(第32回)[不動産登記編]
抵当権者が清算結了等により行方不明の場合の抵当権抹消の対応は?
2014年5月1日
息子の家に同居することになったので、今まで住んでいた私所有の建物の売却を考えています。
しかし、不動産会社に相談したところ、私が退職前に住宅ローンのため借入していた勤務先であるA会社(以下「A会社」といいます。)の抵当権が残っているので、これを抹消しなければ売却出来ないと言われました。
A会社の住宅ローンは、10年以上前に完済していますが、当時の書類が見当たりません。また、A会社は大分前に社長の後継ぎが不在ということで清算結了をしており、社長等の現在の行方が分かりませんでした。何とか抵当権を抹消することは出来ないでしょうか?
1.休眠担保権の一般的な抹消方法
抵当権の抹消登記手続は、不動産登記法60条に基づき、抵当権者と設定者の双方から申請する必要がありますので、原則としてA会社の協力が無くては抹消登記をすることが出来ません。
しかし、本件のように、完済をしたにもかかわらず抵当権の抹消登記をせず、いざ必要な段になった際には書類が見当たらず、かつ抵当権者が消滅している・行方不明であるなどの理由により、登記手続の協力を得ることが物理的に困難な場合が少なからずあります。
このような担保権(抵当権)を俗に休眠担保権と言います。
とはいえ、本件のように、建物売却にあたっては既存の抵当権を抹消することが必須ですから、放置することが出来ません。
このような場合に、あなた様だけで抹消登記を申請することが出来る方法として、一般的には、下記の3つがあります。
いずれもA会社が「行方不明」(=所在不明とほぼ同義)であることが、3つの方法の共通の要件です。
これは単にあなた様がA会社の現在の本店所在地やA会社の代表者の住所・連絡先を知らないということ及びそれに伴って、登記簿謄本・住民票や戸籍の調査をしただけでは足りません。周辺住民や官公署への聞き込み調査(現在もここに住んでいるのかどうか、何処かに引越したことを知らないかなど)を行う必要があり、調査報告書や住民の陳述書等を添付する必要があります。
記
- (1) 裁判所に対し、公示催告の申立をし、除権判決を得た上で、当該判決正本を登記申請書に添付する方法
- (2) 債権証書(借用証書等)及び債権全額・利息等の定期金最後の2年分を弁済したことが分かる領収証を添付する方法
- (3) 債権の元本・利息・遅延損害金の全額を弁済供託する方法(但し、弁済期から20年以上経過している場合に限る)
(1)の方法は、公示催告期間が2ヶ月あるため、時間がかかります。
(2)の方法は、本件のように書類が残っているケースが多くないため、あまり使用されません。
(3)の方法は、他の手続に比べ、裁判所の利用が不要・過去の書面が不要であるため、一番利用が検討される方法です。但し、登記簿上の債権額(元本・利息・遅延損害金を含む)全額を再度弁済供託する必要があるため、債権額が高額の場合には使用し辛い方法です。主に、明治・大正・昭和初期~中期に設定された抵当権など、貨幣価値が今と異なる場合の抵当権が現在も登記簿上残っている場合によく利用されます。
2.抵当権者が会社の場合に検討すべき方法
上記1.記載の一般的手法は、いずれも抵当権者が「行方不明」という要件が必要であるため、抵当権者が会社の場合には、「行方不明」の要件をそもそも満たさず、利用が困難な場合が少なくありません。
個人の場合と異なり、会社の場合は、清算結了により登記簿が閉鎖した後も、閉鎖登記簿謄本が20年間取得可能であるため、当時の会社の所在地や代表者が特定できることが少なくないからです。
そして、仮に当時の代表者の所在(現住所や連絡先)が不明であったとしても、閉鎖登記簿謄本が取得可能であれば、裁判所に清算人選任の申立をする(会社法478条2項)ことによって、原則として当該清算人を代表者とする会社との共同申請により抵当権抹消登記が可能になります。
なお、清算人選任の申立を裁判所に行う場合、清算人の業務に応じた清算人報酬及び費用を裁判所に予納する必要があります(この金額は一律ではありませんので、ご注意ください。)。
3.当事務所に依頼することのメリット
本来、抵当権抹消登記手続は、登記手続の中では簡単な登記の部類であり、時間・手間・費用があまりかかりません。
しかし、休眠担保権となってしまいますと、上記1.2.いずれの手法による場合であっても、時間・手間・費用がかなりかかります。
住宅ローンなどの借金を完済した場合には、速やかに抵当権の抹消登記をすることをお勧めします。
ご自身でも対応可能な場合が多いですが、当事務所でも対応可能ですから、お気軽にご相談ください。
他方で、休眠担保権の抹消の場合には、そもそもどの手法を選択すべきかという点から検討する必要があるため、ご自身で対応されることは困難かと考えます。また、裁判手続が必要となることが少なくないため、弁護士による対応が必要な場合もあります。
当事務所であれば、登記手続部分は司法書士である当方が、裁判手続部分は、弁護士が対応することが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
休眠担保権でお困りの方がいましたら、お気軽にご相談ください。
以上