会社分割が詐害行為に該当するとして、その取り消しが認められた裁判例
(東京地裁平成22年5月27日判決・東京高裁平成22年10月27日判決)
2011年6月1日
1 事案の概要
リース会社であるX社は、クレープ飲食事業と広告宣伝事業を営むY1社との間で、店舗内装に関するリース契約を締結していましたが、平成20年1月ころから、Y1社の経営が悪化し、所定のリース料が支払われなくなりました。他方、経営悪化によって債務超過となっていたY1社は、同年2月、その事業のうちクレープ飲食事業に関する権利義務を、新設分割(本件会社分割)によってY2社に承継させましたが、リース料に係るX社に対する債務は承継の対象としませんでした。
そこで、X社が、(ア)Y1社に対しては、リース料及び損害賠償金の合計1911万5040円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、(イ)Y2社に対しては、本件会社分割が詐害行為に当たると主張して、詐害行為取消権に基づき、(a)本件会社分割の取消しを請求するとともに、(b)価格賠償として上記(ア)の各債権(本件被保全債権)の元本合計相当額1911万5040円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めました。
以下、(ア)の請求については特に問題がないため、問題となっている(イ)の請求について判決要旨を取り上げます。
2 判決要旨
(1)東京地裁平成22年5月27日判決
以下のとおり判示して、X社の請求をほぼ認容しました。
① 新設分割は、会社法に基づく組織法上の法律行為であるが、ただちに民法の規定の適用が制限または排除されるものではなく、会社法上、新設分割無効の訴えの制度があるからといって、新設分割について詐害行為取消権の規定の適用が妨げられる理由にはならない。
② 本件会社分割により、一方で、Y1社の保有する債権を中心とするほとんどの無担保の残存資産が逸失してY1社は会社としての実体がなくなり、他方で、Y1社が対価として取得したY2社の株式は、非上場株式会社の株式であり、株主が廉価で処分することは容易であっても一般的には流動性が乏しく、Y1社の債権者にとっては、株主名簿を閲覧する権利もなく、株券が発行されればより一層、これを保全することには著しい困難が伴い、さらに強制執行の手続においても、その財産評価や換価をすることには困難を伴うため、本件会社分割により、Y1社の一般財産の共同担保としての価値を実質的に毀損して、X社が弁済を受けることがより困難になったといえるから、本件会社分割には詐害性が認められる。
③ 詐害行為となる本件会社分割の目的物である金銭債権及び固定資産が可分であることは明らかであるため、本件会社分割を詐害行為として取り消す範囲は、X社の被保全債権の額を限度とし、本件会社分割により承継させた資産は、個別の権利として特定されておらず、Y2社が事業を継続していることからすると、X社にとって、承継された資産を特定してこれを返還させることは著しく困難なため逸失した財産の現物返還に代えてその価格賠償を請求することができる。
(2)東京高裁平成22年10月27日判決
第1審判決を引用しつつ、さらに以下の点を補足して、Y2社らの控訴を棄却しました。
① 新設分割が企業再編のために用いられるものであるとしても、そのことによって詐害性がないとすることはできない。また、新設分割は、債権者がこれに主体的に関与することがないまま行われ得るものであって、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画案を定めることと等により、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業または経済生活の調整を図ることを目的とする民事再生手続によるものではないから同列に論じることはできない。
3 考察
会社分割が詐害行為取消権の対象となるか否かについて裁判例が分かれていました。本件は、高裁判決で確定しているため、最高裁の判断は仰げませんでしたが、正当な判断を示している裁判例として非常に高く評価されています(神作裕之『濫用的会社分割と詐害行為取消権―東京高判平成22年10月27日を素材として―』商事法務1924号・1925号等)。
今後、濫用的会社分割を誘発することを防いだという意味において貴重な先例になるでしょう。
以上