(第10回)[商業登記編]
会社に対する貸付金を株式化する手続(DES)が容易になりました
2012年3月1日
私は、経営する会社に対し、設立してから現在までに順次事業資金を貸し付けてきましたが、会社には返済する現金の余力がありません。
負債として残っているのは貸借対照表の見栄えが悪いので、貸付金を私に返済せず、私の持株に変更したいと思っています。
具体的にはどのような手続をすれば宜しいでしょうか。
1.DESとは
株式会社が増資をする場合、出資は金銭で行うことが原則であり、株式の引受人が金銭を出資することに代えて、会社に対する貸付金などの債権で相殺することは禁止されています(会社法208条3項)。
しかし、会社が、金銭ではなく①不動産などの金銭以外の財産で出資すること②その財産内容及び価額を募集事項決定の際に決議した場合には、金銭以外の方法で出資することも認められます(会社法199条1項3号)。金銭以外の方法で出資することを現物出資といいます。
現物出資は、会社に対する貸付金で行うことも可能であり、このように金銭債務を株式化することをデット・エクイティ・スワップ(以下「DES」といいます。)といいます。
2.DESのメリット・デメリット
DESのメリットは、その名の通り、金銭債務を株式化することで、貸借対照表の負債が減少し、その分資本が増加することです。
貸付金のままであれば、いずれ弁済しなくてはなりませんが、株式化をすれば、弁済する必要がなくなります。 但し、DESを行った場合、当該金銭債権者に株式を与えることになるので、債権者が経営に関与することになります。
したがって、債権者が第三者の場合、DESによって多量の株式を与えることになると、経営権を取られてしまうので注意が必要です。
ですが、社長の会社に対する貸付金であれば、社長の株式が増加するだけなので、その点も問題ありません。
DESを実行することによって、会社の財務内容は具体的に以下の通り変更します。
DES実行前の会社の貸借対照表
資産の部 現金 500万円 その他資産 5500万円 | 負債の部 社長の貸付金 3000万円 その他負債 1000万円 (社長の貸付金) |
純資産の部 資本金 1000万円 利益剰余金 1000万円 | |
合計額 6000万円 | 合計額 6000万円 |
↓
社長の貸付金3000万円を資本金1500万円及び資本準備金1500万円に転換
↓
DES実行後の会社の貸借対照表
資産の部 現金 500万円 その他資産 5500万円 | 負債の部 社長の貸付金 0円 その他負債 1000万円 (社長の貸付金) |
純資産の部 資本金 2500万円 資本準備金 1500万円 利益剰余金 1000万円 | |
合計額 6000万円 | 合計額 6000万円 |
従来、DESは、経営不振に陥っているが再建の見込みのある比較的規模の大きい企業に対して、金融機関が保有する貸付金を株式に振り替えることによって、当該企業の財務内容を改善して再建を図る目的で利用されることがほとんどでした。
ですが、後述の通りDESの手続が容易になったことにより、中小企業でも利用しやすくなりました。
例えば、設立当初の会社資金が潤沢ではない時期に、社長が会社に貸し付けた金銭債権(負債)を、DESによって株式(資本)化することで、貸借対照表の見栄えを良くし、銀行の追加融資を可能にすることなどに利用できます(実際に取引銀行から融資前のDESを要請されることもあります。)。
さらには、現金の出資をすることなく社長の持株比率を増加できるので、経営面でも効果的です。
他方で、DESのデメリットは、会社の資産状況を鑑みて債権の時価が低い場合、額面(額面でDESを行うのが通常です。)でDESを行うと、債務消滅益が生じ、時価と額面との差額が会社の益金扱いとなる可能性があります。
この点については、税務の専門である税理士に事前にご相談されることをお勧めします。
3.DESの手続が容易になり、コストも安くなりました。
DESは、会社法施行前から認められている制度です。
ですが、債権の額面が500万円以下など一定の場合を除き、検査役の調査又は弁護士・公認会計士・税理士(以下「弁護士等」といいます。)のいずれかによる財産額が相当であることの証明が必要でした。
したがって、通常の増資と違い、検査役又は弁護士等の報酬が別途必要なこと、検査役の調査期間が2ヶ月程度要することにより、中小企業ではあまり利用されてきませんでした。
しかし、会社法の施行によって、この点が大きく変更されました。
DESを行う場合には、500万円を超える金銭債権であっても、総勘定元帳など当該金銭債権の金額・債権者名が記載してある会計帳簿を登記申請書に添付するだけで、検査役や弁護士等の証明が不要になりました(会社法207条9項5号)。
但し、①債権の弁済期が到来していること②株主総会で決議した当該金銭債権の価額が負債の帳簿価格を超えないことが必要なので、ご注意ください。
とはいえ、弁済期が未到来であっても、期限の利益を放棄すれば登記申請は可能です。 また、会社に対する金銭債権であれば、貸付金でなくても可能です。
上記の点以外の増資手続については、現金出資による増資の場合と一緒です。
会社法下での増資手続については、登記相談Q&A第5回をご参照ください。
4.当事務所に依頼することのメリット
上記の通り、DESの要件が緩和されたとはいえ、手続に慣れていないと対応が困難かと思います。当方であれば、これまで何度も上記手法によるDESを行っていますので、早急なDESを検討されている企業がありましたらお気軽にご相談ください。
なお,DESによる増資登記申請に添付する書類は下記の通りです。
記
- (1) 株主総会議事録
- (2) 総数引受契約書
- (3) 総勘定元帳等の会計帳簿(代表取締役の代表印捺印済のもの)
- (4) 資本金の額の計上に関する代表取締役の証明書
以上