インサイダー取引規制に関する平成25年金融商品取引法改正

弁護士 大村 健

2013年12月1日

1 平成25年金融商品取引法改正の概要

 平成25年6月19日に公布された金融商品取引法(以下「金商法」と言います。)の改正で、インサイダー取引規制が改正されましたが、その概要は以下のとおりです。

  1. ① 情報伝達・取引推奨行為に対する規制の導入
  2. ② 上場投資法人の投資口のインサイダー取引規制の対象化
  3. ③ 公開買付者等関係者の範囲の拡大
  4. ④ 資産運用業者の違反行為に対する課徴金の引上げ
  5. ⑤ インサイダー取引規制の適用除外の拡大
    • (1) 対抗買いに関する適用除外規定の解釈の明確化
    • (2) いわゆるクロクロ取引にかかる適用除外規定の見直し
    • (3) 公開買付け等事実の情報受領者にかかる適用除外の新設
    • (4) いわゆる知る前契約・計画にかかる適用除外規定の見直し

 本稿では、事業会社に関わる、①、③、⑤(2)・(3)について解説します。

 なお、いずれも平成26年4月1日に施行される予定です。

2 情報伝達・取引推奨行為に対する規制の導入(①の改正)

 これまでインサイダー取引を引き起こす可能性のある情報を伝える行為自体は規制されてきませんでした(教唆・幇助の可能性はありますが)。
 しかしながら、昨今、公募増資に際して、引受証券会社からの情報漏えいに基づくインサイダー取引や会社関係者から情報伝達を受けた情報受領者によるインサイダー取引が多数発生したため、平成25年金商法改正により、会社関係者及び公開買付者等関係者が、未公表の重要事実や公開買付等事実(以下、合わせて「重要事実」といいます。)を伝える行為(情報伝達行為)とそのような重要事実を知った上で他人に当該上場企業の株券等の取引を推奨する行為(取引推奨行為)が規制されるようになりました(改正金商法167条の2)。
 ただし、業務提携の交渉や企業のIR活動等の通常業務・活動に影響を与えないように、情報伝達行為や取引推奨行為が「他人に売買をさせることにより利益を得させる目的」という主観的要件を満たす必要があります。
 また、情報伝達行為や取引推奨行為に課徴金(売買等によって得た利得相当額の2分の1)や刑事罰(5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科)等が課されるのは、情報伝達行為や取引推奨行為に基づき実際に売買等を行った場合に限定されます。
 さらには、証券会社等の役職員が重要事実の情報伝達行為や取引推奨行為を行った場合には、注意喚起のために違反行為に関わった役職員の氏名公表がなされることになりました。
 なお、第一次情報受領者については、情報伝達行為や取引推奨行為は禁止されていません。

3 公開買付者等関係者の範囲の拡大(③の改正)

 公開買付における被買付企業およびその役職員は公開買付者等関係者として明示されていないため、公開買付者との間で特段の契約がない場合には、内部者には該当せず、被買付企業からの情報受領者は第二次情報受領者として規制対象から外れていました。
 そのため、実務上は守秘義務契約の契約締結者と認定して、インサイダー取引規制の対象としてきました。
 しかしながら、例えば、先に公開買付け等事実が知らされた後に改めて守秘義務契約を締結する場合には、契約の締結・交渉等に関して、公開買付け等の事実を知ったと認定するのは難しいといった具合に、常にそういった認定ができるとも限らないので、平成25年金商法改正で、被買付企業およびその役職員を公開買付者等関係者に加えることになりました(改正金商法167条1項5号)。

4 いわゆるクロクロ取引にかかる適用除外規定の見直し(⑤(2)の改正)

 重要事実を知っている者同士の間において、市場外で行われる相対取引(いわゆるクロクロ取引)について、公開買付者等関係者にかかるインサイダー取引規制の場合と異なり、会社関係者にかかるインサイダー取引規制の場合には、第一次情報受領者と第二次情報受領者との間で行う取引は適用除外とされていないのではないかという疑義があり、実務上、第一次情報受領者が株式を売却する際に支障がありました(例えば、大株主が第一次情報受領者で、市場外でブロックトレードを行う際には、買主が第二次情報受領者となってしまうため発行会社の協力を得て、発行会社から買主に重要事実を伝えるといった迂遠な手続きをとってそれを回避する等)。
 そこで、平成25年改正法では第一次情報受領者と第二次情報受領者との間で行われるクロクロ取引も適用除外であることを明確にしました(改正金商法166条6項7号)。

5 公開買付け等事実の情報受領者にかかる適用除外の新設(⑤(3)の改正)

 現行法では、上場企業を買収しようとする者は、他の潜在的買収者に、自分が公開買付けを実施することについて決定したとの未公表事実を意図的に伝達して、他の潜在的買収者を情報受領者という立場にすることで、他の潜在的買収者による対抗的な公開買付けを妨害できてしまうという問題がありました。
 そこで平成25年金商法改正により、

  1. ①情報受領者が、自ら公開買付けを行い、その伝達を受けた情報を公開買付開始公告および公開買付届出書により開示した場合
  2. ②情報受領者が、最後に伝達を受けてから6カ月が経過した場合

には、インサイダー取引規制の適用除外としました(改正金商法167条5項8号・9号)。

6 事業会社における留意点

 今回の改正は、各事業会社における既存のインサイダー取引防止規程や情報管理規程を大幅に見直すようなものではないと思われますが、改正内容に関して、役職員に対する研修や教育を徹底することが必要となるでしょう。

以上