過去の新法・新判例

2020年01月06日

改正会社法

弁護士 末長 祐

1 はじめに


 2019年12月4日、「会社法の一部を改正する法律」(以下「改正会社法」といいます)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」が成立しました(2019年12月11日公布)。改正会社法は、一部の事項に関するもの(株主総会資料の電子提供制度や会社の支店の所在地における登記の廃止)を除き、公布の日から1年6月を範囲内において政令で定める日から施行されます(附則1条)。
 本稿では、改正会社法に関する内容のうち、実務上で重要と思われる点に絞り、その概要を解説したいと思います。


2 株主総会に関する規律の見直し


 (1)株主総会資料の電子提供制度の創設(改正会社法325条の2~325条の5)


株主総会資料をウェブサイト(自社ウェブサイトなど)に掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法により、株主総会資料を株主に提供することができる制度が新たに設けられました。


 現行法上、株主総会資料の提供は、書面によることが原則とされており、インターネットを利用する方法によるためには、株主の個別の承諾を得ることを要することとされています(会社法299条2項、3項、301条1項、2項、302条1項、2項、437条、会社法施行規則133条2項、会社計算規則133条2項等)。
 株主総会資料の印刷や郵送が不要となれば、株式会社は、株主に対し、従来よりも早期に充実した内容の株主総会資料を提供することができるようになります。また、株主が議案や株主総会資料の内容を十分に検討する期間を確保することも期待されます。


 (2)株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備(改正会社法305条4項、5項)


株主提案権の濫用的な行使を制限するため、株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数を10までとする制限が設けられました1


 近年、一人の株主が膨大な数の議案を提案するなど、株主提案権の濫用的な行使事例が発生し、権利の濫用と認められた裁判例がありました。株主提案権が濫用的に行使されることにより、株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ、株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり、株式会社における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加したりするなどの弊害が起こり得る、と指摘されていました。
 改正会社法の施行により、これらの弊害が低減することが期待されます。


3 取締役等に関する規律の見直し


 (1)取締役の報酬に関する規律の見直し


①上場会社等において、取締役の個人別の報酬の内容が株主総会で決定されない場合には、取締役会は、その決
 定方針を定め、その概要等を開示しなければならないものとされました(改正会社法361条7項)。

②取締役の報酬として株式等を付与する場合の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限が加えられました(改
 正会社法361条1項3号)。

③上場会社が取締役の報酬等として株式を発行等する場合には、金銭の払込み等を要しないものとされました
 (改正会社法202条の2、236条3項、4項、361条1項3号~5号、409条3項)。


 現行法上、指名委員会等設置会社以外の株式会社においては、取締役の報酬等の額等を定款又は株主総会の決議によって定めることとされています(会社法361条1項)。もっとも、監査等委員である取締役以外の取締役の報酬等については、株主総会の決議によってその全員の報酬等の総額の最高限度のみを定めて、その枠内で各取締役に対する配分の決定を取締役会に委任することができる、と解釈されています。
 しかし、現在の解釈については、お手盛り防止という趣旨からして問題があるのではないかという指摘もされていました。また、現行法上、取締役に対して、いわゆるインセンティブ報酬を付与する場合については、会社法における取締役の報酬等に関する規律がどのように適用されることとなるかが必ずしも明確でないという指摘もされていました。
 取締役の報酬等は、取締役に対して職務を適切に執行するインセンティブを付与するための手段となり得るものであることから、改正会社法においては、取締役の報酬等がそのような手段として適切に機能するものとなるように、その手続きの透明化が図られました。


 (2)会社補償や役員等賠償責任保険契約(D&O保険)に関する規律の整備(改正会社法430条の2~430条の3)


 役員等の職務の執行の適正さを確保するため、株式会社が会社補償をするために必要な手続規定や会社補償をすることができる費用等の範囲に関する規定や、株式会社が役員等を被保険者とする会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するために必要な手続規定等が新たに設けられました。


 役員等の責任を追及する訴えが提起された場合等に、株式会社が費用や賠償金を補償すること(会社補償)や、株式会社が役員等を被保険者とする会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入することについては、利益相反の問題が生じ得ます。しかし、現行法上は、会社補償やD&O保険への加入について、直接に定めた規律はありません。
 そこで、改正会社法においては、会社補償D&O保険にかかる契約を締結するための手続を明確にして、会社補償やD&O保険が適切に運用されるように必要な規律が整備されました。


 (3)業務執行の社外取締役への委託(改正会社法348条の2)


 株式会社と取締役との利益相反状況がある場合等において取締役会が社外取締役に委託した業務については、社外取締役がこれを執行したとしても、社外性を失わないものとされました。


