暴力団排除条例~企業対応の視点から・東京都のケース~
(H24.1・暴力団排除条例)

1 はじめに

 暴力団関係者による多くの事件、権利侵害を受け、近年、我が国では暴力団排除の機運が飛躍的に高まっています。暴力団対策としては、いわゆる暴力団対策法の制定・改正や、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が公表されるなどしてきましたが、暴力団でありながら表面上は通常の企業として活動する例が増加するなど、暴力団の活動は不透明化を増してきています。
 こうした中、福岡県での暴力団排除条例の施行を皮切りに、平成23年10月1日の東京都と沖縄県での施行によって、47都道府県のすべてで暴力団排除条例が施行されるに至りました。
 暴力団排除条例では、契約締結の場面等で企業に求められる措置なども規定されていますので、従来暴力団排除対策を講じていなかった企業は条例の施行を受けて対応の見直しを求められることになります。また、既に対策を講じてきた企業であっても、条例の施行を受けて、現在の対応が十分なものであるかどうか改めて見直す必要があると思われます。
 以下では、東京都暴力団排除条例(以下、単に「条例」といいます。)を例に、企業における対応を主な視点としてご説明します。

2 条例の概要

 条例は、都民及び事業者の執るべき対応を積極的に定め、都の支援体制によってそれを補完するという仕組みをとっています。企業にとって重要と思われる条項は、概要、以下のとおりです。

  1. (1)

    契約時における措置(条例18条)

    1.  企業は、その事業に係る契約の相手方やその関係者等が「暴力団関係者()」でないことを確認する努力義務を負います(同1項)。

       暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者(2条4号)

       確認の方法としては、以下のようなものが考えられます。

      1. ①暴力団関係者でない旨の表明保証をさせる方法(誓約書の提出を受ける、又は契約書中に表明保証条項を盛り込む等。)
      2. ②暴力団関係者でないか調査を行う方法(登記簿謄本やホームページその他業界団体のデータベース等上の情報等を基に、暴力団関係者であるとの疑いを生じさせる情報・不自然さを調査し、場合によっては警察や暴追センターに情報照会する等)
         なお、条文上は、このような確認措置を「契約が暴力団の活動を助長・・する疑いがあると認める場合」に限定していますが、「助長」するかどうかの判断は不明確であることからして、実務上は、企業としては、「助長」となるかどうかの判断は捨象し、一律に確認措置を採ることになると思われます。
    2.  企業は、書面により契約を締結する場合、以下の内容の特約を定める努力義務を負います(条例18条2項)。

      1. ①契約の相手方等が暴力団関係者と判明した場合に、無催告で当該契約を解除できること
      2. ②当該契約の関連契約()の当事者等が暴力団関係者と判明した場合に、当該契約の相手方に対して、その関連契約を解除する等の必要な措置を講じるよう求めることができること

        「工事請負契約の際の下請契約」が例示されていますが、これはあくまで例示であり、関連契約の範囲はこれに限られませんので注意が必要です。

      3. ③前号により関連契約の解除等を求めたにもかかわらず相手方が正当な理由なくこれを拒絶した場合に、自身の契約を解除できること
  2. (2)

    不動産の譲渡等における措置(条例19条)

     都内にある不動産を譲渡したり貸し付けたりする場合、契約締結にあたり、当該不動産を暴力団事務所の用に供するものではないことを確認する努力義務を負います(同1項)。
     また、書面により契約をする場合、以下の内容の特約を定める努力義務を負います(同2項)。
    1. ①自ら又は第三者をして不動産を暴力団事務所の用に供してはならないこと
    2. ②不動産が暴力団事務所の用に供されていることが判明した場合に、無催告で当該契約を解除等できること

  3. (3)

    祭礼等における措置(条例17条)

     興行など、公共の場所に不特定又は多数の者が一時的に集合する行事の主催者や運営者は、行事運営に暴力団又は暴力団員を関与させないような措置をとる努力義務を負います。
     行事には、企業が行う商品発表イベントやキャンペーンなども含まれる場合があります。
     具体的な対応としては、運営関与者の氏名等の確認や、警察等への照会などが考えられます。

  4. (4)

    規制対象者に対する利益供与の禁止等(条例24条)

     企業は、暴力団の威力を利用したことの対償として規制対象者又は規制対象者の指定した者に対して利益供与をしてはなりません(同1項)。
     また、それ以外の場合であっても、暴力団の活動を助長等することを知りつつ規制対象者又は規制対象者の指定した者に対して利益供与をしてはなりません(ただし、法令上の義務である場合などは除かれます。同3項)。

3 条例の意義

 以上のとおり、条例は企業の執るべき措置を各種定めています。
 企業が規制対象者に対する利益供与をした場合、都から勧告や公表といった制裁が課される可能性があり、企業としては規定の遵守が必要となります。これは逆に、条例は、企業にとっては暴力団との関係を遮断するための道具(理論武装)として利用できるという意義があります。努力義務に留まる規定であっても、企業としてはできる限り当該規定の遵守が望まれるわけですので、やはり、暴力団との関係を遮断するための道具(理論武装)として利用できることになります。
 そして、条例は、暴力団排除の取り組みに対する妨害行為を禁止し、または情報提供や助言、保護措置その他必要な支援等を行うことで、企業による暴力団排除の取り組みを後押ししています。
 このような仕組みにより、今まで不本意ながら暴力団関係者との関係を断ち切れなかった企業も、条例を機にその関係を遮断することが容易になったと評価できます。

4 今後企業に求められるもの

 契約時における措置などは努力義務に留まるため、これを履行しなかったとしても直ちに法的問題が生じるわけではありません。
 しかし、企業が暴力団排除に関する適切なリスク管理体制・内部統制システムを構築していなかったために不当要求等を受けて損害を被った場合、取締役は善管注意義務違反に問われるリスクがあります(大和銀行ニューヨーク支店事件や神戸製鋼所事件などが参考になります。)。
また、暴力団関係者による不当要求によって企業の利益が害される事態も予想される他、暴力団関係の問題に巻き込まれやすくなり、仮に問題が生じた場合には、多大な社会的非難を受けるというレピュテーションリスクもあります。
 条例の制定や有名芸能人の芸能界引退事件などを受けて、暴力団排除についての社会的関心・規範意識が急速に高まっている現在、企業としては、努力義務規定であっても率先して履行していくことが必要であると考えられます。
 暴力団排除条項の作成や具体的な対応等で悩んだ場合には、当事務所までご相談ください。

以上