(第35回)[商業登記編]
取締役を追加選任する場合の登記書類の改正と留意点

当社は、女性の雇用促進をしていることを社内外にアピールするため、女性を取締役に就任させることを検討しています。
当社は、12月決算であるため、本年3月の定時株主総会で取締役の選任決議を行う予定です。
取締役を選任した場合の変更登記の必要書類に改正があったと聞きましたが、具体的にはどのような改正があったのでしょうか。

1.取締役の追加選任手続

 取締役を追加選任する場合、株主総会決議が必要です(会社法341条)。
 選任する株主総会は、定時株主総会・臨時株主総会のいずれでも構いませんが、株主が多数いる会社の場合には、臨時株主総会の開催が費用・時間的コストの観点から困難なので、余程の事情が無い限り、定時株主総会で行います。
 また、上場会社の場合には、取締役の任期を1年としている会社が現在は多いため、毎年取締役の再選決議を行う必要があり、取締役の入れ替えや追加を行う場合も、取締役の再選決議に併せて行うことが一般的です。

 そして、株主総会での取締役選任後、2週間以内に管轄法務局で変更登記申請を行う必要があります(会社法915条)。
 取締役会設置会社が、取締役の追加選任をした場合、従来の登記必要書類は、以下のとおりでした。

<従来の登記必要書類>

  1. ①株主総会議事録
  2. ②当該取締役の就任承諾書(認印可)

2.登記手続における改正点①~必要書類の改正~

 平成27年2月(本稿執筆時点で、具体的な時期は未定です。)、上記1.のように取締役を追加選任する場合の必要書類が改正される予定です。
 具体的には、追加選任する取締役に関し、上記1.①及び②の書類に加え、以下のいずれかの書面が必要となります。

<追加で必要となる書類(以下「本人確認書類」といいます。)>

  1. ①当該取締役の印鑑証明書
  2. ②当該取締役の住民票
  3. ③当該取締役に関し、その他公務員が職務上作成した証明書

 従前は、上記1.のように取締役会設置会社においては、本人確認書類が不要でした。
 しかし、今後は、どのような規模の会社であっても、当該取締役に関し、上記①~③(通常は、①又は②のいずれか)のいずれかの書類を添付する必要があります。
 したがって、外部から社外取締役を招聘する場合であっても、同様の書類が必要となるため、今まで以上に、書類の準備に時間を要することになります。
 そのため、登記申請期限である2週間を遵守するためには、新任取締役に対し、就任承諾書の捺印と併せて、印鑑証明書を返送するよう指示するなど、事前の準備が重要になります。

 なお、上記規定は、新任の取締役にのみ適用がありますので、任期満了に伴い再任をした取締役の変更(重任)登記の場合には、従来どおり本人確認書類の添付が不要です。

 他方で、監査役が就任する場合にも同様の書類が必要となります。

3.登記手続における改正点②~旧姓が登記可能に~

 女性に見られるケースですが、結婚前から勤務している職場内では、結婚後も旧姓で仕事をしていることがよくあります。
 そのため、女性に取締役として就任してもらう場合、旧姓で登記をしたいという要望が従前からありました。
 そこで、本改正によって、旧姓での登記も可能となりました。

 この点、改正後に就任する役員だけでなく、本改正後6ヶ月以内は、現在就任している役員についても、旧姓の登記を追加することが可能です。

4.当事務所に依頼することのメリット

 上記の点は、改正後間もないこともあり、法務局の運用が固まっていないため、登記申請をする際には注意が必要です。
 当方であれば、多数の企業から商業登記手続の依頼・相談を受けているという実績があるため、本改正に関する質問等も既に多数受けており、適切なアドバイスが可能です。
 本件の事例に限らず、役員変更を検討している企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上