過去の新法・新判例

2019年12月01日

改正民法シリーズ番外編≪経過措置≫

弁護士 前野 孝太朗

1 はじめに


 2020年4月1日に迫った、改正民法の施行。
 当事務所のマンスリーコラムでは、半年ほど、改正民法の重要項目を解説するシリーズをお送りしておりますが、2020年4月1日をまたぐ法律関係については、どのように改正民法が適用されるかご存じでしょうか?
 改正内容はもちろん重要ですが、このような施行前後の適用関係も抑えておくことも重要です。

 そこで、今回は、番外編として、施行前後の適用関係に関するルール、いわゆる経過措置について取り上げます。
 以下、改正後の民法を「新法」、改正前の民法を「旧法」として、ご説明します。


2 概要


 まず、大原則として、施行日前に締結された契約や、施行日前に生じた債権債務には、旧法が適用されます。
 これは、一般に、取引当事者は、「法律行為や意思表示をした時点において通用している法令が適用される」と考えるのが通常であるためです。

 しかし、その例外として、一部の改正規定については、原則とは異なる考え方をし、新法の適用範囲を拡張しているものがあります。
 具体的には以下の通りです。
 ①時効に関する経過措置
 ②法定利率に関する経過措置
 ③弁済の充当・相殺の充当に関する経過措置
 ④定型約款に関する経過措置
 ⑤賃借人による妨害停止等請求権に関する経過措置
 ⑥不法行為による損害賠償請求権に関する経過措置

 従いまして、新法の適用関係につきましては、「施行日前に締結された契約や債権債務には旧法を適用。但し、ごく一部の例外あり」と理解しておけば、一先ず問題ありません。


3 詳論


ここから、先程挙げた例外のうち、特に重要なものについて、ご説明します。


(1)①時効に関する経過措置・⑥不法行為による損害賠償請求権に関する経過措置


ア 時効の中断・停止


 時効については、施行日前に生じた債権であっても、施行日以後に「更新・完成猶予」の事由が生じた場合は、新法が適用されます(附則第10条第2項、第3項)。
 従いまして、2020年4月より前に生じた債権であっても、2020年4月以降は、書面による協議の合意をすることで、時効の完成猶予を行うことも可能ということになります。

 このような例外が設けられた趣旨ですが、改正民法シリーズ①《消滅時効》 にてご説明しましたとおり、新法では、時効の中断・停止については、時効の更新・完成猶予という用語により、概念が整理されました。
 そして、「中断・停止」と「更新・完成猶予」という二つの制度が長期間併存しますと、時効をめぐる法律関係が複雑化しますので、新法の「更新・完成猶予」はできるだけ幅広く適用するべきと考えられます。
 そのため、上記のように、施行日前に生じた債権にも拡張して、新法を適用することとされています。


イ 消滅時効期間


 通常の消滅時効については、原則通り、施行日前に債権が生じた場合については、旧法が適用され、施行日後に債権が生じた場合には、新法が適用されます(附則第10条第4項)1

 ただし、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効関係で、以下の2点の例外があります。
新法では、不法行為の時から20年の不行使による権利消滅が、いわゆる除斥期間ではなく、消滅時効期間とされました。

この点に関しては、施行日時点で除斥期間が経過していた場合を除き、消滅時効期間と扱われることになりました。

新法では、人の生命・身体の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権の短期の権利消滅期間を5年とする改正がありました。

この点に関しては、新法の施行日において、消滅時効が既に完成していた場合を除き、期間を5年とする新法が適用されることになりました。


 これら2つの例外が設けられた理由としては、これらの点の改正の趣旨である「被害者保護」の観点から、より被害者に有利になるよう、新法を拡張して適用することとしたと説明されています。


(2)②法定利率に関する経過措置


 まず、施行日前に利息が生じた場合には、元本債権については旧法(年5%)が適用されます(附則第15条第1項)。
 また、金銭債務の債務不履行における損害賠償額を定める第419条第1項については、施行日前に遅滞の責任を負った場合には、旧法が適用されます。

 いずれも債権の生じた時期ではなく、利息の生じた時期や、遅滞の責任を負った時期を基準としている点にご留意ください。


(3)④定型約款に関する経過措置


 定型約款については、原則が逆転し、旧法の下で締結された契約にかかる定型約款にも、新法が適用されることとなりました(附則第33条第1項)。

 これは、①定型約款に関しては、これまで確立した見解がなかったところに、新法が新たに規律を設けており、新法を適用する方が、当事者の利益に一般的に資すると考えられること、②契約内容を画一化するための定型約款で、締結時期により約款変更の規律が異なると、内容を画一化できず、実務上の不利益があることが理由とされています。

 ただ、旧法の適用を具体的に想定していた当事者も存在しうることから、書面・電磁的記録により反対の意思を表示した場合に限って、旧法が適用されることとなりました(附則第33条第2項、同第3項)。


(4)債権譲渡に関する経過措置


 最後に、原則通りではあるものの、少し留意する必要のある債権譲渡についてもご説明します。

 債権譲渡については、原則通り、施行日前に行われた債権譲渡については、旧法が適用され、施行日後に行われた債権譲渡については新法が適用されます。
 ただ、改正民法シリーズ⑤《債権譲渡》でご説明した通り、 債権譲渡については、譲渡制限特約の効力が変更されています。

 上記のルールからしますと、譲渡制限特約については、旧法下で締結したものであっても、債権譲渡時に新法が施行されていた場合、新法の適用を受けることになり、当事者の予測・期待が害されるのではないかとの疑問が生じます。
 この点は、①新法が適用された場合であっても、債務者は譲渡人に弁済することで免責されるため、特に不利益がないこと、②むしろ、債務者は供託の要件の緩和等により新法の方が旧法より保護される面もあること、③譲渡制限特約を付した時点を新法適用の基準時とすると、資金調達を円滑化するという改正目的を早期に達成することができなくなるおそれがあること、との3つの理由から、譲渡制限特約を付した時点ではなく、債権譲渡の時点を基準時として、新法が適用されることとされました。


4 おわりに


 ここまで経過措置についてご説明しましたが、冒頭に記載した通り、基本的には、「施行日前に締結された契約や債権債務には旧法を適用。但し、ごく一部の例外あり」とご理解いただければ、一先ずは問題ありません。
 企業実務への影響につきましては、これまでの改正民法シリーズをご参照いただければと思いますが、経過措置も含めて、2020年4月前後の契約等では、様々な混乱も生じる可能性があります。
 改正民法の対応については、お早めにご準備いただくことをおすすめいたします。
 当事務所でも、改正民法に対応したリーガルサービスを提供しておりますので、ご懸念等ございましたら、お気軽にご相談ください。



以 上
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    1 契約等の法律行為によって債権が生じた場合、その法律行為がされた時点が新法適用の基準時になりますのでご留意ください。例えば、契約の内容に適合しない目的物を引き渡した場合の損害賠償請求権は、目的物の引渡し時ではなく、契約締結時点が基準となります。