過去の新法・新判例

2020年07月01日

「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」の公表(経済産業省2020年2月26日公表)

弁護士 大村 健

1 はじめに


 経済産業省は、2020年2月26日に、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「本ガイド」といいます。)を公表しました1
 ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会を開催しつつ、当該リアル株主総会の場に在所しない株主についても、インターネット等の手段を用いて遠隔地からこれに参加または出席することを許容する株主総会をいいます。
 2019年12月に成立した改正会社法で導入された「株主総会資料の電子提供制度」とともに株主総会の電子化に資する制度となっています。
 本ガイドは、ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施を検討する企業のために、その法的・実務的論点ごとの具体的な実施方法や、その根拠となる考え方を示しています2


2 ハイブリット型バーチャル株主総会


 ハイブリット型バーチャル株主総会を実施することにより、遠隔地に居住する株主や体の不自由な株主等が株主総会へ参加または出席することが容易になることや同一日時に開催される複数の株主総会に参加または出席することができるというメリットがあります。
 また、新型コロナウィルス感染症対策としても意義のある制度であると思われます。
 その他、株主の株主総会への出席を容易にし、株主との対話を促進する効果も想定され、コーポレートガバナンス・コード原則1-2で規定する「上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを認識し、株主の視点に立って、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである」ことに資するものとも考えられます。

 インターネット等の手段を活用する方法としては、リアル株主総会を開催せず、取締役や監査役等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するバーチャルオンリー型株主総会も想定されるところですが、会社法上、株主総会を招集する場合に定めなければならない事項の一つとして「株主総会の」「場所」がある(会社法第298条第1項第1号)現行法の建前からすると取り得ない方法となります。

 ハイブリッド型バーチャル株主総会の類型としては、インターネット等の手段を用いた株主総会への関与が法律上の「出席」として扱われるか否かによって、「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」と「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」に分類されています(以下、インターネット等の手段を用いて株主総会へ参加した株主を「バーチャル参加株主」、出席した株主を「バーチャル出席株主」といいます。)。
 これらを図示すると以下の通りです(本ガイド5頁)。



3 ハイブリット参加型バーチャル株主総会


 (1)メリット


 ハイブリット参加型バーチャル株主総会のメリットとして、以下の5点が挙げられます(本ガイド7頁)。

・遠方株主の株主総会参加・傍聴機会の拡大。
・複数の株主総会を傍聴することが容易になる。
・参加方法の多様化による株主重視の姿勢をアピール。
・株主総会の透明性の向上。
・情報開示の充実。


 その他、体の不自由な株主の株主総会への参加や傍聴機会が拡大することになります。また、後述する出席型と比較して、導入が容易であるという点が挙げられます。

 (2)デメリット(留意事項)


 他方で、留意事項として、以下の3点が挙げられます(本ガイド7頁)。

・円滑なインターネット等の手段による参加に向けた環境整備が必要。
・株主がインターネット等を活用可能であることが前提。
・肖像権等への配慮(ただし、株主に限定して配信した場合には、肖像権等の問題が生じにくく、より臨場感の増した配信が可能。)


 その他、バーチャル参加株主は、株主総会に出席しているとは言えないため、会社法上、株主総会において出席した株主により行うことが認められている質問(会社法第314条)や動議(会社法第304条等)を行うことはできません。
 しかしながら、日本の大多数の会社では、機関投資家による議決権行使書の提出等により、株主総会を開催する前に、議案の賛否についての結論が事実上判明している中で、株主総会当日に参加する株主は、質問や動議を行いたいと考えるよりも、経営陣の顔を見に行く、経営者の声や将来の事業戦略を直に聞くことに意味を見出している場合が多いと言われていますので、これらの点は、それほど重要な問題ではないとも考えられます。
 また、参加型では、バーチャル参加株主が議決権を行使すること(会社法第308条第1項等)もできませんので、その旨及び書面または電磁的方法によって事前に議決権を行使するよう招集通知等で告知することが必要となります。

