過去の新法・新判例

2020年03月02日

パワハラ防止法の成立(パワハラの定義と企業のパワハラ防止措置義務)

弁護士 山本 佑

1 はじめに

 2019年5月29日、いわゆるパワハラ防止法が成立しました。
 セクシャルハラスメントや、マタニティハラスメントについては、男女雇用機会均等法や育児休業法において各種の定めがありましたが、パワーハラスメント(以下「パワハラ」)については、この法律により初めて規定されました。
 今後、パワハラについては、パワハラ防止法が適用されていくことになります。パワハラ防止法は、2020年6月1日に施行されますが、中小企業については、2022年3月31日までは努力義務とされます。
 大企業か中小企業かは、以下の基準に従って分類されますので、自社がいずれに該当するかを把握してください。


業種 資本金の額又は出資の総額 または 常時使用する従業員の数
製造業その他 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
小売業 5千万円以下 50人以下
サービス業 5千万円以下 100人以下

 本稿では、パワハラ防止法の規制のうち、主要な内容である(Ⅰ)パワハラの定義及び(Ⅱ)パワハラの防止措置義務について、以下、その概略を説明していきます。

2 パワハラの定義(前記Ⅰ)

(1)パワハラの要素

 パワハラは、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義されました(パワハラ防止法30条の2第1項)

優越的な関係を背景とした
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

(2)各要素の具体例

 パワハラ防止法指針では、具体的な各要素の例として、それぞれ次のように示されています。
 【① 優越的な関係を背景とした】について
  ・職務上の地位が上位の者による言動
  ・同僚又は部下による言動で、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
  ・同僚又は部下からの集団による行為で、抵抗等が困難であるもの

 【② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により】について
  ・業務上明らかに必要性がない、又は業務の目的を大きく逸脱した言動
  ・業務を遂行するための手段として不適当な言動
  ・行為の回数、行為者の数等、その態様等が社会通念上許容される範囲を超える言動

  (※)判断のポイント

 言動の目的や状況、業種・業態、業務の内容・性質、等、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。


 【③ 就業環境を害すること】について
  ・労働者が苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の
支障が生じること


  (※)判断のポイント

 「平均的な労働者」を基準とし、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるか否かで判断をします。


(3)パワハラの類型

 以上の要素を斟酌しても、パワハラの状況は多様であり、明確な分水嶺はないため、パワハラ防止指針では、代表的な類型を次の6つに整理しています(限定列挙ではありません)。
 また、パワハラ防止指針では、各パワハラ類型の該当例に加え、非該当例も示されていますが、あくまでも個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ることに留意する必要があります。

● 身体的な攻撃(暴行・傷害)

該当例

殴打、足蹴り、物を投げつけること

非該当例

誤ってぶつかること

● 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

該当例

人格を否定する言動、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動

業務上必要な以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと

他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること

非該当例

遅刻など社会的ルールを欠いた言動に対し、再三注意しても改善されない場合に一定程度強く注意をすること

業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること

● 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

該当例

意に沿わない労働者の仕事を外し、長期間にわたり、別室への隔離や、自宅研修をさせること

同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること

非該当例

新規採用者の育成のため、短期間集中的に別室で研修等の教育をすること

懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、一時的に別室で必要な研修を受けさせること

● 過大な要求(明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

該当例

長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命ずること

新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責すること

業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること

非該当例

育成目的で、現状よりも少し高いレベルの業務を任せること

繁忙期に、業務上の必要性から、通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること

● 過小な要求(合理性なく能力や経験とかけ離れた仕事の命令や仕事を与えないこと)

該当例

退職目的で管理職に誰でも遂行可能な業務をさせること

嫌がらせ目的で仕事を与えないこと

非該当例

能力に応じて一定程度業務内容や業務量を軽減すること

● 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

該当例

職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること

性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、了解を得ずに他の労働者に暴露すること

非該当例

配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと

本人の了解を得て、機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと


3 パワハラの防止措置義務

 パワハラ防止法に基づき、企業は、パワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じる必要があります。具体的に必要な措置は、パワハラ防止法指針に基づき、大きく分けて4つが規定されています。
 なお、各措置を行っていると認められている具体例が、パワハラ防止指針で例示されております。本稿では割愛しますが、適宜ご参照ください。

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

パワハラの内容やパワハラ禁止の方針を明確化し、周知・啓発すること

パワハラ行為者について厳正に対処すること及び対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発すること

(2)相談(苦情を含む)に適切に対応するための体制整備

相談窓口を設置し、周知すること

相談窓口の担当者が、相談の内容や状況に適切に対応できるようにすること

相談窓口で、相談者が委縮したり相談を躊躇したりしないよう、相談者の心身等に配慮しながら、パワハラに該当するか微妙な場合でも適切に対応すること

(3)パワハラ発生後の迅速かつ適切な対応   

事実関係を迅速かつ正確に確認すること

被害者に対する適正な配慮

パワハラ行為者に対して必要な措置を適正に行うこと

パワハラ再発防止に向けた措置を講じること

(4)他の措置と併せて講じるべき措置

相談者やパワハラ行為者等のプライバシー保護

相談やパワハラに関する訴え等を理由として、不利益な取り扱いをしないこと


 パワハラ防止法に基づき、企業は、パワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じる必要があります。具体的に必要な措置は、パワハラ防止法指針に基づき、大きく分けて4つが規定されています。
 なお、各措置を行っていると認められている具体例が、パワハラ防止指針で例示されております。本稿では割愛しますが、適宜ご参照ください。

4 最後に


 パワハラに関する法規制は、パワハラ防止法指針において一定の具体化がされているものの、パワハラに該当するか否か、また、パワハラの防止措置としてどこまで行うべきか等は明らかではありません。厚労省から、一定の対応マニュアルなどは示されているものの、これのみで万全の対策を行うことは難しいと思われます。
 具体的な対応についてご懸念等がございましたら、お気軽にご相談ください。


以上
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    正式には、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(旧雇用対策法)
    中小企業の範囲について、中小企業庁HP
    https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html )ご参照

    事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)
    https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/pawahara_soti.pdf

    厚生労働省のサイト「あかるい職場応援団」において、「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」その他、関係資料が掲載されています
    https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/