労働者派遣法の改正

1 はじめに

 近年、労働力の需給調整や人件費の調整といった企業のニーズにより労働者派遣が活用される中で、派遣労働者の不安定な地位を保護する必要性が強く叫ばれるようになりました。こうした声を受けて、政局による紆余曲折を経ながらも、平成24年3月28日に労働者派遣法の改正案が国会で可決され、同年4月6日に公布されました(従来の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」、改正法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」)。
 今回の改正により、従来認められていた派遣形態の一部が禁止されるなどしており、実務に与える影響は少なくないと思われます。派遣元事業主および派遣先は、今回の改正を受けて、現在の事業内容を見直す必要があります。
 以下では、改正の内容について、重要なポイントに絞ってご説明します。

2 改正の内容

 改正法は、①派遣事業への規制強化、②派遣労働者の地位の保護、③違法派遣に対する措置という3つを改正の柱としています

(1)派遣事業への規制強化

① 日雇派遣の原則禁止
 改正法では、日雇労働者についての労働者派遣を原則として禁止しました。
 このような労働者派遣は、派遣労働者の雇用を不安定なものとする度合いが強いためです。
 「日雇労働者」とは、日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者をいいます(「期間」は派遣元事業主と派遣労働者との間の雇用契約で定めた雇用期間を指します。)。
 もっとも、(a)日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務(専門性が高い業務等)や、(b)雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者(高齢者や学生等が想定される)については、例外的に日雇派遣が可能とされています。詳細は政令に規定されることになります。

② グループ企業内派遣の8割規制
 派遣元事業主は、雇用する全ての派遣労働者について、自社の関係派遣先での派遣就業時間が当該派遣労働者の全派遣就業時間の8割以下となるようにしなければなりません。
 「関係派遣先」とは、親会社等のグループ企業を指し、厚生労働省令で定められることになります。

③ 離職した労働者の労働者派遣の禁止
 派遣元事業主は、派遣先を離職した労働者については、離職の日から1年を経過するまでの間は、原則としてその者を派遣先に派遣してはならず、派遣先もこれを受け入れてはいけません。

(2)派遣労働者の地位の保護

① 有期雇用派遣労働者等の無期雇用への転換の努力義務
 派遣元事業主は、有期雇用派遣労働者等からの希望に応じて、無期雇用の機会を提供したり、紹介予定派遣の対象としたりするなどの転換推進措置をとることが努力義務とされました。

② 派遣先労働者との待遇の均衡考慮
 派遣元事業主は、同種の業務に従事する派遣先労働者の賃金水準との均衡を考慮し、派遣労働者の賃金を決定するよう配慮すること等が努力義務とされました。

③ マージン率の公開
 派遣元事業主は、事業所ごとの派遣労働者の数、派遣先の数、いわゆるマージン率、教育訓練に関する事項等について情報公開をすることが義務とされました(努力義務ではなく、法的義務とされています)。
 マージン率とは、派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合をいいます。
 マージン率に上限規制はありませんが、これを公開することにより派遣元事業主に一定の委縮効果が生じることは考えられます。情報公開はインターネット等を通じて行うなどすることになります。

④ 雇い入れ時の説明義務
 派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇用しようとする場合には、賃金の額の見込みその他派遣労働者の待遇に関する事項等を説明すること、および当該労働者の労働者派遣の派遣料金を明示することが義務とされました。

⑤ 労働者派遣契約の解除にあたって講ずべき措置
 派遣元事業主および派遣先は、労働者派遣規約の締結に際し、労働者派遣契約の解除に当たって派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項を定めることが義務とされました。
 措置の内容としては、たとえば、新たな就業の機会を確保することや、休業手当等の支払に要する費用負担等が挙げられます。

(3)違法派遣に対する措置

① 労働契約申込みみなし制度
 今回の改正により、労働契約申込みみなし制度が導入されました。
 労働契約申込みみなし制度とは、派遣先が、改正法で定めるいずれかの違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合に、違法な状態が発生した時点で、派遣先が派遣労働者に対して当該派遣労働者の派遣元事業主における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなすという制度です。
 もっとも、派遣先が違法派遣であることを知らず、かつ、知らなかったことについて無過失であったことを証明すれば、労働契約の申込みとはみなされません。

違法派遣としては、以下の4類型が挙げられています。

  1. 適用除外業務(派遣禁止業務)の受け入れ
  2. 無許可・無届の派遣元事業主からの受け入れ
  3. 受入期間制限(派遣可能期間)を超えた受け入れ
  4. 偽装請負などの受け入れ(労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目の契約を締結し、労働者派遣契約を締結せずに労働者を受け入れること)

3 改正による影響

 以上で述べたとおり、改正法では派遣元事業主や派遣先への規制強化と派遣労働者の地位の保護が図られています。
 改正法は、平成24年10月1日から施行される予定です(ただし、労働契約申込みみなし制度については平成27年10月1日施行予定です)。
 そのため、派遣事業者は、それまでに自社の契約関係や運用状況を見直し、必要があれば業務内容の改善や新制度に対応したマニュアルの作成等を行うことになります。
 今回の改正で導入された規制および例外についての正確な理解が必要となりますので、適宜専門家に相談されることが望ましいと思われます。
 なお、今回の改正では、当初は「製造業務派遣の原則禁止」が盛り込まれる予定でしたが、製造業者を取り巻く厳しい経済情勢への悪影響を懸念し、今回は見送られることになりました。また、「登録型派遣の原則禁止」も盛り込まれる予定でしたが、低迷する労働環境の更なる悪化を懸念し、やはり今回は見送られることになりました。しかし、これらの事項については引き続き検討事項とされ、今後さらに議論が行われていく予定ですので、その動向を注視する必要があります。
 労働者派遣事業については今後も基本的には規制が強化される方向で議論が進んでいくものと予想され、変化の大きい分野ですから、今後の方向性を含め、改正法への対応等で悩んだ場合には、当事務所までご相談ください。

以上