(第28回)[商業登記編]
取締役等の責任免除規定を設定する場合に注意すべきこと

当社は、近年事業規模が拡大かつ多角化してきており、また外部株主が多くなってきています。今後、さらに事業規模を拡大し、将来的には株式上場も視野に入れています。
それに伴い、取締役及び監査役に対し、取締役会の決議にて一定額の賠償責任を軽減できる旨の責任免除規定を設定することを考えています。
具体的にはどのようにすれば宜しいでしょうか

1.取締役等の責任免除規定とは?

 会社法下では、職務遂行上の任務懈怠について、取締役・監査役・会計参与・会計監査人・執行役(以下「取締役等」といいます。)に対し、損害賠償責任を負わせています。
 しかし、会社経営においては、高度な経営判断に基づきある程度のリスクテイクをしなければならない場面があり、結果的にそれが功を奏しなかった場合に会社が被る損害額が巨大化することがあります。会社の事業規模が大きくなればなるほど、その可能性は高くなるでしょう。
 この場合に、取締役等に軽微な過失があったからといって取締役等が常に巨額の損害賠償責任を負わなければならないとすると、取締役等がその責任を恐れて積極的な経営戦略が立てられないかもしれません。
 そこで、会社法下では、取締役等の責任を一定程度免除する制度を設けています。
 具体的には、株主総会の特別決議により免除する方法と、取締役会の決議(取締役会非設置会社の場合には取締役の過半数の同意)により責任を免除できる旨を定款に定める方法(以下「責任免除規定」といいます。)があります(会社法425条、426条)。
 旧商法下でも同様の制度はありましたが、会社法下で機関設計が柔軟化されたことに伴い、後述の通り責任免除規定を設定するための要件が変更されています。

2.責任免除規定の設定方法

 責任免除規定を設定する場合、定款にその旨を定める必要があります。
 具体例は、以下の通りです。

<定款例-取締役の場合>

  1. 第●条 当会社は、会社法第426条第1項の規定により、任務を怠ったことによる取締役(取締役であった者を含む)の損害賠償責任を、法令の限度において、取締役会の決議によって免除することができる。

 既存の会社が責任免除規定を設定する場合には、定款変更をする必要がありますので、株主総会の特別決議が必要です。さらには、当該定款変更議案を株主総会に提出するにあたり、予め監査役全員の同意が必要です(会社法425条3項、426条2項)。これは、監査役の同意を要件とすることにより、取締役会のみの恣意的な判断を防止するためです。

3.会社法下において、責任免除規定を設定する場合に特に注意すべき点

 責任免除規定を設定する場合、当該会社の機関は取締役が2名以上であり、かつ監査役設置会社であることが必要です(会社法426条1項)。
 この点、会社法下では、監査役の登記をしていたとしても、定款にて監査役の権限を会計監査に限定している場合(会社法389条)には、監査役設置会社に該当しませんので、ご注意ください(会社法2条9号)。
 なお、会社法施行前から存続している会社で、会社法施行時に株式譲渡制限規定があり、かつ資本金が1億円以下であった場合(以下「非公開小会社」といいます。)には、定款に上記会計監査権に限定する旨の定めがあるものとみなされています(整備法53条)。そのため、多くの会社では、責任免除規定を設定することができない可能性がありますので、ご注意ください。
 したがって、非公開小会社が責任免除規定を設定する場合には、責任免除規定の定款変更議案だけでなく、①会計監査権に限る旨の定款規定廃止②監査役の再任の決議(①を廃止することにより監査役の任期が満了するため。会社法336条4項3号。)を併せて行う必要があります。

4.旧商法下から責任免除規定を設定している会社の場合

 旧商法下では、非公開小会社の場合でも責任免除規定を設定することが可能でした。そのため、非公開小会社であっても責任免除規定の登記をしている会社があります。このような会社が、責任免除規定を会社法施行後も有効とするためには、上記3.の手続をする必要があります。
 責任免除規定があるからといって、上記3.の手続を行わなかった場合には、当該免除規定に基づいて取締役がした行為の責任を免除することができなくなりますので、ご注意ください。
 但し、会社法施行前に取締役がした行為については、当該免除規定が会社法施行後も有効であるため(整備法78条)、引き続き非公開小会社の機関設計を維持する会社であっても、従前の免除規定を削除する必要はありません。

5.当事務所に依頼することのメリット

 責任免除規定を設定する場合、既存の機関設計や定款内容に応じて、必要な手続が変わってきますので、適切な対応をするのは容易ではありません。
 当方であれば、今まで多数の会社の定款規定の精査を行い、経験を積んでいますので、正確かつ迅速にアドバイスをすることが可能です。
 責任免除規定等の定款変更手続を当方にご依頼された場合は、定款変更案の提案から登記手続まで一括して行いますので、お気軽にご相談ください。
 なお、責任免除規定の設定登記手続の登記申請に添付する一般的書類は、株主総会議事録のみで足ります。

以上