改正高年齢者雇用安定法
2013年2月1日
1 はじめに
平成24年8月29日、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます)が成立し、本年(平成25年)4月1日から施行されます。
改正法においては、高年齢者雇用確保措置としての継続雇用制度(※)について、従来は認められていた「労使協定による継続雇用対象者の限定の仕組み」が廃止されるなど、企業(事業主)として対応を検討しなければならない事項が含まれています。
※ 現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいいます。
施行日が間近に迫っておりますので、対応漏れなどがないか今一度ご確認いただく意味で、以下、改正法の要点を説明させていただきます。
2 改正法の目的
わが国では、少子高齢化が急速に進行する中、労働力人口の減少に対応し、経済と社会を発展させるため、高年齢者をはじめ働くことのできる全ての人が社会を支える全員参加型社会の実現が求められています。
また、本年(平成25年)4月より特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられることから、従前の法制度の下では、60歳定年以降、継続雇用を希望したとしても、雇用が継続されず、しかも年金も支給されないという無年金・無収入となる者が生じる可能性がありました。
そこで、このような状況を踏まえ、改正法では、継続雇用制度の対象となる高年齢者につき、事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止するなど、高年齢者の雇用確保を目的とした改正がなされました。
3 改正のポイント
改正法のポイントとしては、①継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止、②継続雇用制度の対象者を雇用する事業主の範囲の拡大、③義務違反の事業主に対する公表措置の創設が挙げられますが、事業主にとって最も重要な改正点は①です。
① 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
(1)現行の法制度
現在の高年齢者雇用安定法では、事業主が定年を定める場合には原則として60歳を下回ることができないこととされるとともに、65歳未満の定年を定めている事業主に対しては、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないとされています。
- 一 定年の引上げ
- 二 継続雇用制度の導入
- 三 定年の定めの廃止
もっとも、継続雇用制度については、事業主は、労働組合や過半数代表者との労使協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができるものとされています(すなわち、希望者全員を継続雇用の対象としない制度も可能です。)。
(2)改正法による変更と経過措置
これに対し、改正法では、上記労使協定による基準に基づく対象者の限定措置が廃止されます。そのため、希望者全員を継続雇用制度の対象とすることが必要となります。
もっとも、改正法の施行までに(具体的には平成25年3月31日までに)労使協定による基準を設けている事業主については、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について当該基準の継続適用が認められます。
すなわち、平成28年3月31日までは61歳以上の人に対して、平成31年3月31日までは62歳以上の人に対して、平成34年3月31日までは63歳以上の人に対して、平成37年3月31日までは64歳以上の人に対して、労使協定による基準を適用することができます。
また、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないことなど、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合には、継続雇用をしないことができますし、解雇や退職と同一の事由をこれらの規定とは別に継続雇用しないことができる事由として就業規則に定めることもできます。ただし、継続雇用しないことについては、客観的・合理的な理由と社会通念上相当であることが必要であると解されます。
なお、改正法は、定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありませんので、事業主は、合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても直ちに違法にはなりません。
② 継続雇用制度の対象者を雇用する事業主の範囲の拡大
継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される事業主の範囲について、雇用先の事業主のみならず、「特殊関係事業主」にまで拡大されました。
特殊関係事業主とは、事業主の親会社、子会社、関連会社等を指します。
なお、この場合、継続雇用についての事業主間の契約が必要です。
③ 義務違反の事業主に対する公表措置の創設
高年齢者雇用確保措置を実施していない事業主に対しては、監督官庁による指導や勧告がなされ、勧告によっても是正されない場合には事業主名を公表することができるものとされました。
4 改正による影響
以上のとおり、継続雇用制度の対象者について労使協定で基準を設けることは、経過措置が適用される場面を除いて、今後はできないことになります。
この点、厚生労働省の発表によると、平成23年6月1日時点で企業の82.6%は、高年齢者雇用確保措置のうち継続雇用制度を選択しているようであり、また、対象者となる高年齢者について労使協定で基準を定めている企業は56.8%にのぼるとのことです。
これによれば、半数以上の企業では、経過措置により、その範囲内で既に締結している労使協定による基準の適用を継続することが可能であると見受けられますが、一方、半数近い企業では、本年(平成25年)4月1日の改正法施行でもって、労使協定による基準の適用は認められなくなります。
そのため、継続雇用制度を採用している企業のうち、継続雇用制度の対象者の基準にかかる労使協定を締結していない企業では、平成25年3月31日までに、労使協定締結の可能性を検討するほか、これが難しい場合には、希望者全員を継続雇用することを前提に、社内制度や就業規則等の見直しを行う必要があろうかと思います。
また、労使協定を締結する場合には、その内容は原則的には労使の協議に委ねられますが、企業側が恣意的に継続雇用を排除しようとするなど改正法の趣旨や他の労働関連法規に違反するものは認められないと考えられますので、その点に留意が必要です。
労使協定の作成、交渉をはじめ、継続雇用制度に関する対応等でお悩みのことがございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
以上