(第41回)[商業登記編]
登記申請時に株主リストの添付が必要になる改正
2016年8月1日
当社は上場申請期のベンチャー企業ですが、9月下旬に開催予定の臨時株主総会で、株式譲渡制限規定を廃止し、公開会社となる予定です。
何か注意すべき事項はあるでしょうか?
また、登記申請時に株主リストの添付が必要になる改正があったと聞きましたが、具体的にはどのような改正があったのでしょうか。
1.株式上場前における株式譲渡制限規定廃止等の定款変更
現在、株式上場をしていない企業の約9割が、株式譲渡制限規定のある非公開会社と言われています。
非公開会社の方が、取締役会の設置が必須ではない・任期を最大10年まで伸ばせるなど、株主・役員数の多くない中小企業にとっては非常に便利だからです。
しかし、上場企業の場合は、市場で株式が流通するため、株式譲渡制限規定の無い公開会社であることが必須です。そのため、株式上場を目指す企業の場合、上場前までに株式譲渡制限規定を廃止して、公開会社となる必要があります。
一般的には、上場前、最後に開催する臨時株主総会で、株式譲渡制限規定を廃止するケースが多いかと思われます。
また、同臨時株主総会では、上場企業用の定款にするため、他にも株主名簿管理人設置・会計監査人設置・監査役会設置・事業目的の整備・取締役の任期を1年にするかどうか等、抜本的に定款規定の見直し・変更をする必要があります。
企業によっては、既に監査役会や株主名簿管理人が設置済である等、一部変更済の場合もあり、何が必要であるかは各社対応が異なります。
2.役員の再任決議も必要
株式譲渡制限規定を廃止した場合、取締役・監査役の任期が全員満了します(会社法332条7項3号・336条4項4号)。
したがって、同臨時株主総会で、取締役・監査役の再任決議が必要になりますので、ご注意ください。
さらには、監査役会を新規に設置するのであれば、監査役の増員が必要になります。会計監査人を新規に設置するのであれば、会計監査人となる監査法人の選任決議も必要です。
一般的には、このタイミングの臨時株主総会の場合、招集通知の作成段階から、証券会社・信託銀行がアドバイスをしてくれますので、議案の漏れというのは少ないかもしれませんが、単に株式譲渡制限規定を廃止する等の定款変更を行うだけでは足りませんので、ご注意ください。
3.登記申請時に株主リストが必要に
上記1.2.の決議を行った場合、管轄法務局に対して、その旨の変更登記申請をする必要があります。
これまでは、株主総会の決議内容を証する書面として、株主総会議事録を添付すれば足り、実際に株主総会がきちんと行われたかどうか・株主の出席があったかどうかについて、証明する書類の提出は不要でした。
しかし、平成28年10月1日付で、商業登記規則が改正され、株主リストの添付も必要になりました。
具体的には、定款変更・役員変更など、株主総会議事録の添付が必要な登記を申請する場合、議決権比率が高い順に上位株主10名又は合計で総株主の議決権の3分の2に達するまでの上位株主のいずれか少ない方の株主情報(氏名又は法人名・住所・持株数・議決権数・議決権割合)を記載した株主リストを提出する必要があります(改正後商業登記規則61条3項)。
上場前の企業であれば、株主である社長だけで総株主の議決権の3分の2の要件を満たすケースも少なく無いかもしれませんが、ベンチャーキャピタルが多数入っており、社長の持株比率が低い企業の場合には、上記要件を満たすために、多数の株主情報を記載した株主リストを作成する必要があります。
株主総会の開催方法などに変更があったわけではないので、実務上の影響はそう大きく無いかもしれませんが、今まで不要だった書類が追加されたので、その分手間が増えることになります。
また、本事例のように、10月1日前に行った株主総会であっても、登記申請が10月1日以降の場合には、本改正の適用がありますので、ご注意ください。本事例のように9月下旬に株主総会を行った場合の変更登記申請は、10月1日以降になされることが少なくありませんので、本改正の適用があると考えた方がいいでしょう。
他方で、ベンチャー企業や上場企業の子会社では活用事例が多いと思いますが、株主全員の同意を得て書面決議(会社法319条)で株主総会を行った場合も、株主全員の株主情報を記載した株主リストの提出は不要であり、議案自体の決議要件(会社法309条)に従った株主リストを提出すれば足ります(改正後商業登記規則61条3項)。
4.当事務所に依頼することのメリット
株主リストに関する登記手続の改正は、それほど複雑ではありませんが、改正直後は運用が固まっていないため、商業登記手続に慣れていないと、対応に苦慮するケースが少ないかと思います。
また、上場前の株主総会は、単に登記手続用の株主総会議事録を作成するだけでなく、株主総会の準備など、弁護士に依頼・相談すべき事項もあります。上場に向けた変更登記事項も多岐に亘り、複雑です。
当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
本事例に限らず、株主総会の開催や上場準備を検討する企業がありましたら、お気軽にご相談ください。
以上