(第43回)[商業登記編]
組織再編時の株主リストの作成者は誰か?

当社は子会社に事業を一部分割承継させる吸収分割を行う予定ですが、簡易分割・略式分割の要件を満たさないため、当社・子会社とも株主総会で吸収分割の承認決議を行う予定です。
株主リストの作成者は誰になるでしょうか?
また、吸収分割に際して、子会社の商号変更や代表取締役変更も行う予定です。
株主リストの作成に関して、注意点はあるでしょうか?

1.組織再編時の株主リスト作成者は誰か?

 平成28年10月1日付で商業登記規則が改正され、株主総会議事録の添付が必要な登記申請には、株主リストも併せて添付することが必要になりました(株主リストの詳細については、登記相談Q&A第41回をご参照ください。)。
 改正から4か月経過しましたが、それまでの間にさまざまな実務上の問題点があり、当方も法務局との協議等を何度もしましたが、その中で代表的な問題点として、組織再編時の株主リスト作成者を誰にすべきか?という点があります。
 つまり、合併や会社分割等の組織再編に係る登記申請をする際に、株主リストの作成名義人となる会社は、当事会社のうち、いずれの会社にすべきなのか?という点です。
 この点、改正直後は、様々な意見や法務局ごとに見解の相違があり、実務が混乱しましたが、この度、司法書士会から法務省に正式な照会がなされ、法務省から回答があったため、実務の運用が統一されました。
 その結果、組織再編行為ごとの株主リストの作成者は、以下のとおりとなります。改正直後の実務の運用と異なる箇所もありますので、ご注意ください。
 なお、簡易分割や略式分割等、株主総会決議が不要な場合には、株主リストを作成する必要がありません。

組織再編の種類株主リスト作成者
合併吸収合併存続会社分消滅会社分
存続会社の代表取締役存続会社の代表取締役
新設合併設立会社分消滅会社分
不要設立会社の代表取締役
会社分割吸収分割承継会社分分割会社分
承継会社の代表取締役分割会社の代表取締役
新設分割設立会社分分割会社分
不要分割会社の代表取締役
株式交換完全親会社分完全子会社分
完全親会社の代表取締役完全子会社の代表取締役
株式移転完全親会社分完全子会社分
不要完全子会社の代表取締役
組織変更
(株式会社→合同会社)
合同会社分株式会社分
不要合同会社の代表社員

2.その他の株主リストに関する注意点

 上記1.組織再編以外で、株主リストに関する実務上の注意点として、当方が経験した内容で挙げられるものは、以下のとおりです。
 こちらは、法務省から正式な見解が示されていないものもあるため、実務の運用が今後変更される可能性があるので、ご注意ください。

  • 商号変更をした際、会社代表印の改印届出を行いますが、株主リストに捺印する印鑑は改印前・改印後いずれの印鑑にすべきでしょうか?

    • 改印後の印鑑にすべきです。
       本事例のように、商号変更をする場合、商号変更登記と併せて、会社代表印の登録を変更後の商号のものに改印するケースが多いです。その場合には、登記申請時の会社代表印は改印後の印鑑となるため、株主リストに捺印すべき印鑑は、改印後の印鑑になります。

  • 代表取締役を変更する場合、株主リストに記名捺印すべき代表取締役は誰でしょうか?

    • 変更後の代表取締役です。
       本事例のように代表取締役を変更し、株主総会時点と登記申請時点で代表取締役が異なる場合、株主リストに記名捺印すべき代表取締役は、登記申請人となる変更後の代表取締役です。

  • 株主リストに記載すべき株主は、いつの時点の株主でしょうか?

    • 原則として株主総会時点の株主です。
       但し、定時株主総会のように定款で基準日を定めた場合や、臨時株主総会において基準日設定公告をした場合には、当該基準日時点の株主です(会社法124条)。

  • 株主に相続が発生している場合はどのように対処すべきでしょうか?

    • 株主の相続人側から相続の届出があるまでは、原則として、元々の株主の氏名等を記載しておけば足ります。
       当該相続の届出があった場合は、遺産分割協議によって株式を取得した者が株主になるので、その者の情報を記載します。遺産分割協議が未了の場合には、相続人全員の情報を記載することになります。
       その者の情報を記載します。遺産分割協議が未了の場合には、相続人全員の情報を記載することになります。
       但し、会社側で積極的な相続人の調査までは不要と考えます。

  • 複数回開催された株主総会や複数の登記事項を一括して登記申請する場合、株主リストは株主総会ごと・登記事項ごとに作成すべきでしょうか?

    • 記載する株主等の情報が同一の場合には、一括して1通のみ作成すれば足ります。

3.当事務所に依頼することのメリット

 株主リストに関する登記手続の改正につき、実務の運用も概ね固まってきましたが、今後も変更可能性があり、実際に登記申請をする時点で運用が変わる可能性も否定できないため、常に最新情報を把握している必要があります。
 そのため、商業登記手続に慣れていないと、対応に苦慮するケースが少なくないかと思います。
 また、組織再編行為を行う場合は、単に登記手続用の株主総会議事録等の必要書類を作成するだけでなく、スキーム検討など、弁護士に依頼・相談すべき事項もあります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本事例に限らず、合併・会社分割等の組織再編行為を検討する企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上