 現行法上、社外取締役の要件の一つとして、業務執行取締役等2でないことが求められており(会社法2条15号イ)、取締役が「当該株式会社の業務を執行した」場合には、社外取締役の要件を満たさないこととなります。
 現在の実務上、株式会社と業務執行者その他の利害関係者との利益相反が問題となる場面(たとえば、マネジメント・バイアウトや親子会社間の取引を行う場合)において、実務上、取引の公正さを担保する措置として、対象会社の社外取締役が、対象会社の独立委員会の委員として、その取引の検討をするにとどまらず、交渉等の対外的行為を伴う活動をする場合などがあります。かかる利益相反の問題を回避する観点から、社外取締役がこのような行為をすることは、一般的に会社法の趣旨にかなうと考えられます。にもかかわらず、このような行為をしたことが「業務を執行した」に該当するとすれば、当該行為をした取締役は、社外取締役の要件に該当しないこととなります。
 改正会社法においては、こうした解釈上の疑問を解消し、社外取締役が合理的に活動することが妨げられないようにする方策の1つとして、社外取締役に期待される行為について、いわゆるセーフ・ハーバー・ルールが整備されました。


 (4)社外取締役の設置の義務付け(改正会社法327条の2)


 我が国の資本市場が全体として信頼される環境を整備するため、上場会社等に社外取締役を置くことを義務付けることとされました。


 現行法上、事業年度の末日において上場会社等 が社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければならず(会社法327条の2)、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告及び株主総会参考書類の内容とし、株主に開示することとされていました(会社法施行規則74条の21項、124条2項)。
 しかし、改正会社法の施行により、上場会社等は、例外なく社外取締役を置くことを義務付けることとなります。もっとも、現在、東証上場会社の98.4%(市場一部においては99.9%)が社外取締役を設置しているため、実務上大きな混乱はないと思われます。


4 社債の管理等に関する規律の見直し


 (1)社債の管理に関する規律の見直し(714条の2~714条の4、737条1項)


 各社債の金額が1億円以上である場合などを対象として、会社から委託を受けた第三者が、社債権者による社債の管理の補助を行う制度(社債管理補助者制度)が創設されました。


 現行法上、担保付社債を発行する場合には、受託会社を定めなければならないとされています(担保付社債信託法2条)。また、無担保社債を発行する場合であっても、原則として社債管理者を定め、社債権者の保護のために、社債の管理を行うことを委託しなければならないこととされています(会社法702条本文)。
 しかし、現行法上、社債管理者の権限が広く、責任が重いことを原因として、なり手の確保が難しく、利用コストも高くなるため、実際には、我が国において会社が社債を公募により発行する場合には、例外規定(同条ただし書)に基づき、社債管理者を定めていないことが多いと指摘されていました。
 改正会社法の施行により、社債の管理を自ら行う社債権者の負担を軽減することが期待されます。


 (2)株式交付制度の創設(改正会社法2条32の2号、774条の2~774条の11、816条の2~816条の10)


 企業買収に関する手続の合理化を図るため、完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度(株式交付制度)が新たに設けられました。


 現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がありますが、完全子会社とする場合でなければ利用することができません4。他方、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、原則として検査役の調査が必要となる(会社法207条)など、手続が複雑でコストが掛かるという指摘がされています。
 このような中、改正会社法が施行されることで、M&Aに関するスキームの選択肢が広がることとなります。特に、スタートアップ企業は、大企業と比較すると資金力に劣ることから、資金を対価とせずにM&Aをすることができる株式交付制度の導入により、スタートアップ企業によるM&Aが促進されることが期待されます5


5 おわりに


 本稿では、改正会社法について、企業実務において重要と思われる改正点について解説をいたしました。ご不明な点などがございましたら、お気軽にお問い合わせください。



以 上
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    1法務省提出の改正法律案においては、株主が「専ら人の名誉を侵害し、人を侮辱し、若しくは困惑させ、又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で」株主提案を行った場合などには、これを拒絶することができるとする規定も設けられておりましたが、株主提案権が過度に制約されるなどとして、衆議院本会議において削除されました。もっとも、改正会社法においても、株主提案権の行使が権利濫用に当たる場合には、当該株主提案を拒絶することは可能です。

    2当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の363条1項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいいます。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人をいいます。

    3監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの。

    4株対価M&Aは、産業競争力競争法32条に基づく会社法の特例措置を利用して行うこともできますが、事業再編計画(同法23条1項)の作成が煩瑣であることもあり、その活用はあまり進んでいません。

    5ただし、株式交付制度が有用なものとなるためには、株式交付時における対象会社の株主の譲渡益課税の繰延措置が認められることが必須と考えられます。この点については、今後の税制改正に注目です。