(第42回)[商業登記編]
株主総会議事録等の添付書類閲覧に関する改正
2016年11月1日
当社は取引をしている会社(以下「取引先」といいます。)に売掛債権を有していますが、取引先からの支払いがありません。
取引先は、新設分割をして、利益の出ている事業のみを新設会社に移し、当社の売掛債権は取引先に残したままのようです。
今後、取引先・新設会社に対して、債権回収のための法的措置を検討しているため、当該新設分割に係る新設分割計画書・株主総会議事録等の登記申請時の添付書類を法務局で閲覧したいと考えていますが可能でしょうか?
また、添付書類の閲覧要件・手続に関する改正があったと聞きましたが、具体的にはどのような改正があったのでしょうか。
1.登記申請時の添付書類とは?
会社の登記事項証明書(登記簿謄本)は、取引先に限らず、全く取引関係の無い会社であっても、当該会社の商号(会社名)と本社所在地が分かれば、全国どの法務局であっても取得可能です。
しかし、本事例のように、取引先の登記事項証明書だけでは足りず、新設分割等、取引先が何か変更手続をした際の関係資料を入手したいというケースは少なくありません。
勿論、取引先から直接入手出来ればいいのですが、本事例のように、何らかの理由で支払が滞っている等取引先とトラブルになっているケースですと、取引先が任意で資料を開示してくれる可能性は低いと考えます。
そこで、新設分割であれば、当該登記申請をする際に、管轄法務局(当該会社の本店所在地を管轄する法務局です。港区の会社であれば東京法務局港出張所です。以下同じです。)に登記申請書の添付書類(商業登記法上は、登記申請書と添付書類を一括して「附属書類」といいます。)として、新設分割計画書・株主総会議事録・株主リスト(株主リストについては、登記相談Q&A第41回をご参照ください。)等を提出していますので、当該書類を閲覧できれば、債権回収に有益となることも少なくありません。
添付書類は、登記申請をしてから5年間、管轄法務局で保管していますので、取引先から関係資料の入手が困難な場合には、法務局での添付書類の閲覧を検討するのも一方法かと考えます。閲覧料金は、1件の登記申請に係る添付書類につき、500円です。
ちなみに、添付書類は、閲覧のみが可能であり、コピーをすることはできません。但し、デジカメ等で撮影することは認められています。
また、登記事項証明書と異なり、添付書類を保管しているのは管轄法務局のみなので、管轄法務局まで行く必要がありますから、ご注意ください(大阪が本社の会社であれば、大阪法務局まで行く必要があります。)。
2.添付書類の閲覧要件と手続が厳格に
添付書類を閲覧する場合、当該添付書類に利害関係を有していることが必要です(商業登記法11条の2)。
したがって、本事例のように、取引先の債権者が債権回収のために閲覧する必要がある等、利害関係を有している理由を閲覧申請書に記載する必要があります。
しかし、従前は、実際に利害関係があるかどうかを証明する資料を添付する必要がなく、閲覧対象とする書類も「添付書類一式」と記載すれば良く、厳格な運用がされていたとは言い難いものでした。
そこで、平成28年10月1日付で、株主リストの改正に合わせて、商業登記規則が改正され、以下のとおり添付書類の閲覧要件・手続が改正されました(改正後商業登記規則21条)。
<改正点>
- ①閲覧申請書に「閲覧しようとする部分」と「当該閲覧部分についての利害関係を有している理由」を記載する必要になったこと
- ②利害関係を証する書面の添付が必要になったこと
本改正①に伴い、単に「当該会社の債権者だから添付書類一式を閲覧したい」というだけでは足りず、より具体的に「○○の件で、債権を有しており、○○を理由として、○○をしたときの株主総会議事録を閲覧したい」と、詳細な理由で、かつ具体的な閲覧対象の書面の特定も必要になったと考えます。
例えば、本事例が濫用的新設分割を疑う事例なのであれば、「濫用的会社分割に伴い詐害行為取消権の行使を検討しているため、当該新設分割に係る株主総会議事録・新設分割計画書の内容を確認する必要がある」等を閲覧申請書に記載する必要があると考えます。
また、本改正②に伴い、利害関係を証する書面も必要になったので、閲覧申請人が利害関係を有していると登記官が判断できる資料を提出する必要があります。具体的には、本事例であれば、債権者であることがわかる契約書や支払交渉に係る資料、場合によっては準備している訴訟の訴状案などの提出が求められることも考えられます(法務省民商第99号-依命通知)。
そして、閲覧申請書等を提出した上で、登記官が審査をし、登記官が必要と判断した部分のみ、閲覧が認められることになります(請求した全ての書類の閲覧は認められずに、一部のみ閲覧が可能となることもあります。)。
3.当事務所に依頼することのメリット
債権回収を検討する場合、訴訟等の法的手続を視野に入れつつ、その前提として、証拠となる資料を集める段階から、その手法等を弁護士に相談することは有益と考えます。また、当該資料が登記手続に関するものであれば、商業登記手続に慣れている司法書士だからこそ気づける視点というのもあります。
当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
本事例に限らず、債権回収を検討する企業がありましたら、お気軽にご相談ください。
以上