「仮想通貨交換業」規制のポイント

1 はじめに

 近年、ビットコインをはじめとする仮想通貨が普及し注目を集めています。他方で、各国における仮想通貨に対する法規制が追いついておらず、その法的位置付けが曖昧な状態が続いていました。しかし、その移転が迅速かつ容易であること、匿名での利用が可能であることから、マネーロンダリングに悪用されるリスクが国際的に指摘され、各国において仮想通貨に関する法整備が進められるようになりました。また、平成26年には、我が国において、最大級の取引量を誇っていたビットコインの交換所であるMTGOXが破綻し、利用者に莫大な被害が生じる事態が発生しました。

 このような中、我が国でも仮想通貨の規制への動きが活発化し、平成28年5月25日成立、同年6月3日交付の「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(以下「銀行法等改正法」といいます。)によって資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)が改正され、新たに仮想通貨交換業が規制対象とされました(以下、改正後の資金決済法を「改正資金決済法」といいます。)。

 改正資金決済法の実施のための細目を定めた仮想通貨交換業者に関する内閣府令(以下「府令」といいます。)や金融庁事務ガイドライン(仮想通貨交換業者関係)(以下「事務ガイドライン」といいます。)も公表され、改正資金決済法は、平成29年4月1日に施行されました。

 本稿では、資金決済法に追加された仮想通貨交換業に関する規制の主なポイントを概観いたします。

2 「仮想通貨」及び「仮想通貨交換業」の定義

(1) 「仮想通貨」とは、以下のものをいいます(改正資金決済法2条5項)。

  • 物品を購入等する場合に、その代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子的方法により記録されているものに限る)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
  • 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

 仮想通貨の中で代表的なものはビットコインですが、他にも、イーサリアム、ライトコイン、ビットコインキャッシュ、リップルなど数百種類もの仮想通貨が存在しています。
 他方で、前払式支払手段発行者が発行する「プリペイドカード」、ポイント・サービスにおける「ポイント」は、通常、使用可能な店舗等が限られている点で、不特定の者に対して使用することができ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができるという要件を充たさず、仮想通貨に該当しません(事務ガイドラインI-1-1②)。
 なお、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産は、仮想通貨の定義から明示的に除かれています。

(2) 「仮想通貨交換業」とは、以下のいずれかを業として行うことをいいます(同法2条7項)。

  • 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
  • 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
  • その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること

 具体的には、直接、利用者と仮想通貨の売買や交換をする仮想通貨の販売所や交換所は①に当たり、利用者同士の売買を媒介等により実現させるような取引所は②に当たります。そして、仮想通貨の売買に関して、利用者の売却代金や購入代金を管理するような取引所が③に該当すると考えられます。

3 仮想通貨交換業の登録義務

 仮想通貨交換業を営むためには、登録を受けることが必要です(同法63条の2)。この登録を受けることができるのは、株式会社及び特定の外国仮想通貨交換業者に限られ、以下の要件を充たしていることも必要となります(同法63条の5第1項、府令9条)。

  • 資本金の額が1000万円以上であること
  • 純資産額が負の値でないこと
  • 仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていること
  • 仮想通貨の規制に関する規定を遵守するために必要な体制の整備が行われていること

 金融庁は、平成29年9月29日、合計11の法人が仮想通貨交換業者として登録されたことを公表しました。登録の完了した事業者については、以下の金融庁のホームページで確認することができます。http://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyo.html
 また、平成29年11月10日時点において、合計19社について未だ継続審査中であることも公表されています。

 登録申請を行ってから、当該申請に対する登録又は登録拒否の処分がなされるまでにかかる標準処理期間は、2ヶ月間とされています(府令36条1項)。もっとも、平成29年4月1日より前に、現に仮想通貨交換業を行っていた者は、同日から起算して6ヵ月以内に登録の申請をしていた場合は、その期間を経過した後も、その申請について処分があるまでの間、当該仮想通貨交換業を行うことができるとされています(銀行法等改正法(平成28年法律62号)附則(抄)8条1項後段(金融庁ホームページ)、改正資金決済法63条の2)。
 なお、不正の手段により登録を受けた者や無登録で仮想通貨交換業を行った者に対する罰則として、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が定められています(同法107条1項2号、5号)。

4 仮想通貨交換業者に対する規制

(1) 利用者の保護等に関する措置

 仮想通貨交換業者は、利用者保護のため、①誤認防止のための説明、②情報提供、及び③その他の措置を講じる義務を負います(同法63条の10)。いかなる説明や情報提供を、いかなる方法で行うべきかについては、府令や事務ガイドラインで示されています。以下、それぞれの義務の内容について概観します。

ア 誤認防止のための説明

仮想通貨交換業者は、利用者に対し、以下の説明をする義務を負います(府令16条2項)。
  1. 取り扱う仮想通貨は、本邦通貨又は外国通貨ではないこと
  2. 取り扱う仮想通貨が、特定の者によりその価値を保証されていない場合は、その旨又は特定の者によりその価値を保証されている場合は、当該者の氏名、商号、若しくは名称及び当該保証の内容
  3. その他取り扱う仮想通貨と本邦通貨又は外国通貨との誤認防止に関し参考となると認められる事項

