(第26回)[商業登記編]
取締役が出席せずに取締役会を開催する方法

当社は、取締役会設置会社であり、東京を本社にしていますが、大阪と名古屋に事業所を設置し、それぞれ事業所を統括する取締役を置いています。
また、アメリカにも事業所を設置することになり、取締役を置く予定です。
今までは、各取締役が東京本社に赴くスケジュールを調整して取締役会を開催していましたが、海外に常駐している取締役がいる場合には、取締役会の開催が困難になるかもしれません。
取締役が出席せずに取締役会を開催する方法があると聞きましたが、具体的にはどのようにすれば宜しいでしょうか。

1.取締役会の権限と開催方法

 取締役会設置会社には、取締役の全員で組織される取締役会が、会社の業務執行に関する意思決定をなす必要的機関として置かれます。
 取締役会の権限は、①会社の業務執行の決定②取締役の職務執行の監督③代表取締役の選定及び解職です(会社法362条)。
 したがって、会社において、取締役会を開催する機会は多く、また代表取締役から職務の報告を受けるために、最低でも3ヶ月に1回以上、取締役会を開催する必要があります(会社法363条2項)。
 上場会社はもちろんのこと、上場を視野に入れている規模の会社であれば、証券会社からの要請もあり、毎月1回、定例の取締役会を開催しているでしょう。

 取締役会を開催する場合、原則として、取締役会日の1週間前までに招集通知を送付し(定款で、「3日前」等期限を短縮しているケースが一般的です。)、取締役の過半数の出席が必要です(会社法368条、同369条)。
 そして、株主総会の場合と異なり、取締役は、その出席を第三者へ委任することができず、議決権の代理行使をすることが認められていません。
 したがって、本事例のように、取締役が各地にいる場合には、各取締役のスケジュールを調整することが困難であり、毎月行っている定例会にて、多岐に亘る事項を報告・決議している会社が多いかと思われます。

2.テレビ会議等の利用による開催方法

 しかし、平常時であればともかく、業務トラブルがあった場合等、緊急で取締役会を開催する必要があるケースも少なくありません。
 そのような場合に、各取締役のスケジュールを調整していては、取締役会の開催が遅くなり好ましくありません。
 そこで、本事例のような会社では、テレビ会議又は電話会議方式(以下「テレビ会議等」といいます。)による取締役会を採用することが考えられます。
 テレビ会議方式とは、インターネット等に接続されたテレビ・パソコン等を利用することで、会議の参加者同士の音声と画像が同時に伝わり、意思疎通がお互いにできるシステムのことをいいます。
 一方、電話会議方式とは、電話回線を利用して音声で参加し意思疎通を行うシステムのことをいいます。
 いずれの場合であっても、取締役が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論を行うことができるシステムを備えている場合には、可能であると解されています(平成14年12月18日付民商3044号民事局商事課長回答、同3045号通知、会社法施行規則101条3項1号)。
 テレビ会議等によれば、取締役会の開催場所に取締役が実際には出席せずとも有効な取締役会を開催することが可能であるため、取締役会の開催が容易になると考えます。テレビ会議等により参加した取締役も、当該取締役会に出席したことになります。
 実際に、当方の経験上、事業のグローバル化により、取締役が海外等に駐在するケースも多くなったことから、テレビ会議等を利用して取締役会を開催する企業も増えつつあります。
 なお、テレビ会議等のシステムを実際に採用するのであれば、取締役会規程に運用方法などを予め定めておいた方が宜しいかと考えます。

3.テレビ会議等による取締役会議事録

 テレビ会議等により取締役会を開催した場合であっても、通常通り、取締役会議事録を作成します。
 したがって、取締役会議事録には、テレビ会議等により一部の取締役が取締役会に出席した旨を記載し(会社法施行規則101条3項1号)、当該取締役が記名捺印をする必要があります。
 しかし、本事例のように、取締役が各地(特に海外在住者)にいる場合に、取締役の全員から記名捺印を取得するのは容易ではありません。
 順次記名捺印をすることになろうかと思いますが、非常に時間がかかります。

 そのため、決議事項が変更登記申請を要するものである場合、当該取締役会議事録を法務局に提出する必要があり、2週間の登記申請期限までに変更の登記申請をすることができない可能性があります。
 そこで、本事例のように遠方在住の取締役がいる場合には、登記実務上、①取締役会議事録に出席取締役の過半数が記名捺印を行い、かつ②やむを得ない事情により取締役の一部が記名捺印できないことを証する代表取締役の上申書を別途添付することにより、登記申請を行うことが認められています。
 とはいえ、これはあくまで登記申請手続における便宜上の措置であるため、登記が完了した後、取締役会議事録に出席取締役の全員が記名捺印した上で、保管することをお勧めします。

4.取締役会を開催しない方法

 他方で、会社法下では、取締役会の開催自体を省略し、書面のみで決議を行うことが可能です。
 この方法によれば、上記2.のテレビ会議等の設備を導入する必要がないため、より簡便に取締役会で決議を行ったのと同じ効果が得られます。
 本制度を利用するためには、予め「取締役会の書面決議ができる」旨を定款に定める必要があります(会社法370条)。
 そして、実際に決議を省略するためには、当該決議事項につき、取締役全員の書面による同意が必要です(監査役設置会社の場合には、監査役が異議を述べないことも必要です。)。
 したがって、一部の取締役から反対意見が出そうな議案では、本方法によることができないため、状況に応じて本方法と上記2.ないしは通常開催の方法を使い分けることが必要かと考えます。
 なお、書面決議に基づき変更登記申請を行う場合には、書面決議を行った旨の議事録(会社法施行規則101条4項1号)及び定款を添付する必要があります。

5.当事務所に依頼することのメリット

 取締役会議事録の添付を要する登記は、代表取締役変更・募集株式発行・本店移転・合併等の組織再編など多岐に亘ります。
 また、テレビ会議等のシステムや書面決議を採用する場合には、会社法等の実体法的な側面と登記法の手続法的な側面の両面に注意する必要があります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、取締役会の運営方法や準備手続・取締役会規程の作成、各種登記手続までアドバイスを行うことが可能ですから、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、株主総会や取締役会の開催を検討している企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上