(第5回)[商業登記編]
増資手続を簡便に行う方法

私は、株式会社を経営していますが、新株式発行による増資手続で、従来に比べ簡便な方法があると聞きました。
具体的には、どのようにすれば宜しいでしょうか。
なお、増資の引受先は、某ベンチャーキャピタルに決まっております。

1.新株式(以下会社法の用語である「募集株式」という。)発行の方法

 本事例のように特定の人に新株式を割当てる方式(以下「第三者割当方式」という。)による募集株式発行の手続スケジュールは、一般的に次のとおりとなります。

a)非公開会社かつ取締役会設置会社の場合
①株主総会の特別決議による募集事項決定(会社法199条)
 *募集事項決定の一部を取締役会に委任することも可能です(会社法200条)。
②株式申込予定者に対し募集事項等の通知(会社法203条1項)
③株式申込者による株式申込証の交付(会社法203条2項)
④取締役会決議による株式割当者決定(会社法204条1項、2項)
⑤株式割当者に対し、株式割当の旨通知(会社法204条3項)
 *払込期日の前日までに通知する必要があります。
⑥出資金の払込
⑦登記申請

b)公開会社の場合
①取締役会決議による募集事項決定(会社法199条、同法201条)
②株主全員に対する募集事項の通知又は公告(会社法201条3項、4項)
 *払込期日の2週間前までに通知又は公告する必要があります。
③株式申込予定者に対し募集事項等の通知(会社法203条1項)
④株式申込者による株式申込証の交付(会社法203条2項)
⑤株式割当者決定(会社法204条1項)
 *譲渡制限付株式を交付する場合には、取締役会決議で決定する必要があります(会社法204条2項)。
⑥株式割当者に対し、株式割当の旨通知(会社法204条3項)
 *払込期日の前日までに通知する必要があります。
⑦出資金の払込
⑧登記申請

2.簡便に行う方法

 しかし、第三者割当方式の場合、会社が株主総会を行う前に、既に引受先が決まっている場合も多々あります。
 特に、非公開会社では、そのようなケースがほとんどかと思います。
 本事例のように引受先が確定しており、かつ出資金の払込が確実な場合には、総数引受契約を締結することにより、上記スケジュール中、非公開会社では②~⑤が、公開会社では③~⑥の手続を省略することが可能です(会社法205条)。
 なお、総数引受契約とは、引受先である当該ベンチャーキャピタルと会社との間で、今回発行する株式の全部を引き受ける旨を定めた契約です。
 これにより、スケジュールを短縮し、かつ形式的で些末な書類を複数作成・送付等をする必要がなくなります。
 総数引受契約に最低限定める必要がある事項もそれほど多くありません。
 具体的には次のとおりです。
 ①引受先が、会社の発行する株式を引き受ける旨
 ②割当する株式数及び株式の内容
 ③1株の払込金額
 ④払込期日及び払込を会社の定める金融機関にする旨(現金出資の場合)
 ⑤会社と引受先双方の記名・捺印

 上記内容の他にも一般的な投資契約書に盛り込まれる事項(例えば、「株式買取請求」・「設立してあること等一定の事項が真実であることを確認する表明保証」に関する事項です。)を適宜入れた契約書でも構いませんし、登記添付書類となることを鑑み、上記事項だけを記載した契約書を作成することもできます。
 また、引受先は1人(1社)である必要はなく、複数人でも手続可能です(複数人の場合は、それぞれの引受株式数の合計が、今回発行する株式数と一致すれば足ります。)。

3.当事務所に依頼することのメリット

 上記総数引受契約方式によれば、株主が一人又は役員のみというように株主総会を開催するのがいつでも可能な会社の場合、明日にでも増資をすることが法律上は可能です。
 しかし、短時間に手続を行うことは、慣れていないと難しいでしょう。当方であれば、類似案件を多数経験しておりますので、迅速かつ正確な対応が可能です。
 また、当事務所であれば、引受先のベンチャーキャピタルなどから提示された投資契約書のレビューを弁護士が行うことが可能であり、単なる登記手続だけでなく、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本件のようなケースを検討している企業がありましたら、是非引受先との投資契約書締結の段階からお気軽にご相談ください。

 なお、総数引受契約方式を採用した場合の募集株式発行登記申請に添付する書類は下記の通りです。

募集株式発行登記
(1)株主総会議事録
(2)総数引受契約書
(3)資本金額の計上証明書
(4)出資金払込証明書

以上