イ 情報提供

 仮想通貨交換業者は、利用者に対し、仮想通貨交換業者の商号、住所、及び登録番号、取引の内容、仮想通貨の概要、仮想通貨の価値の変動を直接の原因として損失が生ずるおそれがあるときは、その旨及びその理由等につき、情報を提供する義務を負います(府令17条1項)。

 利用者に対する上記説明や情報提供は、取り扱う仮想通貨や取引形態に応じて行う必要があります。例えば、インターネットを通じた取引の場合には、利用者がその操作するパソコンの画面上に表示される説明事項を読み、その内容を理解した上で画面上のボタンをクリックする等の方法、対面取引の場合には書面交付や口頭による説明を行った上で当該事実を記録しておく方法が事務ガイドラインで示されています(事務ガイドラインⅡ-2-2-1-2(1)①)。

ウ その他の措置

 その他の措置とは、例えば、仮想通貨交換業に係る取引が犯罪行為に利用された疑いがあると考えられるときに、当該取引の停止を行うなどの措置があります(府令18条2号)。

(2) 利用者の財産管理義務

 仮想通貨交換業者は、その行う仮想通貨交換業に関して、利用者の金銭又は仮想通貨を自己の金銭又は仮想通貨と分別して管理しなければならないとされています(改正資金決済法63条の11第1項)。その際、利用者の金銭については、預金、貯金又は元本補填の契約のある金銭信託によって管理しなければなりません(府令20条1項)。
 そして、預金又は貯金により管理する場合には、利用者の仮想通貨と自己の固有財産である仮想通貨とを明確に区分し、かつ、当該利用者の仮想通貨についてどの利用者の仮想通貨であるかが直ちに判別できる状態で管理することが必要です(府令20条2項1号)。
 また、仮想通貨交換業者は、管理の状況について、毎年1回以上、定期に、公認会計士又は監査法人の監査を受けなければなりません(同法63条の11第2項、府令23条1項)。

(3) 帳簿作成保存義務

 仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業に関する帳簿書類を作成し、これを保存しなければなりません(同法63条の13)。作成すべき帳簿書類には、①仮想通貨交換業に係る取引記録、②総勘定元帳、③顧客勘定元帳、④各営業日における管理する利用者の金銭の額及び仮想通貨の数量の記録、⑤各営業日における信託財産の額の記録、⑥分別管理監査の結果に関する記録が含まれ、①から③は帳簿閉鎖の日から10年間、④から⑥は5年間保存することが義務付けられています(府令26条1項、2項)。

(4) 報告義務

 仮想通貨交換業者は、事業年度ごとに、仮想通貨交換業に関する報告書(事業概況書及び仮想通貨交換業に係る収支の状況を記載した書面)を作成し、事業年度の末日から3ヶ月以内に、最終の貸借対照表、損益計算書、及びこれら書類についての監査報告書を添付して提出しなければなりません(同法63条の14第1項、府令29条)。
 また、仮想通貨交換業者は、事業年度の期間を3ヶ月ごとに区分した各期間ごとに、仮想通貨交換業に関し管理する利用者の金銭の額及び仮想通貨の数量その他これらの管理に関する報告書を作成し、当該期間経過後1ヶ月以内に、残高証明書を添付して提出する必要があります(同法63条の14第2項、府令30条1項)。

(5)「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の規制

 仮想通貨交換業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」といいます。)上の「特定事業者」(犯収法2条2項31号)として、以下の義務を負います。

  • 取引時確認義務(同法4条1項)
    仮想通貨交換業者は、利用者について、本人確認等をする義務を負います。
  • 確認・取引記録等の作成・保存義務(同法6条、7条)
    仮想通貨交換業者は、①の確認に係る事項等につき記録を作成し、7年間保存する義務を負います。また、取引の内容等に関する記録を作成し、7年間保存することも義務付けられています。

  • 疑わしい取引の届出義務(同法8条1項)
    仮想通貨交換業者は、取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがある場合などには、速やかに、行政庁へ届け出なければなりません。

  • 社内管理体制の整備義務(同法11条)
    仮想通貨交換業者は、使用人に対する教育訓練の実施、①の措置の実施に関する規程の作成等①を的確に行うための措置を講じるように努めなければなりません。

5 おわりに

 今後も、世界中で仮想通貨の利用が広がり、これに対応する必要性が高まることが予想されます。また、改正資金決済法には、罰則規定に加えて、立入検査、業務改善命令、業務停止命令、登録取消、登録抹消等の規定が設けられており、同法に違反する者に対しては、これらの処分等が下される可能性があります。
 他方で、同法は、未だ施行されて1年も経っておらず、その解釈適用に関する前例の集積がなく、コンプライアンスの点で困難が伴うことが予測されます。
 改正資金決済法の内容や適用の有無など、ご不明な点等がありましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

以上