(第18回)[不動産登記編]
公正証書遺言に誤記がある場合の遺贈登記方法

私の姉は、生前、私を受遺者兼遺言執行者として「受遺者に所有不動産A及びBを遺贈する」旨の公正証書遺言を作成しました。そして、私の姉は先月亡くなりました。姉名義の不動産を私名義に変更するための登記手続はどのようにすれば宜しいでしょうか。
なお、姉には子供がおらず、両親は既に亡くなり、私らは3人姉妹でした。
また、公正証書遺言の記載事項中、私の住所に誤記がありました。この場合にはどのように登記すれば宜しいでしょうか。
他方で、不動産登記簿上の姉の住所記載と、姉の死亡時の住所が異なります。住所変更登記の申請が別途必要とのことですが、具体的にはどのようにすれば宜しいでしょうか。

1.公正証書遺言とは

 公正証書遺言とは、公証人が作成する公正証書に遺言の内容を記載する方式の遺言です(民法969条)。公証人が作成するので、遺言者が自筆で作成するよりも、後々法定の方式に不備がある等の理由により、遺言書が無効となる可能性は非常に低くなります。
 さらには、公正証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続が不要なこともメリットの1つです(民法1004条)。
 また、作成した公正証書遺言は、公証役場で保管されるので、紛失又は他人に廃棄・隠匿される心配がありません。
 なお、設問の「受遺者」とは、遺贈を受ける者として遺言書で指定された者です。
 そして、「遺言執行者」とは、遺贈等の遺言内容を実現するための行為を行う職務権限を持つ者をいいます。

2.遺贈登記

 遺贈の効力は、遺言者の死亡した日に発生します。
 しかし、お姉様名義の不動産を、あなた様名義に変更するためには、遺贈による所有権移転登記(以下「遺贈登記」といいます。)を管轄法務局に申請する必要があります。
 そして、遺贈登記は、遺言執行者(但し、申請書の登記義務者欄には遺言者の住所氏名を記載します。)を登記義務者・受遺者を登記権利者とし、共同で申請します。
 公正証書遺言による遺贈登記の申請に添付する一般的書類は以下の通りです。

A)公正証書遺言による遺贈登記
  • ①公正証書遺言
  • ②遺言者の死亡を証する戸籍謄本
  • ③受遺者の住民票
  • ④対象不動産の固定資産評価証明書

3.公正証書遺言に誤記がある場合

 公正証書遺言は、事前に当事者の戸籍謄本や不動産登記簿謄本等の関係資料を公証人に提出した上で、公証人が作成しますので、不備があることはほとんど無いかと思われます。
 しかし、公証人とはいえ人間ですから、誤記があるまま公正証書として作成されるケースが稀にあります。
 誤記の例としては、受遺者等関係当事者の氏名・住所及び不動産の所在地番などが考えられます。
 受遺者の氏名・不動産の所在地等に誤記がある場合、法務局は同一性を確認できませんので、誤記のある公正証書遺言を添付しても登記は却下されます(不動産登記法25条1項8号)。
 ですが、戸籍謄本等他の資料で正しい情報が確認できる場合等、誤記が軽微なものである場合まで、一律遺贈登記が出来ないのでは、遺言者にとっても受遺言にとっても非常に不利益です。
 したがって、公正証書遺言を作成した公証役場に、誤記証明書の発行を申請し、当該誤記証明書と公正証書遺言双方を添付すれば、不動産登記法上明文規定はありませんが遺贈登記は可能と解されており、実務上も認められています。
 本事例の場合、正しい住所が記載してある住民票及び申請者の印鑑証明書を公証役場で提示し、誤記証明書の交付を受ける必要があります。

4.遺言者の死亡時の住所と不動産登記簿上の住所が異なる場合

 不動産登記簿には、不動産取得に伴う移転登記時の所有者の住所を記載しますが、その後住所変更があった場合、法務局の職権で住所変更登記は行われず、所有者から住所変更登記を申請する必要があります。
 とはいえ、登記申請期限が無いこともあり、住所変更登記の申請は失念されがちです。
 本事例のように、遺言者が死亡するまで住所変更登記を申請していなかったというケースも多々あります。
 登記義務者の登記簿上の記載と申請書の記載は同一の必要がありますので、住所変更登記を失念している場合には、遺贈登記と同時に住所変更登記を申請します。
 登記簿上の所有者である遺言者は既に死亡しているため、遺言執行者が住所変更登記の申請人となります。

5.登録免許税の減税が可能な場合

 遺贈登記の登録免許税は、原則として不動産の固定資産評価額の2%です。
 この点、相続による所有権移転登記の登録免許税率が0.4%なのとは大きな違いです。
 しかし、受遺者が相続人でもある場合には、受遺者が相続人であることを証する書面を添付することにより、遺贈登記の登録免許税率を0.4%に減税することが可能です。
 相続人であることを証する書面とは、相続関係が分かる戸籍謄本・除籍謄本等です。
 本事例の場合には、お姉様に子供がおらず、ご両親が死亡していることから、あなた様が相続人の1人です。
 したがって、戸籍謄本等を取得して、減税措置を利用するのが宜しいでしょう。

6.当事務所に依頼することのメリット

 上記の通り、公正証書遺言に誤記があったとしても事後的な対応が可能な場合もありますが、そもそも、誤記のない公正証書遺言を作成するべきです。誤記レベルですまない記載漏れ等があれば、遺言の効力自体が否定されることもあるので、注意が必要です。
 当事務所であれば、弁護士が公正証書遺言の案文を作成し、相続財産に不動産があれば、当方が登記手続の観点からチェックをすることが可能ですから、誤記の無い精度の高い内容の遺言書を作成することが可能です。
 さらには、遺言執行者に遺言書の作成を依頼した弁護士を指定するケースが多いと思われますが、その場合にも不動産の登記手続は当方が行うことが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、遺言書の作成を検討している方がいましたら、お気軽にご相談ください。

以上