(第21回)[商業登記編]
新設分割手続で債権者保護手続を省略する方法

当社は、居酒屋とレストランをメインとする飲食店業を営む会社ですが、居酒屋部門を新会社に承継させ新設分割することを考えております。 
なお、当社は3月決算ですが、今期の事業年度末日までに新設分割手続を完了したいと考えております。
1ヶ月以上の期間を要する債権者保護手続を省略できる方法があると聞きましたが、具体的にどのようにすれば宜しいでしょうか。

1.新設分割とは

 新設分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであり(会社法2条30号)、分割された事業の権利義務を承継する会社を「新設分割設立会社」、事業を分割する会社を「新設分割会社」といいます(会社法763条1項本文、同5号)。
 新設分割設立会社は、新設分割と同時に設立するため、登記申請日が会社設立日であり、その日に新設分割会社の権利義務を承継します(会社法764条1項)。

2.債権者保護手続とは

 債権者保護手続とは、新設分割会社の債権者に対し、新設分割について異議を述べる機会を与えることです(会社法810条)。
 合併の場合(合併については、「登記相談Q&A第7回」に記載がありますので、ご参照ください。)と違い、新設分割では債権者保護手続が不要な場合があります。
 それは、新設分割設立会社に債務が承継されない場合です(会社法810条1項2号)。
 債務の承継がなければ、全ての会社債権者は分割後も新設分割会社に支払請求でるので、分割前後で債権者に影響がないからです。
 承継する事業に関する資産は減少しますが、対価として新設分割設立会社の株式が新設分割会社に交付されるので、形式的には新設分割会社全体の資産が減少しないためです。
 しかし、実際には、承継する事業に関する債務が全くないということは考えにくく(例えば、原材料の仕入費を月末締めにしていれば、支払いをするまで債務として計上されます。)、1人でも債権者がいれば債権者保護手続は必要です。
 したがって、債権者保護手続が当然に不要となるケースはほとんどないと思われます。
 なお、新設分割の効力発生と同時に、剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得手続を行い、新設分割会社の株主に新設分割設立会社の株式を交付する「分割型新設分割」(会社法763条1項12号)の場合には、常に債権者保護手続が必要です(会社法810条1項2号)。
 新設分割の対価が新設分割会社に留まらず、株主に交付されてしまうので、新設分割によって新設分割会社の資産が減少することになるからです。

3.債権者保護手続を省略する方法

 他方で、新設分割設立会社に債務を承継する場合であっても、債権者保護手続を省略できる方法(但し、分割型新設分割の場合は除きます。)があります。
 債権者保護手続は、法定の異議申述期間が1ヶ月、新設分割公告を官報に掲載するまで申込から最低1週間(決算公告を同時に掲載する場合には2週間)かかります。
 したがって、債権者保護手続を省略した場合、大幅なスケジュール短縮が可能となります。
 本事例でも、債権者保護手続を省略すれば、株主が1人である等株主総会開催の招集手続省略が容易な会社の場合には、事業年度末日までに新設分割を行うことが可能と考えます。

 そして、債権者保護手続を省略できる方法とは、新設分割設立会社が承継する債務を、新設分割会社が全て併存的に債務引受け(又は連帯保証)する場合です(会社法810条1項2号)。
 具体的には、新設分割計画書に、「新設分割会社は、新設分割設立会社が承継する一切の債務につき、併存的債務引受け(又は連帯保証)する。」と記載するだけです。
 併存的債務引受けをすれば、承継された債務の債権者は、分割後も新設分割会社に債務の支払を請求できるので、分割の影響がないからです。
 もちろん、新設分割会社が併存的債務引受けをすることが会社にとって好ましくない場合もあるでしょうから、安易にこの方法を採用することは危険ですが、スケジュール短縮と公告費用の節約ができますので、新設分割手続を行う際に検討の余地はあるかと思います。

 他方で、合併の場合と同様に、官報+定款に定めた公告媒体である日刊新聞紙又は電子公告双方に新設分割公告を掲載した場合には、債権者保護手続自体を省略することはできませんが、個別催告を省略することが可能です(会社法810条3項。個別催告省略の具体的方法については、「登記相談Q&A第7回」に記載がありますので、ご参照ください。)。

4.当事務所に依頼することのメリット

 新設分割手続を行う場合、合併同様、会社法所定の手続を遵守した上でスケジューリングを行うことや、上場会社等の企業規模が大きい企業であれば金融商品取引法や独占禁止法など、会社法以外の法令にも注意する必要があるなど、検討すべき事項が多岐に亘ります。
 したがって、会社が希望するスケジュール通り、不備なく行うためには、慣れていないと難しいでしょう。
 当方であれば、上場企業からベンチャー・中小企業まで、様々な規模の会社の類似案件を多数経験していますので、迅速かつ正確な対応が可能です。
 また、当事務所であれば、新設分割計画書など各種契約書のレビュー・ドラフトや法務デューデリジェンスなどを弁護士が行うことが可能であり、単なる登記手続だけでなく、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、新設分割等の組織再編手続やM&Aを検討している会社がありましたら、お気軽にご相談ください。
 なお、債権者保護手続が省略できる場合の新設分割登記申請に添付する一般的書類は下記の通りです。A、B双方の登記を一括して新設分割設立会社管轄の法務局に提出します。

A.新設分割設立会社の登記

  1. (1)新設分割計画書
  2. (2)定款
  3. (3)株主総会議事録
  4. (4)設立時取締役の一致を証する書面
  5. (5)役員の就任承諾書
  6. (6)代表取締役個人の印鑑証明書
  7. (7)新設分割会社の登記事項証明書
  8. (8)資本金額の計上に関する証明書

B.新設分割会社の登記

  1. (1)新設分割会社の印鑑証明書

以上