著作物の引用(オークション用カタログ事件(知財高裁平成28年6月22日判決))

1 はじめに

 何らかの理由で他人の著作物を無許可で利用しようと考えた場合、多くの方が「引用」を想起されることと思います。
 しかし、「引用」という言葉が広く一般の方に知れていることとは裏腹に、著作権法上、引用が認められる要件は極めて曖昧で学説・裁判例が錯綜しているところです。
 本稿では、最新の裁判例を紹介しながら、「引用」(著作権法上第32条第1項)がどのようなものか、考えていきたいと思います。

2 引用とは

 最新の裁判例をご紹介する前提として、まず、簡単に引用に関する基礎知識を確認しておきましょう。

(1)引用の条文

 著作権法上の引用に関する著作権法上の規定は以下のとおりです(第2項は本項と関連が薄いため省略いたします。)。

第32条(引用)
1 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

(2)従前の裁判例

 従前の裁判例より、端的に結論を教えてほしいとの声が聞こえそうですので、手短にこれまでの裁判例をご紹介いたします。
 素直に上記の条文を読めば、引用への該当性は、「公正な慣行に合致する」ことや、「引用の目的上正当な範囲内で行われること」によって判断されるように思われます。
 しかし、いわゆるパロディモンタージュ事件1において、最高裁は、「利用する側の著作物と、利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識できること(明瞭区別性)」、「両者に主従の関係があること(主従関係)」という条文に記載の無い2つの要件が認められなければならないと判示しました。

 その後、長らく最高裁の基準で引用の該当性が判断されてきましたが、美術品鑑定書事件2において知財高裁は、「引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであること」、「引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであること」という条文に沿った2つの要件を検討することで引用が認められるかを判断すべきとしました。なお、その判断においては、様々な事情3を総合考慮すべきとも判示されております。
 現在は、引用の要件をどう判断するかにつき、様々な裁判例・学説が存在するところです。

  1. __________________
  2. 1最高裁昭和55年3月28日判決(民集34巻3号244頁)
  3. 2知財高裁平成22年10月13日判決(判タ1340号257頁)
  4. 3具体的には、「引用としての利用に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。」とされております。

3 オークション用カタログ事件(知財高裁平成28年6月22日判決(裁判所HP))

 このような状況の下、新しく引用に関する知財高裁の判決が出ましたのでご紹介いたします。

(1)事案の概要

 本件の当事者は以下のとおりです。
 原告:会員作品の著作権管理団体とパブロ・ピカソの作品の著作権管理者
 被告:オークションの主催者

 事案の概要は、被告が主催するオークション用のカタログに無断でパブロ・ピカソ等の作品の写真を掲載した4ことが、著作権(複製権)を侵害するとして、損害賠償等を求めた、というものです。
 これに対して、被告は反論の1つとして「今回の写真の掲載は適法な引用である」との主張を行いました5

(2)裁判所の判断

 結論として、裁判所は被告の引用の反論を認めず、原告の損害賠償の請求を認めました。

  1.  判断の枠組み

       本判決は、他人の著作物を引用した利用が許されるためには、その方法や態様が、
    1.  ①「報道,批評,研究等の引用目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のもの」であること
    2.  ②「引用して利用することが公正な慣行に合致すること」
    3. の2つの要件が必要であると判示しました。
  2.  あてはめ
     その上で、本判決は、今回の事案について、以下のように認定しました。

    複製の目的:

    「本件オークションにおける売買の対象作品を特定するとともに,作家名やロット番号以外からは直ちに認識できない作品の真贋,内容を通知し,入札への参加意思や入札額の決定に役立つようにする点にある」

    複製態様1:6

    「実際の本件カタログをみる限り,各頁に記載された写真の大きさが上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く,掲載された写真は,独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさといえ,上記の情報等の掲載に主眼が置かれているとは解し難い。」7

    複製態様2:

    「本件オークションでは,本件カタログの配布とは別に,出品された美術作品を確認できる下見会が行われている」

  3.  結論

     本判決は、複製態様1・2に照らすと、「上記の情報等と合わせて,美術作品の写真を本件カタログに記載された程度の大きさで掲載する合理的な必然性は見出せない」とし、「本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が,本件オークションにおける売買という目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また,公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。」としました。
     簡単にいいますと、裁判所は①②いずれの要件もないとして、引用の反論を認めなかった、ということになります。

