(第15回)[商業登記編]
株式会社が発起人となる場合に注意すべきこと

当社は、不動産の仲介・賃貸業を営む会社ですが、当社が発起人として100%出資をし、不動産賃貸管理業を営む子会社を新たに設立することを考えております。
発起人が株式会社の場合、設立する会社と事業目的が同一の必要があると聞きました。具体的にはどの程度同一である必要があるでしょうか。

1.株式会社の設立手続

 株式会社を設立する場合、一般的な流れは以下の通りです。なお、100%子会社を設立する場合、役員を親会社と同じ人数ではなく簡素化し、一部の親会社役員だけが子会社役員を兼任するケースが一般的です。特段の必要がなければ、役員を取締役1人だけとしても宜しいかと思います。

<発起設立手続の一般的流れ>

  • ①定款の作成(会社法27条、28条)
  • ②公証役場にて定款の認証(会社法30条)
  • ③発起人の決議による設立時発行株式数・出資額・本店所在地の決定(会社法32条)
  • ④発起人による出資金全額の払込(会社法34条)
  • ⑤設立時役員の選任(会社法40条)
  • ⑥設立時取締役による出資の履行等の調査(会社法46条)
  • ⑦法務局にて設立登記申請及び印鑑届出(会社法911条)

 なお、設立登記申請日が会社設立日です(会社法49条)。設立登記が完了し、登記簿謄本が取得できるようになった日ではありませんので、ご注意ください。

2.発起人とは

 発起人とは、定款に発起人として署名又は記名押印(電子定款の場合は電子署名。電子定款のメリットについては、登記相談Q&A第14回をご参照ください。)をした者のことです(会社法26条)。
 前述の通り、発起人は定款の作成をまず行い、設立時の役員・本店所在地等設立にあたって重要な事項を決定する権限を有します。
 会社法上、発起人は1人で足りますが、複数人でも構いません。
 また、発起人の資格に制限はなく、会社も発起人となることが可能です。
 なお、発起人が設立時に発行する株式を全て引き受ける設立方法を発起設立といいます(会社法25条1項1号)。これに対し、発起人以外の者も設立時に発行する株式を引き受ける設立方法を募集設立といいます(会社法25条1項2号)。
 発起設立の場合には、募集設立の場合と違い、銀行等の金融機関で出資金の保管手続を行う必要がないので、発起設立による方法を採用するケースがほとんどかと思います。

3.会社が発起人となる場合の注意点

 前述の通り、会社法上発起人の資格に制限はありませんが、会社が発起人となる場合には、注意点があります。
 それは、発起人となる会社と新たに設立する子会社の事業目的が同一である必要があるという点です。
 会社法上明文規定はありませんが、事業目的が同一である必要があると解されており、実務上も必要です。事業目的が異なる場合、公証役場での定款認証手続をすることができず、公証人から補正を求められますので、ご注意ください。
 とはいえ、事業目的が一言一句全て同一である必要はありません。発起人となる会社の登記簿謄本と新たに設立する子会社の定款の記載を比較し、発起人となることが会社の事業目的の範囲内であると客観的に判断できれば足ります。
 具体的には、同一の事業目的が一部でもあれば定款認証は可能です。
 また、同一の事業目的が1個もなかったとしても、本事例のように「不動産賃貸業」と「不動産賃貸管理業」等、関連していることが明らかな事業目的であれば定款認証が可能です。
 しかし、「不動産業」と「飲食業」等のように全く異なる事業目的の場合には定款認証できませんので、発起人となる会社が株主総会決議により目的変更をし、目的変更登記手続を行ってから、子会社の設立手続を行う必要があります。

 ちなみに、親会社を持株会社とし、多数の子会社を設立する場合には、親会社の事業目的に「当会社は次の事業を営むこと、並びに次の事業を営む会社の株式または持分を保有することにより、当該会社の事業活動を支配・管理することを目的とする。」と記載した上で、各子会社で行う事業内容を列挙するのが一般的です。

4.当事務所に依頼することのメリット

 当事務所であれば、単純な会社設立のケースだけでなく、様々なケースでの設立手続を経験していますので、上場会社が子会社を設立する場合など、迅速かつ正確な手続が要求されるケースであっても対応可能です。
 また、複数の企業が出資して設立する合弁会社の場合であれば、弁護士が合弁契約書のドラフト等の対応をすることが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件の事例に限らず、会社設立を検討されている方がいましたらお気軽にご相談ください。
 なお、発起設立による株式会社設立登記申請に添付する一般的書類は以下の通りです。

  • (1) 定款
  • (2) 発起人全員の同意書
  • (3) 出資金払込証明書
  • (4) 役員の就任承諾書
  • (5) 代表取締役個人の印鑑証明書
  • (6) 印鑑届出書
  • (7) 印鑑カード交付申請書

以上