(第17回)[動産譲渡登記編]
借り手側企業から見たABLのメリットと動産譲渡登記

当社は、ワインの輸入販売業務を行っていますが、安定的な仕入資金確保のために、金融機関から融資を受けることを考えています。
当社は、不動産等の固定資産を所有しておらず、資産と呼べるものは在庫のワインだけです。
近年、ABLによる融資方法が注目されているとのことですが、具体的にはどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。
また、ワインを譲渡担保に融資を受けた場合、動産譲渡登記が必要になりますが、具体的にはどのようにすれば宜しいでしょうか。

1.ABLとは

 ABLとは、Asset Based Lendingの略称で、直訳すると「資産を基にした貸出」です。
 企業が金融機関から融資を受ける場合、一般的に活用されている金融機関の保全策は不動産担保と代表者等による個人保証です。
 しかし、価格の下落に伴う不動産担保価値の減少や、代表者の個人保証では企業の倒産と同時に代表者の連鎖破産を招くことから、不動産担保や個人保証に過度に依存しない融資制度として近年ABLが注目されるようになってきました。
 具体的には、企業の売掛金や在庫動産といった企業収益を生み出す資産に着目して、売掛金・在庫動産を一体として担保取得し、融資をする制度です。
 これによって、中小企業では、自己の商品又は商品販売から発生する売掛金を担保に金融機関から資金調達が可能となるため、資金調達手段が多様化し、さらなる設備投資・商品仕入をするための資金を調達しやすくなることが期待されています。

 但し、金融機関側のノウハウが確立していないため、ABLのリスクに過敏に対応してしまい、ABLの活用に消極的な金融機関が少なくありません。
 現在、ABLを積極的に活用している金融機関として代表的なところが、商工中金です。
 商工中金では、「シークワーサー」や「昆布」などの地元名産品といった、従来であれば担保とすることが考え難い製品に対しても、積極的にABLを活用しているようです。

 また、ABL活用の促進のために、経済産業省と中小企業庁は、平成19年8月に「流動資産担保融資保証制度」を創設し、各都道府県の信用保証協会がABL融資の保証人となることによって、金融機関のリスクの軽減を図っています。
 今後ABLは、様々な担保動産の処分マーケットなどを整備することによって、より活用が促進されるものと思われます。

 他方で、ABL融資によって、売掛金や在庫動産を譲渡担保にとった場合、売掛金であれば債権譲渡登記、在庫動産であれば動産譲渡登記が必要になります。債権譲渡登記の詳細については、登記相談Q&A第16回をご参照ください。

2.借り手側企業から見たABLのメリット・デメリット

 融資を受ける企業から見た、ABLのメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
  • ①資金調達手段の多様化
  • ②運転資金の確保
  • ③資金調達枠の拡大
  • ④貸し手金融機関との信頼関係強化

 事業収益資産を活用するため、金融機関と企業側の情報交換が密になり、必要に応じて経営のアドバイスを受けることも期待できます。金融機関としても、企業の事業が順調であればあるほど、担保に取る資産が増加するからです。

<デメリット>
  • ①過剰担保の懸念
  • ②金融機関による管理強化
  • ③担保実行による即事業停止のリスク

 メリットの裏返しですが、事業に直結した資産であるため、金融機関において事業活動の過度な支配を招きやすいと思われます。また、担保権が実行されれば、事業収益資産の処分が一切できないため、即事業停止を招きやすいと言われています。

 ABLを利用するのに適している企業は、流動資産が多く又季節によって在庫量が変動しやすい(農林水産関連業など)企業です。但し、資産管理を適切に行うことが前提であり、その分管理コストが増加しますので、ご注意ください。

3.動産譲渡登記の申請方法

 前述した通り、在庫動産をABLで譲渡担保とした場合には、その旨の動産譲渡登記が必要です。
 動産譲渡登記制度は、平成17年10月に創設された制度ですが、ABLの推進とともに、その利用が拡大傾向にあります。
 動産譲渡登記の申請方法は、原則として債権譲渡登記と同様です。
 譲受人と譲渡人の共同申請で行い、全国どの法人に関する動産譲渡登記であっても、東京法務局中野出張所と同所にある東京法務局動産登録課に申請します。
 1件の動産譲渡登記申請で行うことができる動産の個数は、以前は100個が上限でしたが、平成23年2月14日から1000個まで上限が拡大されたため、より利便性が増しています。

 なお、動産譲渡登記申請に添付する一般的書類は以下の通りです。

  • (1) 譲渡人の印鑑証明書
  • (2) 譲渡人の商業登記簿謄本
  • (3) 譲受人の商業登記簿謄本
  • (4) 登記申請の取下書
    *実務上、登記申請と同時に取下書を提出します。仮に登記申請に不備があった場合に「却下」を避け、添付書類を法務局から返還してもらった上で再申請をすることができるようにするためです。
  • (5) 動産の特定事項等所要の申請内容をデータ入力したフロッピーディスクなどの磁気ディスク

4.当事務所に依頼することのメリット

 債権譲渡登記同様、不備のある登記をすると対抗力が否定される場合もあり、動産の特定方法が重要になってきます。当方であれば、何度も動産譲渡登記手続を経験していますので、迅速かつ正確に対応することが可能です。
 また、動産譲渡登記をする前提として、動産譲渡担保契約書を作成するケースが多いですが、当事務所であれば、弁護士が当該契約書の作成並びに担保権の実行手続等の対応をすることが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、動産譲渡登記を検討されている企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上