 なお、参加型では、バーチャル参加株主からのコメント等を受け付けることは否定されていません。それに対する対応としては、本ガイドでは以下の4点が挙げられています。

① リアル株主総会の開催中に紹介・回答
 多くの株主の関心が高いと思われるコメント等について、事業報告や議案に係る役員等の説明や、その後の質疑において、リアル出席株主との質疑の状況もふまえつつ、議長の裁量で議事運営上可能な範囲で紹介し、回答する。
② 株主総会終了後に紹介・回答
 株主総会終了後に、インターネット等の手段により参加した株主によるコメント等を紹介し、回答する。例えば、株主総会後に開催される株主懇談会等の場を活用することも考えられる。
③ 後日HPで紹介・回答
 後日、会社のHP等で回答とともに紹介する。例えば、後日HP等で動画を公開する場合などに併せて掲載するといった工夫も考えられる。
④ 事前に受け付け、株主総会の開催中に紹介・回答
株主総会開催中ではなく、事前にコメント等を受付け、当日の会議における取締役等からの説明の中で、それらに回答する。


 後述する通り、出席型ではバーチャル出席株主の質問への対応で、議長や事務局への過分な負担がかかり、実施するに際して非常に重要な論点ととなりそうですが、参加型でも①の方法による実施となると、事務局や議長の実質的な負担は出席型と変わらないのではないかと考えられます。
 そして、その負担を回避するため出席型でも一定程度バーチャル出席株主の質問を事前に受け付けた質問に制限する方向で実施する場合(ただし、これが出席型と言えるか疑問の余地があります。)には、④とも変わらなくなってくると思われます。

 参加型は、株主に対して経営者自らが情報発信するなど、株主が会社の経営を理解する有効な機会として、積極的に評価されると考えられます。また、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会を実施することにより、株主にとって参加機会が広がるとともに、会社にとっては会場の選択肢を広げる可能性があります。
 質問対応として、②や③を選択されるのであれば(場合によっては④も)、事務局や議長の負担も軽く、株主数が多い企業でも有用な方法であると考えられます。

 (3)実例


 本年6月総会までの段階では、後述する出席型が9社、参加型が79社と後者が圧倒的に多いと報道されています。
 出席型はリアルタイムでの議決権行使を行えるような通信環境の整備が必要になる分、導入が簡単ではないのに対し、準備や環境整備の面ではハードルの低い参加型を実施する企業がここまで少ない背景には、国内外で起きたロックダウンによる外出禁止や外出自粛の影響で監査法人による監査が遅れ、担当者はその対応を優先したことにより、IT化まで手が回らず二の次となったということのようです3

 当事務所でも参加型を実施した複数のクライアント企業で対応する機会を得ました。いずれの企業も肖像権やプライバシー権威配慮して、役員席に限定して、撮影し、配信していました。
 これまで行っていた、株主総会のライブ配信の延長で実施した会社もありましたので、後述する出席型よりも実施のハードルが低いのは間違いないと思いますし、今後、導入する上場企業は増えていくと思われます。


4 ハイブリット出席型バーチャル株主総会


 (1)メリット


 ハイブリット出席型バーチャル株主総会のメリットとして、以下の8点が挙げられます(本ガイド7頁)。

・遠方株主の出席機会の拡大。
・複数の株主総会に出席することが容易になる。
・株主総会での質疑等を踏まえた議決権の行使が可能となる。
・質問の形態が広がることにより、株主総会における議論(対話)が深まる。
・個人株主の議決権行使の活性化につながる可能性。
・株主総会の透明性の向上
・出席方法の多様化による株主重視の姿勢をアピール。
・情報開示の充実。


 その他、体の不自由な株主の株主総会出席機会が拡大することになります。

 (2)デメリット(留意事項)


