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2015年11月01日

(第38回)[商業登記編]~責任限定契約と社外取締役の登記改正~

司法書士 大越一毅

~責任限定契約と社外取締役の登記改正~

Q:当社は、株式公開をしている上場企業です。
 当社は社外取締役がおり、責任限定契約の定めを定款に置いているため、その旨の登記をしています。
 今期の定時株主総会で、社外取締役も含めた取締役全員の任期が満了し、再任予定なのですが、社外取締役・責任限定契約の登記に関し、改正があったと聞きました。具体的にはどのような改正があったのでしょうか。

A:

 1.責任限定契約とは?

 株式会社は、業務執行をしない取締役(以下「非業務執行取締役」といいます。)・監査役・会計参与又は会計監査人との間で、職務を行うにつき善意でかつ重大な過失が無いときは、定款に定めることにより、損害賠償の責任額をあらかじめ会社が定めた額と会社法上の最低責任限度額(以下「最低責任限度額」といいます。)とで高い方の額に限定する契約を締結することが可能です(会社法427条)。これを責任限定契約といいます。
 平成27年5月1日施行の平成26年会社法改正(以下「本改正」といいます。)によって、本改正前は、社外取締役・社外監査役にしか認められていなかった責任限定契約が、業務執行をしない取締役・社外ではない監査役にも認められるようになりました。
 これは、本改正によって社外取締役の要件が変わったことに伴い、当該会社における業務内容は変わらないものの、社外取締役でなくなる者が出てくる可能性があり、それだけをもって本改正前は社外取締役であった者が本改正後は責任限定契約の締結ができなくなるというのは、避けるべきというのが理由と考えられます。
 また監査役に関しては、いずれにしろ業務執行をしないのに、社外かどうかで差を設けることは妥当ではないというのが理由と考えられます。

 他方で、上記のように責任限定契約の対象範囲が拡大されましたが、本改正前と同様に、対象範囲を社外取締役・社外監査役のみに限定したままとすることも可能です。

 2.業務執行とは?

 会社法において、会社の経営に関する意思決定である「業務の執行」と「職務の執行」とは異なる概念であると考えられています。
 特に社外取締役又は非業務執行取締役であるかどうかを検討する上で、「業務執行」とは何か?という判断が非常に困難な場合も少なくありません。
 会社法362条4項各号において、重要な財産の処分など、重要な業務執行の決定は取締役会の承認を要するとし、重要な業務執行の内容を例示列挙していますが、業務執行の範囲は、これに限られません。
 一般的には、「業務の執行」とは、当該会社の何かしらの事務を行うことではなく、会社の事業目的で掲げた事業の具体的活動(営業・企画・販売・実行など)に関わったことを意味すると考えられます。
その上で、自社の事業に照らして個別具体的に判断すべきでしょう。

 3.責任限定契約の変更手続と登記

 本改正に伴い、自社でも責任限定契約の対象範囲を拡大する場合、その旨の定款変更手続が必要です。
 上場企業の場合であれば、株主総会の開催が容易では無いため、役員の入れ替え等もある改選期の定時株主総会において、定款変更の必要性も含め検討をし、必要であれば定款変更決議を行うのが宜しいかと考えます。
 定款変更決議により責任限定契約の対象範囲を拡大した場合には、その旨の変更登記も必要です。

 4.社外取締役の登記の改正

 責任限定契約の対象範囲が拡大されたことによって、非業務執行取締役も対象となったことから、責任限定契約を締結している社外取締役について、社外取締役である旨を登記簿上公示する意味がなくなりました。
 そのため、本改正において、責任限定契約を締結している社外取締役につき、社外である旨を登記することができなくなりました(旧会社法911条3項25号の削除)。
 したがって、今後、社外取締役として選任された場合であっても、監査等委員会設置会社である場合など一定の場合を除き、社外取締役である旨は登記することができなくなりました。単なる取締役として登記されます。
 この点、本改正時点で社外取締役である旨の登記がされている取締役について、社外である旨の抹消登記までは不要ですが(会社法改正附則22条2項)、本事例のように、本改正後に社外取締役として再任された場合には、再任登記をする際に、社外である旨の登記をせずに、単なる取締役として登記する必要があります。

 そのため、多くの企業では、登記簿を見るだけでは、当該取締役が社外であるかどうかを判別することが出来なくなってしまったため、企業側の意見として、不都合であるという声も聞こえています。
 その場合には、監査等委員会設置会社に移行すれば、社外取締役である旨の登記をすることも可能になりますので、それだけを理由に監査等委員会設置会社に移行することは無いかと考えますが、検討材料の一要素にはなり得るかと思われます。

 5.当事務所に依頼することのメリット

 責任限定契約の問題だけでなく、改正後の社外役員の要件や監査等委員会設置会社への移行の必要性など、本改正の影響について慎重に検討する必要があり、弁護士に依頼・相談すべき事項が多々あります。
 当事務所であれば、弁護士と司法書士がそれぞれの専門分野の観点から、ワンストップサービスを実践しているというメリットがあります。
 本事例に限らず、本改正の影響についてお悩みの企業がありましたら、お気軽にご相談ください。弁護士報酬・司法書士報酬については、当事務所のHPをご参照ください。

以 上
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