改正民法シリーズ⑤≪債権譲渡≫

1 はじめに

 改正民法の重要項目を解説するシリーズ第5弾として、「債権譲渡」に関するルールの見直しについて取り上げます。

 債権譲渡に関する改正事項は、細かいものも多いところですが、改正のポイントは、概要、下記①~④のとおりですので、以下、これに沿ってそれぞれ重要な点に絞り簡潔に概観いたします。
 なお、特に下記①につき、新設されたルールが多いため、重点的に取り扱うことといたします。

  • 譲渡制限特約の効力の変更
  • 将来債権譲渡についてのルールの明確化
  • 「異議をとどめない承諾」制度の廃止
  • 債権譲渡と相殺の可否についてのルールの明確化

2 ①譲渡制限特約の効力の変更について

  • (1)

    変更の内容 ・・・ 特約違反の債権譲渡も有効

     旧法では、債権の譲渡は原則として自由とされつつも、当事者が譲渡制限特約を付した場合には、その債権の「譲渡は無効」と解されていました。
     新法では、債権譲渡による資金調達の円滑化を図る目的から、債権譲渡の自由の原則を重視し、譲渡制限特約が付されていても、「譲渡は有効」と変更されました(新法第466条第2項)(※)。

    • ただし、新法下においても、預貯金債権については、金融機関実務への混乱への配慮等から、譲渡制限特約の効力について、旧法下の取扱いが維持されることになりました。
       すなわち、譲渡制限特約について、悪意・重過失の譲受人等に対しては、譲渡制限特約の効力を対抗できる=特約違反の「譲渡は無効」と扱われることになりますので、ご注意ください(新法第466条の5第1項)。
       なお、預貯金債権は、実務上、譲渡制限特約が付されていることが一般的であると認識されていますので、通常は悪意・重過失と評価されるものと考えられます。そのため、事実上、預貯金債権については、原則、「譲渡は無効」との取り扱いになるものと想定されます。
  • (2)

    債務者の保護 ・・・ 悪意・重過失の第三者に対する対抗可能

     上記(1)のとおり、新法では、譲渡制限特約違反の債権譲渡も有効と扱われるところ、そのままでは、譲渡制限特約の主たる目的=債務者において債権者(弁済の相手方)を固定する目的が達成されないこととなります。
     そこで、新法では、悪意・重過失の第三者(債権の譲受人を含みます。)、つまり、譲渡制限特約の存在を知っていたか、あるいは、知らないことについて重大な過失のある第三者に対して、債務の履行を拒むことができ、弁済等による債務の消滅を対抗することができるとされています(新法第466条第3項)。

  • (3)

    債権の譲受人の保護 ・・・ 履行の催告権

     新法では、上記(1)のとおり、譲渡制限特約が付されていても、債権譲渡は有効と扱われるため、債権の譲渡人(当初の債権者)には、債権は残存しない一方、上記(2)のとおり、債権の譲受人が悪意・重過失である場合には、債務者は譲受人に対して債務の履行を拒むことができます。
     つまり、債権の譲渡人・譲受人いずれも、債務者に対して履行を求めることができない事態に陥りかねません。
     そこで、新法では、債務者が履行しない場合に、相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がない場合には、上記(2)の履行拒否や対抗はできない=債務者は譲受人に対して履行しなければならないものとされています(新法第466条第4項)。

  • (4)

    債務者の保護 ・・・ 供託原因の新設

     新法では、上記(2)のとおり、譲受人が悪意・重過失か否かにより、弁済すべき相手方が変わり得ることになりますが、債務者にとっては、譲受人の主観面は必ずしも把握できかねるため、判断に迷う状況が想定されます。
     そこで、譲渡制限特約が付された金銭債権が譲渡された場合には、債務者は、全額を供託できるものとされました(新法第466条の2第1項)。

  • (5)

    債権の譲受人の保護 ・・・ 供託請求権

     新法では、金銭債権の譲渡後、譲渡人について破産手続開始決定があった場合、その金銭債権の全額を譲り受け、第三者対抗要件(※)を備えた者は、その金銭債権全額を供託させることができるとされています(新法第466条の3)。

    • 旧法と変わらず、確定日付のある証書による債務者への通知/債務者の承諾とされています(新法第467条)。
       上記供託により、債権の譲受人は、破産手続外で債権全額の回収が可能となります。
       なお、このような債権の譲受人の保護は、既に触れましたように債権譲渡による資金調達の円滑化を図る観点からなされているものです。
  • (6)

    譲渡制限特約付き債権の差押えについて

     旧法下より、当事者間の合意(譲渡制限特約)により差押禁止財産を創出できることは妥当ではないという考えから、差押債権者に対して譲渡制限特約を対抗することはできないと解されていましたが、新法では、この点が条文上明確化され、差押債権者に対しては、上記(2)のルールは適用しない、すなわち、悪意の差押債権者であっても、譲渡制限特約を対抗することはできないものとされました(新法第466条の4第1項)。

     もっとも、譲渡された債権の譲受人が悪意・重過失の場合に、その譲受人の債権者がその譲渡された債権を差し押さえた場合には、上記(2)のルールと同様に、譲渡制限特約を対抗することができるとされています(同条第2項)。
     この場合、債権の譲受人は上記(2)のルールにより譲渡制限特約を対抗されることになるところ、その差押債権者については譲渡制限特約を対抗できないとすると、差押債権者は(差押債権者にとっての)債務者=債権の譲受人以上の権利を有することとなってしまい、妥当ではないと考えられたためです。