 他方で、留意事項として、以下の6点が挙げられます(本ガイド7頁)。

・質問の選別による議事の恣意的な運用につながる可能性。
・円滑なバーチャル出席に向けた関係者等との調整やシステム活用等の環境整備。
・株主がインターネット等を活用可能であることが前提。
・どのような場合に決議取り消し事由にあたるかについての経験則の不足。
・濫用的な質問が増加する可能性。
・事前の議決権行使に係る株主のインセンティブが低下し、当日の議決権行使がなされない結果、議決権行使率が下がる可能性。


 その他、会社所定のウェブサイトに事前に株主に通知したID及びパスワードを用いてログインし、会場の映像の配信を受け、インターネットにより質問及び議決権行使を行うことが通常の方法であり、こういったなりすまし防止策をとらなければならないことが挙げられます。ブロックチェーンを活用する会社もあるようです4
 また、バーチャル出席株主による動議の提出は、提案内容についての趣旨確認等を実施することや、そのためのシステム的な体制を整えることは、困難であるため、リアル出席株主ののみを取り上げ、動議の採決にあたっては、バーチャル出席株主は、実質的動議については棄権、手続的動議については欠席として取扱うということも挙げられます。

 また、参加型では、バーチャル参加株主が議決権を行使すること(会社法第308条第1項等)もできませんので、その旨及び書面または電磁的方法によって事前に議決権を行使するよう招集通知等で告知することが必要となります。

 さらに、本ガイド上、「円滑なバーチャル出席に向けた関係者等との調整やシステム活用等の環境整備」として、具体的には、会社は、次の対策を取ることが必要と考えられています。

・会社が経済合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策。
・招集通知やログイン画面における、バーチャル出席を選択した場合に通信障害が起こりうることの告知。
・株主が株主総会にアクセスするために必要となる環境(通信速度、OSやアプリケーション等)や、アクセスするための手順についての通知。


 (3)実例


 ハイブリット出席型バーチャル株主総会で開催した会社は、5月総会までは4社ほどに留まり、6月総会では9社が取り組むとのことです5。当初の想定通り、ほんの一部の企業に過ぎません。
 当事務所のクライアントでも実施した企業は1社のみで、当該会社では、予期したことではありましたが、議決権行使数も質問数も前年比で飛躍的に増加し、株主に対するアンケート結果ではおおむね良好という結果となりました。
 他方、インターネットで受け付けた質問を他の質問と同質のものはまとめたり、質問になっていないものや回答に値しないものを除いたりしなければならず、また、質問の容易さゆえにその数も増加し、明らかに事務局の負担が増加しました。さらに、議長も例年と比較して多数の質問に回答したため、同じく負担が増加しました。
 これらは、質問数や質問の文字数を限定することを事前に告知した上で、実行したり、他の株主の質問を閲覧できる形にして重複した内容の質問をしないようにさせたり、質問の期限を設ける、例えば総会開催までとすることで対処していくことが考えられます。ただ、質問の期限を設けるといった場合には、果たして「出席」したと言えるかは疑問が残ります。
 株主数が多い株主総会では負担が著しく増大することになりますので、そういった株主総会では出席型は不向きかもしれません。参加型で実施してみて、慣れてきたら出席型に移行するのも一考かと思います。


5 さいごに


 当事務所では、幸いにして、本年6月総会までに、参加型への対応と出席型への対応のいずれも経験することができました。新型コロナウィルス対策の一環として、今後の株主総会運営では、ハイブリット型バーチャル株主総会(特に参加型)は広がってくると思われます。
 こういった形態の株主総会をお考えの上場企業は、ぜひ当事務所までご相談ください。



以 上
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    1経済産業省HP(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf/

    2経済産業省HP(https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html

    3日経ビジネスオンライン2020年6月17日(https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/061700108/

    4アステリア株式会社HP(https://www.asteria.com/jp/news/press/2020/06/08_01.php

    5共同通信2020年6月13日(https://this.kiji.is/644455057572676705?c=65699763097731077