(第27回)[商業登記編]
取締役の任期を変更する際に注意すべきこと

当社は、取締役が創業時の共同経営者2名と創業時からの従業員1名で合計3名います。株主は共同経営者の2名のみです。
現在、取締役の任期を2年としていますが、今後も辞める予定のない取締役であるため、任期を伸長しようかと考えております。具体的には何年に伸長し、手続はどのようにすれば宜しいでしょうか。
また、任期を変更する際に注意すべきことはありますでしょうか。
なお、当社は、取締役会、監査役及び株式譲渡制限規定のある非公開会社であり、資本金は1000万円です。

1.取締役の任期とは

 取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法332条1項)。つまり、選任されてから2回目の定時株主総会時に再任をしなければ、任期満了により退任となります。
 一方で、定款に定めることにより、取締役の任期を2年よりも伸長する、又は短縮することが可能です(会社法332条1項但書及び同2項)。
 なお、会社法の施行により、株式譲渡制限のある非公開会社(会社法2条1項5号)の場合、原則として10年まで任期を伸長することが可能になりました(会社法332条2項)。

 但し、会社法施行前は、任期を2年超の期間に伸長することができなかったので、既存の会社の多くは、現在も、定款に「取締役の任期は選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」と定めています。
 その場合に任期を伸長するためには、任期を変更する旨の定款変更手続が必要となるため、株主総会の特別決議によって定款変更の承認を得ることになります(会社法309条2項11号)。
 本事例のように、取締役が創業時のメンバーのみである場合や親族のみである場合等、退任することが長期間想定されない会社では、取締役の任期を2年より長期間に伸長することを検討しても宜しいかと考えます。

2.任期伸長のメリット・デメリット

 とはいえ、任期を伸長する場合、以下の通りメリット・デメリットがありますので、これらをふまえた上で、任期を伸長するかどうかの決定をすべきです。

<任期伸長のメリット・デメリット>

  1. A)
    メリット
     2年毎の取締役再任手続が不要になるため、取締役再任に伴う役員変更登記費用を削減することができます(再任の場合でも役員変更登記が必要なことについては、登記相談Q&A第3回をご参照ください。)。
     取締役の任期を2年より長期にした場合には、再任回数が減少しますので、減少した分の上記費用を削減することができます。
  2. B)
    デメリット
    仮に、任期満了前に取締役を解任する必要が生じた際、正当な理由なく取締役を解任した場合には、解任によって生じた損害として、任期の残存期間分の報酬相当額を当該取締役に支払う必要が出てくる可能性があります(会社法339条2項)。
     そのため、任期を長期間にしている場合、解任時における任期の残存期間が長くなる可能性が高いため、賠償額が高くなってしまうケースがあります。
     取締役が親族のみの場合には、役員報酬は高額であるケースが少ないのでそれほど気にする必要はないかもしれません。
     一方、創業時の共同経営者などは、お互いに役員報酬を高額にしているケースが多いかと思いますので、注意が必要です。

3.任期は何年とするのが適当か

 それでは、前述のメリット・デメリットを踏まえ、任期は何年とするのが適当でしょうか。
 当方の今までの経験上、株主1名・取締役1名の一人会社(又は親族だけの同族会社)の場合を除き、任期を10年にすることは、あまりお勧めしません。通常の感覚からいっても10年というのは相当な長期間ですし、その間に会社に何も変化がないということはおよそ考えにくいからです。
 会社の企業規模が劇的に変化することがなかったとしても、創業時に役員として迎え入れた人との間で、背任行為等の明確な解任事由が生じなくても、経営方針の行き違い等から仲違いをし、取締役を退任して欲しいケースもあるかと思います。
 その際に、任期満了時が近いのであれば、解任をせずに任期満了時まで待つという方策を採ることもできますが、任期満了までに長期間を要するのであれば、損害賠償金を支払ってでも解任せざるを得ないこともあるでしょう。
 したがって、当方としては、任期を伸長する場合であっても、監査役と同期間の4年程度に止めておくことをお勧めします。それでも再任に伴う登記費用を半分に削減することが可能です。

4.任期を変更する場合に注意すべきこと

 定款に定めた任期を変更した場合、原則として、在任している取締役も任期変更の影響を受けます(平成18年3月31日付法務省民商782号法務省民事局長通達)。
 したがって、任期を伸長した場合には、その分在任取締役の再選時期も伸長されます。
 但し、任期を伸長する旨の定款変更をした株主総会決議の時点で、既に任期が満了している取締役については(再任手続を懈怠しているケースなどが考えられます。)、任期伸長の影響を受けず、再任手続が必要となりますので、ご注意ください。

 他方で、任期を短縮した場合(例えば任期を2年から1年に変更する)、在任取締役が定款変更後の任期規定によれば既に任期満了を迎えている場合には、定款変更時に退任することになります。そのため、定款変更を行う株主総会決議で、併せて取締役の再任決議が必要となりますので、ご注意ください。

5.当事務所に依頼することのメリット

 任期を何年にすべきか?というのは、自社の企業規模や事業形態に合った内容とする必要があり、安易に長期間とするのは避けるべきでしょう。
 とはいえ、自社にあった任期は何年か?と判断するのは容易ではありません。
 当方であれば、今まで多数の会社の定款・任期規定の精査を行い、経験を積んでいますので、正確かつ迅速にアドバイスをすることが可能です。
 定款変更手続を当方にご依頼された場合は、定款変更案の提案から登記手続まで一括して行いますので、お気軽にご相談ください。

以上