(第16回)[債権譲渡登記編]
債権譲渡登記をする際に注意すべきこと

当社は、ホームページ作成の代行業務を行っています。ある取引先から、いつもは作成したホームページの納品日の月末が代金の支払期限ですが、今回は都合により、翌月末として欲しい旨連絡がありました。
最近、取引先の業績は芳しくないとの噂も耳にします。そこで、代金の支払期限を翌月末にするかわりに、支払を担保するため、取引先が他社に対して有する複数の売掛債権を譲渡担保にし、債権譲渡登記することにしました。
債権譲渡登記は具体的にどのようにすれば宜しいでしょうか。

1.債権譲渡登記とは

 債権譲渡登記とは、法人が有する金銭債権の譲渡や金銭債権を目的とする質権の設定について、簡易に債務者以外の第三者に対する対抗要件を備える制度です。
 譲渡する債権の債務者(以下「第三債務者」といいます。)に対し確定日付のある通知(又は第三債務者の承諾)をせずに、債権譲渡登記をした時点で第三者に対する対抗要件を備えることが可能です(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項)。
 債権譲渡登記は、平成10年10月1日にスタートした制度ですが、以下のメリットがあるため、主に債権譲渡担保のために利用されています。登記申請件数も現在では年間4万件にのぼります。

<発起設立手続の一般的流れ>

  1. 第三債務者が不特定であっても、債権譲渡登記が可能なこと
    *例えば、特定のマンションにつき、将来入居予定の賃借人に対する賃料債権を譲渡し、その旨債権譲渡登記をすることが可能です。

  2. 第三債務者に債権譲渡の事実を知られることなく、債権譲渡登記をすることによって、第三者対抗要件を備えることが可能なこと
    *債務者である譲渡人も、第三債務者に譲渡の事実を知られないのであれば、譲渡人の取引相手に信用不安を与えることがないため、平常時でも債権譲渡担保に応じる可能性が高くなります。
     通常、第三債務者への通知は、譲渡人が譲受人に対する債務の期限の利益を喪失したときに行います。

2.債権譲渡登記で注意すべきこと

 債権譲渡登記の場合、債権譲渡担保契約書等の譲渡の事実を記載した書面を添付する必要がないため、法務局は誤字の有無を審査する権限を有していません。法務局は、添付書類の不足及び法務省指定のプログラム通りにデータが作成されているかどうかだけを審査します。
 したがって、債権譲渡担保契約書と異なる事項(債権額・譲渡日・第三債務者の記載等)を誤って申請データに記載したとしても、そのまま登記が完了します。
 また、不備のある登記をした場合でも、債権譲渡登記は、当該誤記を正すために変更登記又は更正登記を行うことができませんので、ご注意ください。
 そのため、一度不備のある登記をした場合には、一旦その登記の抹消申請をした上で、再度正しい内容の債権譲渡登記申請をする必要があります。但し、当然のことですが、再度の登記申請日が第三者に対する対抗要件を備えた日になります。

 なお、不備のある登記をしたために、次のように第三者に対する対抗力が認められなかったケースがありますので、誤記にはご注意ください。

<対抗力が認められなかった事例>

  1. 報酬債権につき、集合債権譲渡担保を設定したにもかかわらず、譲渡された債権の種類コードを「その他の報酬債権」ではなく「売掛債権」と誤ったために登記の対抗力が否定された事例(最判平成14.10.1)
  2. 原債権者欄と債務者欄の記載を逆に記載したために登記の対抗力が否定された事例(東京高判平成18.6.28)

3.債権譲渡登記の申請方法

 債権譲渡登記は、譲受人と譲渡人の共同申請で行います。全国どの法人に関する債権譲渡登記であっても、東京法務局中野出張所と同所にある東京法務局債権登録課に申請します。
 債権譲渡登記を行う場合、不動産登記及び商業登記と異なり、登記申請書を作成するだけでなく、法務省指定のプログラムに従い、当事者及び債権情報等の所定データを入力したファイルを作成する必要があります。
 法務省指定のプログラムは、度々更新されます。プログラムが更新された場合には、従前のプログラムでは申請することができず、新たなプログラムをインストールする必要がありますので、ご注意ください。
 なお、直近では、平成23年4月1日付でプログラムが更新されました。
 また、債権譲渡登記申請に添付する一般的書類は以下の通りです。

  • (1)譲渡人の印鑑証明書
  • (2)譲渡人の商業登記簿謄本
  • (3)譲受人の商業登記簿謄本
  • (4)取下書
  • (5)申請データを保管したフロッピーディスク等

4.当事務所に依頼することのメリット

 上記2.記載の通り、不備のある登記をすると対抗力が否定される場合もあります。当方であれば、様々なケースでの債権譲渡登記手続を経験していますので、迅速かつ正確に対応することが可能です。
 また、債権譲渡登記をする前提として、債権譲渡担保契約書を作成するケースが多いですが、当事務所であれば、弁護士が当該契約書の作成並びに担保権の実行手続等の対応をすることが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、債権譲渡登記を検討されている企業がありましたら、お気軽にご相談ください。

以上