3 ②将来債権譲渡についてのルールの明確化について

 新法では、将来債権譲渡についての旧法下での一般的な理解、つまり、

  • ・将来債権も譲渡することができること
  • ・その場合、債権発生時に譲受人が当然にその債権を取得すること

について、条文上明確化されました(新法第466条の6第1項、第2項)。
 また、将来債権譲渡における対抗要件の具備の方法は、現在発生済みの通常の債権の譲渡と同様の方法でよいことが条文上明確になりました(新法第467条第1項括弧書)。

 なお、上記対抗要件との関係で、将来債権の譲渡にあたり、譲受人が債務者対抗要件(債務者への通知/債務者の承諾。新法第467条第1項)を具備するまでの間に、譲渡制限特約が付された場合には、譲渡制限特約を知っていたものとみなされる(実際に知っていたか否かは問題とされません)、すなわち、譲受人は前記2(2)のルールにより譲渡制限特約を対抗されるものとされています(新法第466条の6条第3項)。

4 ③「異議をとどめない承諾」制度の廃止

 旧法下では、債務者が、異議をとどめずに債権譲渡を承諾した場合には、それまで債権者(譲渡人)に対抗できた事由を、譲受人には対抗できなくなる効果(抗弁の切断)が認められていました。
 これに対して、新法では、上記「異議をとどめない承諾」による効果が債務者には酷であるとの観点から、上記の効果を廃止することとしました(新法第468条第1項)。
 従って、新法下では、抗弁の切断を行う場合、別途、その旨の意思表示を債務者から得るといった対応が必要となります。

5 ④債権譲渡と相殺の可否についてのルールの明確化について

 債権譲渡があった際に、債務者は、債権の譲渡人(当初の債権者)に対して有する債権による相殺を譲受人に対抗できるかという問題につき、旧法下では必ずしも議論の統一がありませんでしたが、新法では、債務者が譲渡人に対して有する以下の債権による相殺であれば、譲受人に対して対抗可能であることを明確化しました(新法第469条)。

  1. 債務者対抗要件(債務者への通知/債務者の承諾)具備時より前に取得した譲渡人に対する債権(同条第1項)
  2. 上記対抗要件具備時より後に取得した債権でも、以下のいずれかに該当する債権

    • 上記対抗要件具備時より前の「原因」に基づいて生じた債権(同条第2項第1号)
    • 上記ⅰのほか、譲渡された債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権(同項第2号)

 すなわち、債務者対抗要件を具備される前に、取得した債権であれば、その弁済期の先後などにかかわらず、債務者は相殺を対抗でき(上記Ⅰ)、そうでない場合でも、発生原因が債務者対抗要件具備時より前に存在していた場合には、それによって生じた債権による相殺も対抗可能であり(上記Ⅱⅰ)、さらに、譲渡された債権と発生根拠となる契約が同一であれば、その点のみをもって、相殺を対抗可能とされています(上記Ⅱⅱ)。

 ただし、上記Ⅱにて対象とされた債権につき、債務者が、債務者対抗要件具備時より後に、他人から取得した債権である場合には、債務者に相殺に対する合理的な期待があったとはいい難いため、相殺は対抗できないとされています(新法第469条第2項柱書但書)。


6 企業実務への影響

 以上の改正事項のうち、特に、①譲渡制限特約の効力の変更、③「異議をとどめない承諾」制度の廃止は、以下のとおり、企業実務への影響は小さくないものと思われます。

  • (1)

    ①譲渡制限特約の効力の変更について

    •  前記2のとおり、本改正では、譲渡制限特約違反の効力について大きな見直しがあり、同特約違反の債権譲渡について、「無効」から「有効」への大きな転換がなされています。
      現在の実務上、企業間の契約においては、定型的に譲渡制限特約が付されていることが少なくありませんので、改正の影響が及ぶ範囲は非常に広範と思われます。

       また、債権の譲受人を保護する制度として、履行の催告権や供託請求権などが新設されていますので、実務上、譲渡を受けた債権の回収の局面においては、これらの制度を認識しつつ、積極的に利用していくことが必要となります。
    •  なお、本改正の主な目的は、前記のとおり、債権譲渡の促進による、資金調達の円滑化を図る点にあり、ここでは、特に中小企業による資金調達が念頭に置かれています。
       そのため、法的側面もさることながら、事業面においても、今後、債権譲渡を用いた融資環境の整備がなされやすくなり、特に成長過程の企業における資金調達方法として有力な選択肢となることも期待されます。
  • (2)

    ③「異議をとどめない承諾」制度の廃止

     前記4のとおり、旧法下では、債務者が、異議をとどめずに債権譲渡を承諾した場合には、債権者(譲渡人)に対抗できた事由を、譲受人には対抗できなくなるという、実務的にも大きな効果が認められていました。
     新法では、この効果が廃止されることになったため、債務者の保護が図られた一方、債権の譲受人にとっては、従前の実務上の取扱いに大きな変更を迫られることになります。
     すなわち、旧法下では、債権の譲受人としては、抗弁の切断のため、原則としては特段の対応を要しなかったところ、新法では、原則と例外が逆転し、抗弁の切断の効果を得るため、都度、積極的に債務者から抗弁の放棄の意思表示を得る必要が生じることになります。
     実務上は、上記の放棄の意思表示は、その重要性に照らし、書面で得るべきものと思われ、また、同書面上では、放棄の対象となる具体的な抗弁の内容をできるだけ特定して放棄の意思表示を得るべきことになると考えられます。

     以上にご紹介した内容以外にも、本改正により、実務上、様々な影響が想定されるところです。当事務所では改正民法に対応したリーガルサービスを提供していますので、ご懸念等ありましたらお気軽にご相談ください。

以上