(第20回)[商業登記編]
取締役会を廃止する際に注意すべきこと

当社は、株式会社で取締役会を設置しており、取締役が3名いるものの社長以外の取締役は名目上の取締役です。株主は社長だけです。
この度、取締役の1人から、名目上とはいえ責任を負いたくないので、取締役を辞任したい旨の申し出がありました。ですが、当社には後任に適当な者がおりません。
取締役会を廃止すれば、取締役の員数は1人でもいいと聞いています。具体的にはどのようにすれば宜しいでしょうか。
また、取締役会を廃止する際に注意すべきことはありますでしょうか。
なお、当社は、株式譲渡制限規定のある非公開会社で、資本金は1000万円です。

1.取締役会廃止の選択

 平成18年5月1日施行の会社法により、株式譲渡制限のある非公開会社(会社法2条1項5号)の場合、株式会社(以下「会社」といいます。)は原則として取締役会を設置する必要がなくなりました(会社法327条)。
 取締役会非設置会社は、株主の変動が少なく、株主間の人的関係が密接であるなど、株主自身による会社経営への継続的かつ積極的関与が期待できる会社が想定されています。

 一方、会社法施行前は、取締役会の設置が強制だったので、会社法施行前から存在する会社の場合、取締役会設置の旨が定款にあるものとみなされ、取締役会設置の登記が法務局の職権で行われています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます。)76条2項、同法113条2項、同法136条12項1号)。
 したがって、取締役会を廃止する場合には、株主総会で取締役会を廃止する旨の定款変更決議を行い、取締役会廃止の登記申請を行う必要があります。

 本事例のように、事業規模が個人事業に等しく、取締役の員数を名目上でも3人揃えるのが難しい会社であれば、取締役会を廃止した方が宜しいかと考えます。

2.取締役会廃止のデメリット・メリット

 とはいえ、いくら事業規模の小さい会社であっても、常に取締役会を廃止することが望ましいわけではありません。一度廃止しても、再度取締役会を設置することは可能ですが、登録免許税等のコストがかかりますので、廃止する際には慎重に検討する必要があります。
 取締役会を廃止することのデメリット・メリットは次の通りです。これらをふまえた上で、取締役会の廃止を決定すべきです。
 本事例のように、株主が社長1人の場合、問題となるケースは少ないと思います。
 しかし、少数であっても株主が複数いる会社では、株主間の人間関係がよほど良好でない限り、取締役会を廃止しない方が宜しいかと考えます。株主間に深刻な利害対立が発生すると、社長の業務執行にかえって支障をきたす可能性があるからです。

<デメリット>

  • ①取締役会設置会社と比べ、実質上も形式上も所有と経営が分離していない(株主=社長)ため、外部に出資又は融資を引き受けてもらえない可能性があること
  • ②会社法上、取締役会で決議可能であった事項についても、原則として株主総会決議が必要になること
  • ③1株でも所有している株主は、いつでも(株主総会席上でも可能です。)株主提案権の行使が可能なこと(会社法303条)
    *取締役会設置会社であれば、総株主の議決権の100分の1以上かつ6ヶ月前から所有している株主しか行使できません。さらに、株主総会の8週間前までに行使する必要があります。
  • ④将来、株式公開等を考える場合には、改めて取締役会を設置する必要があること

<メリット>

  • ①取締役を社長1人とすることが可能なこと(会社法326条1項)
    *取締役会を設置している場合、取締役が最低3名かつ監査役又は会計参与が最低1名必要です(会社法327条2項、同法331条4項)
  • ②定時株主総会の招集通知に計算書類及び監査報告書の添付が不要なこと(会社法437条)
  • ③株主総会の招集通知の期間を1週間未満にすることが可能なこと(会社法299条1項)
  • ④株主総会の招集通知を書面で送付不要なこと(会社法299条2項)

3.株式譲渡制限規定への影響

 本事例のように、株式の内容として株式譲渡制限規定を定めている会社の場合、定款に「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する」と記載し、その旨が登記してあります。
 取締役会を廃止すると、株式譲渡制限規定の承認機関の記載が齟齬しますので、株式譲渡制限規定についても併せて変更する必要があります。

4.その他変更を検討すべき事項

 取締役会を廃止した場合、本事例のように資本金が5億円以上又は負債が200億円以上の大会社(会社法2条1項6号)でない会社であれば、監査役を設置する必要がありません。
 したがって、名目上の監査役であれば、監査役も併せて廃止して宜しいかと考えます。
 その他、役員の員数や任期、取締役会に関する定款規定を適宜変更・廃止する必要がありますのでご注意ください。

5.当事務所に依頼することのメリット

 取締役会を廃止する場合には、上記記載の通り、単に取締役会廃止の旨だけを株主総会で決議すればいいのではなく、実際にはそれに付随して、定款内容を抜本的に変更する必要があります。
 また、そもそも、自社の企業規模等を鑑みて、安易に取締役会を廃止することが適切かどうかを判断することは容易ではありません。
 当方であれば、今まで多数の会社の定款変更手続・機関設計のアドバイスを行い、経験を積んでいますので、正確かつ迅速にアドバイスをすることが可能です。
 登記手続だけでなく、株主総会議事録等必要書類の作成も併せて行いますので、変更を検討されている方は、お気軽にご相談ください。
 なお、取締役会廃止・株式譲渡制限に関する規定の変更の登記申請に添付する一般的書類は、株主総会議事録のみで足ります。

以上