(第8回)[不動産登記編]
登録免許税の新たな節税手法、第三者のためにする契約方式
2012年1月1日
私は、不動産業者から、中古の自宅用建物を購入することにしました。
その建物の登記簿上の名義人はAとなっていますが、売主は不動産業者です。
不動産業者の説明によると「既にAと当社間の売買契約を締結しているが、登記 は直接Aからあなたが買ったようにする」とのことです。そのようなことが出来るのでしょうか?
1.第三者のためにする契約方式とは?
今回のケースのように、中間者である不動産業者に登記名義を移転せず、直接Aからあなた様に移転するための登記方法が「第三者のためにする契約方式」(以下「本契約方式」といいます。)です。
第三者のためにする契約とは、第三者である受益者(あなた様)が諾約者(A)に対して直接契約に基づく権利を請求することを、諾約者と要約者(不動産業者)との間で合意することです(民法537条)。
今回のケースでは、Aと不動産業者間の売買契約を第三者のためにする契約にし、受益者をあなた様に指定(但し、この時点では必ずしも受益者の特定はしなくても良い。)、かつ不動産業者とあなた様間の売買契約に基づく不動産業者の売主としての義務(所有権移転義務)をAから履行させることにします。
それによって、所有権が直接あなた様に移転するため、登記名義もAからあなた様に直接移転することが可能になります。
本来ですと①A→不動産業者②不動産業者→あなた様と売買契約ごとに順次名義を移転する必要があり、2回分の登録免許税が必要になるところ、本契約方式によれば1回分の登録免許税ですみます。
登録免許税は、建物の売買の場合、原則として固定資産評価額の2%なので、大幅な節税となります(但し、自宅用建物の場合には別途減税措置があります。)。
例えば、建物の固定資産評価額が3000万円であれば、1回の登記に要する登録免許税は60万円ですので、その分が不要となります。
また、本契約方式によれば、不動産業者は所有権を取得しませんので、不動産業者に対する不動産取得税も課されません。
類似の登記方法として、以前は「中間省略登記」が利用されていました。
ですが、中間省略登記は平成17年3月の不動産登記法の改正により、利用できなくなりました。
この改正は不動産業者及び我々司法書士業界で非常に反発があり、中間省略登記の許容を求めました。
そして、従来の中間省略登記と同様の利益を享受するために新しく考えられたのが、本契約方式です。
本契約方式による登記申請は、平成19年1月に法務省が正式に承認し(平成19年1月10日法務省民2第52号民事第二課長通知)、日本司法書士会連合も同年5月に正式承認しています。
2.第三者のためにする契約方式による登記申請
本契約方式による登記申請は、以下の流れになります。
- ①
Aと不動産業者間の売買契約
- *契約内容に必要な事項
- a)所有権はAから不動産業者が指定する者に対して直接移転する
→この部分が第三者のためにする契約- b)売買代金完済後も、不動産業者が指定するまで所有権はAに留保される
- c)Aは受益の意思表示の受領を不動産業者に委託する
- d)Aは不動産業者の所有権移転債務の履行を引き受ける
- ②
不動産業者とあなた様間の売買契約
- *契約内容に必要な事項
- a)不動産業者があなた様に対して負う所有権移転債務はAが履行する
- ③
司法書士立会いのもと、①及び②の売買契約代金をそれぞれ決済
- *契約内容に必要な事項
- ①の代金決済だけ先行して別の日に行うことも可能だが、不動産業者のリスクを考えると同日に行われることが多いと思う(但し、転売価格が当事者に知られないように時間をずらすなどの方法により決済を行うことになると考える)
- ④
Aからあなた様名義への移転登記申請
一方、本契約方式と同時に認められた制度が「買主の地位譲渡方式」です。
この方法によっても、登録免許税の節税が可能です。
ですが、本契約方式と違い、買主の地位譲渡方式の場合は、売買契約が1つのため、不動産業者がAから購入した売買代金額をあなた様が知ることになります。
これは売買差益を得ることが目的で転売をする不動産業者にとっては好ましくないと思います。
したがって、今回のようなケースでは、本契約方式の利用が一般的と考えます。
3.当事務所に依頼することのメリット
当事務所であれば、単なる登記手続だけでなく、不動産売買契約の交渉・契約書の作成などの対応を弁護士が行うことが可能であり、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
本件の事例に限らず、不動産の売買を検討されている方がいましたら、お気軽にご相談ください。
なお、本件での所有権移転登記申請に添付する書類は下記の通りです。
記
所有権移転登記
- (1) 本契約方式による旨の登記原因証明情報
*A・不動産業者・あなた様の三者が捺印
*それぞれの売買契約代金額は記載不要
- (2) Aの登記済権利証
- (3) Aの印鑑証明書
- (4) あなた様の住民票
- (5) 本件建物の固定資産評価証明書
以上