(第1回)[不動産登記編]
相続登記をしないでいると面倒なことに

父親は平成12年に亡くなり、母親も今年亡くなってしまいました。父が所有していた建物に同居していた弟が、その建物の相続を望んでいます。しかし、私もその建物を相続したいと考えています。とりあえず私の相続分の登記をしておきたいのですが、私一人で登記申請することが出来ますでしょうか。
仮に、私と弟間で、遺産分割協議が成立しないまま、私・弟が死亡した場合には、どのように相続登記を申請することになるのでしょうか。

 前段部分の結論から申し上げますと、あなた様一人で相続の登記申請をすることが出来ます。
 前段の事例のように父親が死亡した後、遺産分割協議等の具体的な相続手続をしないまま母親も死亡した場合(2度の相続が発生している)のことを数次相続と言います。
 現在のあなた様の相続分について登記をするためには、2件の相続による登記申請をする必要があります。
 1件目は父親の死亡による相続を原因とする所有権移転登記(取得する持分:母2分の1,あなた4分の1,弟4分の1)です。2件目は母親の死亡による相続を原因とする母親の持分全部移転登記(取得する持分:あなた4分の1,弟4分の1)です。これにより、あなた様の相続分合計2分の1が登記されることになります。

 他方で、後段の事例のように遺産分割協議が成立しないまま、あなた様又は弟(若しくは双方)が死亡した場合には、再度数次相続が発生し、あなた様・弟の相続人が遺産分割協議の当事者になります。
 ちなみに、下の世代が上の世代よりも先に死亡している代襲相続(民法887条2項)と異なり、あなた様・弟の妻も相続人となり、遺産分割協議に参加させる必要がありますので、ご注意ください。
 また、何らの共同相続登記をせずに、誰か一人に本件建物を取得させる旨の遺産分割協議が成立した場合には、実務上、遺産分割協議の効力が遡及するため、便宜的に中間の相続登記を省略して、直接最終の取得者名義への相続登記が可能とされています。

 相続税の申告と異なり、不動産の相続登記申請には期限がありませんので、実際に相続が発生しても、相続登記を申請しないでいるケースが多々あります。
 しかし、上記の通り、数次相続が重なれば重なるほど、相続人の数(私が経験したケースでは100人近くの相続人がいたケースもあります。)が増え、かつ相続人同士の関係が疎遠(相続人同士で会ったこともないばかりか、存在すら知らない)となるため、遺産分割協議の成立がより困難になります。その場合には、調停等の裁判手続を要することになり、より複雑化し費用と時間もかかりますので、相続登記は数次相続させずに、なるべくお早目に(先代の相続登記は、自己の代ですませ、次の代に引き継がない)申請することをお勧めします。
 当方に相続登記をご依頼いただいた場合には、遺産分割協議書の作成や戸籍謄本等の必要書類の取得も併せて行いますので、お気軽にご相談ください。

 なお、前段・後段の登記申請をする場合の添付書類は以下の通りです。

前段1件目の登記
(1)父親の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本及び改製原戸籍
(2)父親の住民票の除票
(3)母親・あなた様及び弟の戸籍謄本
(4)母親・あなた様及び弟の住民票の写し
(5)建物の固定資産評価証明書

前段2件目の登記
(1)母親の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本及び改製原戸籍
(2)母親の住民票の除票
(3)父親の戸籍謄本(死亡の記載のあるもの)
(4)あなた様及び弟の戸籍謄本
(5)あなた様及び弟の住民票の写し
(6)建物の固定資産評価証明書

後段(遺産分割協議が成立した場合)の登記
(1)遺産分割協議書(全員実印)
(2)遺産分割協議書に署名捺印した相続人全員の印鑑証明書
(3)父親・母親・あなた様・弟の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本及び改製原戸籍
(4)最終の取得者の住民票
(5)父親の住民票の除票
(6)遺産分割協議書に署名捺印した相続人全員の戸籍謄本
(7)建物の固定資産評価証明書

以上