(第24回)[商業登記編]
新株予約権を発行している会社が注意すべきこと

当社は、従業員に対して、ストック・オプションとしての新株予約権を発行しており、新株予約権の行使条件に「新株予約権の行使時まで、当会社の従業員であることを要する」と定めています。
新株予約権を保有している従業員が退職した場合、変更登記が必要とのことですが、具体的にどのようにすれば宜しいでしょうか。また、いつまでに変更登記をする必要があるでしょうか?
他方で、従業員の退職の都度、変更登記申請をしなくてすむ方法があるとのことですが、具体的にどのようすれば宜しいでしょうか。

1.新株予約権とは

 新株予約権とは、会社に対して行使することにより当該会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます(会社法2条1項21号)。新株予約権は行使の際に金銭を払込みする旨定めるのが一般的ですが、不動産や債権等の金銭以外の財産を出資する旨定めることも可能です(会社法236条1項3号)。

 本事例のように、役員又は従業員にインセンティブ目的で付与する新株予約権をストック・オプションといいます。

 会社が新株予約権を発行する目的は、ストック・オプション以外にも①オーナー株主の潜在的持ち株比率を維持するため②敵対的買収防衛策として利用するため③社債に新株予約権を付与し資金調達を行うためといいます。

2.新株予約権の消滅

 新株予約権者が、保有する新株予約権を行使することができなくなった場合には、当該新株予約権は消滅します(会社法287条)。
 行使することができなくなった場合とは、①権利行使期間の満了②新株予約権の放棄③行使条件に該当しなくなった時のいずれかに該当することです。

 本事例のように、従業員が退職することによって、行使条件に該当しなくなった場合には、原則として当該従業員が保有している新株予約権は消滅します。
 したがって、従業員が保有していた個数分の新株予約権及び交付予定分の株式数を減少する旨の新株予約権変更登記(以下「変更登記」といいます。)申請を行う必要があります。
 そして、退職日が登記原因年月日となりますので、退職日から2週間以内に変更登記申請する必要があります(会社法915条)。
 退職日は従業員によって異なりますので、原則として従業員の退職の都度、変更登記申請することになります。
 変更登記を申請する場合、1件につき3万円の登録免許税を納付する必要がありますので、会社の負担額も少なくないと思われます。
 また、変更登記申請を怠ると、会社の代表取締役が100万円以下の過料の制裁を受ける可能性があります(会社法976条1項1号)。

 従業員が退職した場合、業務の引継ぎ等で忙しくなるため、新株予約権の管理を失念しがちですのでご注意ください。あらかじめ新株予約権の管理者を定め、管理者には常に変更登記の必要性を意識させておくのが宜しいかと思います。

3.新株予約権の取得事由の利用方法

 上記の通り、新株予約権の消滅の都度、変更登記申請をするのは大変かつ費用がかかりますが、それを解消する方法があります。
 それは、取得事由に「新株予約権者が退職した場合には会社が無償で新株予約権を取得する」旨定めることです(会社法236条1項7号イ)。
 取得事由に該当した場合、会社は当然に新株予約権を取得することになりますが、別途消却手続をしない限りは、新株予約権の個数に変動がないため、変更登記申請は不要です。
 したがって、会社はある程度自己新株予約権の個数が多くなった任意の時期に消却手続を行い、一括して変更登記申請を行うことが可能です。登録免許税は1件の変更登記につき3万円なので、その都度変更登記申請するよりも大幅に費用軽減が可能です。
 但し、本例の行使条件を定めた会社の意図が、一度退職した場合には、会社が他者への譲渡を想定せず、かつ再就職した場合にも新株予約権の行使を認めないものであるときは、取得事由を定めたとしても、新株予約権の消滅は免れませんので、ご注意ください。

4.新株予約権の内容の事後的変更

 上記のような取得事由を追加したい場合等、新株予約権の内容を事後的に変更することも可能です。
 会社法に明文はありませんが可能と解されており、実務上も可能です。内容を変更した場合にはその旨の変更登記申請が必要です。
 但し、変更手続をする場合、発行時と同様の機関での承認決議(株主総会や取締役会)だけでなく、変更時に残存する新株予約権者全員の同意が必要ですので、ご注意ください。

5.当事務所に依頼することのメリット

 会社の事情に合わせ、適切に新株予約権の取得事由や行使条件の内容を設計するためには、会社法等の実体法的な側面と登記法の手続法的な側面の両面に注意する必要があります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、新株予約権の内容につきアドバイスを行うことが可能ですから、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、ストック・オプションを自社で初めて発行することを検討している企業がありましたら、お気軽にご相談ください。
 新株予約権の消滅及び新株予約権の内容変更の登記申請に添付する一般的書類は下記の通りです。

  1. (A)
    新株予約権消滅の登記申請
    *添付書類は不要です。登記申請書(司法書士に依頼する場合には委任状)に変更する新株予約権の個数等を記載するだけで足ります。
  2. (B)
    新株予約権の内容変更の登記申請
    (1)株主総会議事録
    (2)取締役会議事録
    (3)変更時に残存する新株予約権者全員の同意書

以上