    1. __________________
    2. 4判決文によれば、オークションにおいて取引の対象となる絵画を特定するために、カタログに絵画が掲載されたとのことです。
    3. 5論点は多岐に渡る事案ですが、引用に関する部分のみを紹介しております。
    4. 6説明の都合のため付した番号です。
    5. 7判決文によれば、本件カタログには、美術作品の写真に合わせて、ロット番号、作家名、作品名、予想落札価格、作品の情報等が掲載されているとのことです。

4 若干の考察

 以上のように、本判決は引用の反論を認めませんでしたが、注目すべきは、その「判断基準」と「考慮要素」です。多くの方は、美術品のオークションビジネスをお考えではないと思われますので、本判決の判断基準や考慮要素から「自分の利用方法が適法な引用に該当するか」を判断する必要があるためです。

(1)判断基準

 本判決は、判断基準として、その方法や態様が、
①「報道,批評,研究等の引用目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のもの」であること
 ②「引用して利用することが公正な慣行に合致すること」
の2つを挙げています。

 ①は、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」という条文の文言を解釈したものですので、①②は条文に忠実な基準といえ、その意味では前述の美術品鑑定書事件と同様の基準で判断しているといえます。
 学説上も、条文上の文言に沿った基準で判断すべきであるとの見解が増えてきているようであり8、今後も、引き続き同様の基準で判断される可能性は十分にあるところです。

 しかし、上記2要件を見ても、どのような方法で利用すれば「引用」に該当するかは、明らかではありません。
 そこで、裁判所が判断にあたって考慮している要素を検討し、今後の利用のヒントとする必要があります。

  1. __________________
  2. 8半田正夫・松田政行編『著作権法コンメンタール2 第2版』260頁[盛岡一夫](勁草書房、2015)、髙部眞規子『実務詳説著作権訴訟』274頁(金融財政事業研究会、2012)、中山ほか編『著作権法判例百選』125頁[大鷹一郎](有斐閣、2009)

(2)考慮要素

  1.  引用して利用される側の大きさ

     本判決の判断のうち、今後の利用の参考になる点としては、複製の態様について、「各頁に記載された写真の大きさが上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く,掲載された写真は,独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさといえ」ると判断している点が挙げられます。
     つまり、本判決は、「写真に付されている説明の文章より複製している写真が大きい」という点を考慮し、「引用」とはいえない方向の事情として用いているといえます。
     個人的には、オークション用のカタログに掲載すべき作家名や作品の情報などの文章が膨大になるとは思えませんので、写真より文章の占める範囲が小さいという点はある程度仕方ないようにも思われるところですし、その文章より小さく写真を掲載すれば、「売買の対象作品を特定する」「作品の真贋,内容を通知」するという複製の目的が達成できないようにも思われます。
     しかし、本判決では、あくまで、「引用して利用される側」(絵画の写真)は、「引用して利用する側」(説明の文章)より、小さく存在する方が望ましいと考えられているようです。

  2.  別の方法の存在

     また、本判決は、「本件カタログの配布とは別に,出品された美術作品を確認できる下見会が行われている」ことをもって、「カタログに記載された程度の大きさで掲載する合理的な必然性は見出せない」としております。
     つまり、本判決では、別の方法(下見会)で「売買の対象作品を特定する」「作品の真贋,内容を通知」するという複製の目的が一定程度達成できている以上、カタログで大きく掲載する必要性は低い、と考えられているものと思われます。

  3.  まとめ

     個別の利用については、個々の事情に基づく判断になるため一般的なことは申し上げにくいところですが、本判決の判断からしますと、引用して掲載する部分を本文より小さく掲載することや、目的を達成できる別の方法が存在しないことは、少なくとも「引用」と判断されやすくなる事情といえそうです。
     裁判所は判断にあたって様々な要素を考慮する傾向があるため、利用に際しては、「引用」と判断されやすい事情をなるべく多く積み重ねておくことが重要と考えます。
     なお、本判決は、美術品鑑定書事件判決のように、考慮要素を個別に列挙しておりませんが、美術品鑑定書事件の考慮要素を完全に否定する趣旨ではないように思われます。
     そのため、引用を行うにあたっては、美術品鑑定書事件の考慮要素(利用の目的、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度など)も参考に、引用を行うと良いのではないかと思われます。

5 おわりに

 以上検討してきました通り、引用については、裁判例上の要件も確定しておらず、判断も個々の事例ごとに様々な要素を考慮して行われるため、引用に該当するか否かの判断は非常に難しいところです。
 著作物の引用に関するお悩みなどがございましたら、お気軽にご相談ください。

以上