が経験したケースでも、相続人が80人以上となり、かつ相続人間で過去揉めたことがあったため、遺産分割協議書への捺印を得られず、最終的には裁判等を経て、約5年(最初の相続が発生してからは30年以上経過している。)の時間を要して相続登記申請に至ったことがあります。
 したがって、数次相続とならないよう、相続登記は、最初の相続が発生した段階で放置をせず、速やかに行うことをお勧めします。

3.登録免許税の免税措置

 近年、数次相続による相続登記未了に伴う所有者不明の土地が社会問題化していることを鑑み、法務省が本問題の発生要因の一つに上記1.②があることに重きを置いたため、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間、数次相続登記のうち、土地(建物は適用外)について死亡している相続人名義にするための相続登記を申請した場合には、登録免許税を免税するとの措置を新設しました(租税特別措置法84条の2の3第1項)。
 本事例の場合ですと、母親の夫から母親名義にするための相続登記に係る登録免許税が免税されます(母親から自分名義への相続登記に係る登録免許税は従来どおり課されます。)。
 本事例のように、現在も活用している土地であれば、固定資産評価額も高額であることが多いため、免税によりメリットも大きくなります。
 現状、時限的な措置ですから、数次相続の発生している土地で、相続登記が未了の場合には、この機会に相続登記申請を行うことをお勧めします。

4.当事務所に依頼することのメリット

 本事例のように数次相続における相続登記の場合、相続人が複雑かつ多数となるため、相続人調査のための戸籍謄本を収集するだけでも対応に苦慮するケースが少なくないかと思います。
 また、相続人全員からの遺産分割協議書等の取得ができないために裁判を考える場合など、弁護士に依頼・相談すべきケースもあります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本事例に限らず、相続手続を行う必要がある方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上