(第44回)[不動産登記編]
法定相続情報証明制度の新設

私の父が先日亡くなりました。父は複数の不動産・預金(預金口座)・有価証券(証券口座)を有していましたが、遺言は無く、相続人である私も含めた子供らで協議した結果、私は、いくつかの不動産と預金(預金口座)を相続することになりました。
不動産に関しては売却予定もあるので、なるべく早く全ての不動産を私名義とし、銀行預金の払戻し手続も完了させたいと考えていますが、何か良い方法はありますでしょうか?
法定相続情報証明制度が新設されたと聞きましたが、具体的にどのようなメリットがあるでしょうか?

1.相続手続には時間がかかることが多い

 最近では、相続人間での遺産争いを防ぐ目的で、被相続人(=亡くなられた方)が遺言を作成しているケースは増加傾向にありますが、当方の経験則上、まだまだ本事例のように、遺産が相当数あるにもかかわらず、遺言を作成せずに亡くなられるケースも少なくありません。
 その場合には、相続人全員(法律上、被相続人の遺産を承継する権利のある方)で、遺産分割協議を行い、誰がどの財産を承継するのかを決める必要があります。
 そして、遺産分割協議が成立したら、協議内容を記載した遺産分割協議書を基に、各遺産につき、名義変更や解約による払い戻し手続を行います。
 遺産分割協議が成立すれば、名義変更等の手続は1~2週間程度で直ぐにでも簡単に完了すると思っている方も少なくありませんが、実際には遺産分割協議書以外にも不動産であれば法務局・預金(預金口座)であれば銀行・有価証券(証券口座)であれば証券会社と、それぞれの窓口ごとに様式の決まった書類を提出する必要があり、煩雑です。
 また、証券会社など、相続手続の申請をしてから完了までに1ヶ月以上かかるところもあり、遺産が複数種類ある場合には、相続手続の依頼を受けてから、全ての遺産の承継手続が完了するまでに、4ヶ月~半年近く要するケースも少なくありません。遺産分割協議で揉めてしまった場合には、調停や裁判が必要になるケースもあるでしょうから、その場合にはさらに時間を要することになります。

 このように相続手続には時間を要しますが、その要因の一つに、法務局・銀行・証券会社の窓口に、それぞれ被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本及び相続人の戸籍謄本(以下総称して「戸籍謄本等」といいます。)の原本の提出が必要なことが挙げられます。
 戸籍謄本等の原本は、どの窓口も手続完了後に原本を返却してもらえますが、原則として手続申請中は、当該窓口に原本を預けたままになります。
 したがって、例えば法務局に相続登記申請をしている間は、戸籍謄本等の原本が法務局にあるため、相続登記手続が完了するまで、銀行へ相続手続申請をすることができず、順次行う必要があります。
 そのため、同時並行で全ての相続手続を進められれば時間短縮が可能であるにもかかわらず、それが難しいので、複数種類の遺産に係る相続手続には、時間を要するケースが多いです。
 同じ戸籍謄本等を複数通取得すれば、複数の窓口に戸籍謄本等の原本を同時に提出することが可能となるため、本事例のようにどうしても急ぎで相続手続を進めたい事情がある場合には、そのような手法を選択することも考えられますが、あまりお勧めしません。
 戸籍謄本等を複数通取得するということは、戸籍謄本等を取得するための費用が2倍以上かかることになりますし、いずれも手続完了後には原本が返却されるため、個人情報として管理や廃棄が容易ではない戸籍謄本等の原本を大量に相続人の方が保有することは、好ましいことではないと考えるからです。

2.法定相続情報証明制度の新設とメリット

 上記1.で記載した時間を要する点を少しでも解消するために新設された制度が、「法定相続情報証明制度」です。
 法定相続情報証明制度は、不動産登記規則の改正案として、平成28年12月~平成29年の1月の間に法務省のパブリックコメント(意見募集)が実施され、平成29年5月29日に制度開始が予定されています。

 法定相続情報証明制度は、戸籍謄本等及び被相続人・相続人の氏名等を記載した「法定相続情報一覧図」を法務局に提出することにより、法務局が法定相続情報一覧図に認証文言を付す制度です。
 そして、認証文言付法定相続情報一覧図を、法務局・銀行・証券会社等の各窓口に提出することにより、戸籍謄本等の原本を提出せずに、相続手続を進めることが可能になる予定です。
 また、認証文言付法定相続情報一覧図は、発行手数料の無料を予定していますので、何通発行しても、費用がかからず、戸籍謄本等の原本を複数通取得するよりもメリットがあります。

 したがって、本事例のように、複数種類の遺産を相続された方にとっては、利用価値が高いものと考えます。
 まだ制度開始前なので、細部は不透明な部分が多々あるため、今後も制度の運用方法等を注視していき、必要に応じて、本ホームページでも情報発信したいと思います。

3.当事務所に依頼することのメリット

 法定相続情報証明制度を活用する場合であっても、戸籍謄本等を最低1セットは取得する必要があり、慣れていないと、対応に苦慮するケースが少なくないかと思います。
 また、相続人間で遺産取得方法に争いがあり、遺産分割協議が整わないため裁判を考える場合など、弁護士に依頼・相談すべきケースもあります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本事例に限らず、相続手続を行う必要がある方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上