(第31回)[不動産登記編]
放置された相続登記の対処法とそのリスク

私は、先日亡くなった父の所有していた土地及び建物(以下「土地等」といいます。)を単独で相続しました。
しかし、登記事項証明書を確認したところ、登記名義人の記載は祖父名義のままになっていました。
相続登記をする際に注意すべき点はありますでしょうか。
ちなみに父は5人兄弟で、兄弟で話あって今の土地等を自分が相続したと生前私に話してくれました。その遺産分割協議書のコピーはありますが、原本が見当たりません。

1.あなた様名義に相続登記(以下「相続登記」といいます。)をする方法

 あなた様の父が本件の土地等を単独で相続するとの記載がある遺産分割協議書の原本が見つかれば、死亡後何十年と経過していたとしても、直にあなた様名義への相続登記をすることが可能です(これを数次相続登記といいます。数次相続登記については登記相談Q&A第1回をご参照ください。)。
 しかし、遺産分割協議書の原本が紛失して見当たらない場合は厄介です。
 直に相続登記するために、あなた様は父の相続人として、他の祖父の相続人(父の兄弟)との間で、本件土地等をあなた様が単独相続するとの記載のある遺産分割協議書を再度作成する必要があるからです。
 この場合には、手紙等で各相続人に連絡し、協力してもらう必要があります。
 当時のことを覚えていて、すんなり協力してもらえるならいいのですが、遺産分割協議書に捺印(実印で捺印する必要がある。)することに難色を示す方もいらっしゃると思われます。
 特に、父の兄弟も亡くなっている場合、その子供等が相続人として、遺産分割協議書に捺印してもらう必要がありますが、疎遠である場合も多く、本件土地等の存在すら知らない場合もあるでしょうから、事情を説明し、理解してもらうだけでも一苦労です。
 もし、相続人全員の協力が得られない場合には、裁判所に相続を原因とする所有権移転登記訴訟(父が単独相続するとの遺産分割協議が有効に成立していることが前提です。)又は調停の申立をする必要があります。

2.戸籍の収集

 登記申請の際には、遺産分割協議書だけでなく、戸籍謄本等を添付する必要があります。
 必要な戸籍は被相続人の出生から死亡までの記載のある戸籍謄本、除籍謄本(転籍等をしている場合の従前の戸籍のこと。)、改製原戸籍(戸籍制度の変更のために国が戸籍を新しくした場合の従前の戸籍のこと。)及び各相続人の戸籍謄本です。
 本件のように遺産分割協議書に捺印してもらう相続人が多数に及ぶ可能性がある場合には、戸籍等の収集量が増えるため、時間や実費もそれだけ多くかかります。
 また、戸籍等の収集は、慣れていないと何処の役所に請求してよいかという判断も困難だと思いますので、専門家である司法書士に依頼されることをお勧めします。

3.相続登記が放置される理由

 相続登記がされずに放置される理由として考えられる主な理由は以下の4つです。

  1. ①相続税の申告及び納付のように期限があるわけではなく、登記申請しなかったとしても法務局等の役所から催促が来たり、過料等の制裁措置がないこと。
  2. ②登記申請手続は慣れてないと煩雑であり、かつ申請の際に登録免許税(不動産の固定資産評価額×0.4%)を納める必要があること(3,000万円の土地であれば12万円必要)。司法書士に登記手続を依頼すれば報酬も別途かかること。
  3. ③相続した不動産を自分のものであると公示するために、相続登記手続が必要であることをそもそも知らない方が多いこと(不動産を買った場合には、不動産会社から登記が必要な旨の説明を受けるが、身近に専門家の知り合いがいない場合には、相続の場合にも登記が必要な旨を説明してくれる人がいない。)。
  4. ④相続した不動産を自身を所有・使用し続けている限りは、相続登記をしなかったとしてもトラブルとなるケースが少ないこと。

 しかし、後日当該不動産を第三者に売却するときなどには前提として相続登記を必ず申請する必要があります。
 いざ相続登記が必要となっても、それまでに相続登記を放置していた期間が長ければ長いほど、相続人の数が増え、全国にちらばってしまう可能性は高く、調査に要する時間や費用が多くかかることはもちろんのこと、昔の話ですと各相続人を説得するのにも多大な負担を要します。
 そうしますと、折角買い手が現れた不動産であっても、相続登記が難航したために、売却のタイミングを逸してしまう恐れもあります。

 また、司法書士にご依頼された場合の報酬も、相続登記をせずに長年放置していた場合の方が、通常の相続登記手続に比べ、高くなります。
 通常の相続登記手続の報酬は7万円程度ですが、相続登記をせずに長年放置し、相続人が多数になる場合の報酬は少なくとも15万円以上になるケースが多いかと思われます。

4.当事務所に依頼することのメリット

 相続登記をする場合には、前提として必要な戸籍の収集から行う必要がありますが、慣れていないと戸籍を読み解くのにも苦労をし、必要な戸籍を集めることすら困難な場合が多々あります。
 当方であれば、相続人の数が多数に及ぶ場合も含め、様々なパターンの相続登記を経験していますので、迅速かつ正確な対応が可能です。
 また、当事務所であれば、相続人間で遺産の分配方法で揉めてしまった場合にも、遺産分割協議の交渉・調停手続などの対応を弁護士が行うことが可能であり、単なる登記手続だけでなく、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、ご親族の方がお亡くなりになり、財産に関する対応でお困りの方がいましたら、お気軽にご相談ください。
 なお、本件での相続登記申請に添付する書類は下記の通りです。

 所有権移転登記(相続登記)

  1. (1) 遺産分割協議書
  2. (2) 遺産分割協議書に捺印した相続人全員の印鑑証明書
  3. (3) 祖父の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍・除票
  4. (4) 父の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍・除票
  5. (5) あなた様も含めた各相続人の戸籍謄本・住民票
  6. (6) 建物及び土地の固定資産評価証明書

以上